中絶手術の吸引法とは|手術の流れと身体への負担を解説

「中絶手術の吸引法は、どのような方法なのだろう」と不安を抱えていませんか。人工妊娠中絶は母体保護法に基づいて行われる医療行為で、妊娠の週数によって方法が変わります。なかでも吸引法は、妊娠12週未満で用いられる方法の一つで、国際的なガイドラインでもすすめられている術式とされています。

本記事では、中絶手術の吸引法について以下の点を中心に解説します。

吸引法と掻爬法の違いや、受けられる時期と条件

手術前の検査から当日までの流れ

身体にかかる負担やリスクと、検討するときの確認点

中絶手術の吸引法について理解を深めるためにも、参考にしていただければ幸いです。
ぜひ最後までお読みください。

監修医師:
中里 泉(医師)

2008年宮崎大学卒業後、東京都立大久保病院にて初期研修。東京大学医学部付属病院産婦人科に入局。東京大学医学部付属病院、東京北医療センター、JR東京総合病院などの勤務を経て、現在は生殖医療クリニックに勤務。日本産科婦人科学会専門医。

中絶手術における吸引法の基礎知識


吸引法は、人工妊娠中絶で用いられる術式の一つです。ここでは人工妊娠中絶の定義と、術式の違いを解説します。

人工妊娠中絶とは

母体保護法は、人工妊娠中絶を「胎児が、母体外において、生命を保続することのできない時期に、人工的に、胎児及びその附属物を母体外に排出すること」と定めています。日本産婦人科医会も、同じ定義を示したうえで、母体保護法に基づいて実施される必要があると説明しています。

生命を保続できない時期については、現在は妊娠22週未満とされています。この時期を過ぎると、人工妊娠中絶は行えません。

実施できるのは、都道府県の医師会が指定した医師(母体保護法指定医師)に限られます。どの医療機関でも受けられるわけではないため、受診先を選ぶ際は確認が必要です。

なお、妊娠12週未満と12週以降では手続きも異なります。12週以降は死産届の提出が必要になるなど、身体への負担だけでなく手続きの面でも違いが生じます。

中絶手術の吸引法と掻爬法の違い

妊娠12週未満で行う手術には、大きく分けて吸引法と掻爬法(そうはほう)があります。吸引法は、子宮内に細い管を挿入し、陰圧をかけて内容物を吸い出す方法です。掻爬法は、鉗子やキュレットと呼ばれる器具を用いて、子宮内をかき出す方法を指します。

日本産婦人科医会は、吸引法を含む術式について、手術時間が短く、出血量が少なく、疼痛が少ないという特徴を挙げています。WHOや英国のガイドラインでも、この術式がすすめられていると示されています。

同会はまた、日本の集計データにおいて、掻爬法は吸引法と比べて不全流産や子宮穿孔の起こる頻度が上回る傾向にあると説明しています。

実際には、両方を組み合わせて行う医療機関もあります。どの方法を用いるかは、妊娠週数や子宮の状態、医療機関の方針によって判断されます。事前の説明で確認しておきましょう。

吸引法による中絶手術を受けられる時期と条件


人工妊娠中絶には、法律で定められた条件があります。ここでは母体保護法の要件と、吸引法を用いる週数の目安を解説します。

母体保護法が定める人工妊娠中絶の条件と同意

母体保護法第14条は、指定医師が本人と配偶者の同意を得て人工妊娠中絶を行える場合として、二つの要件を挙げています。

妊娠の継続または分娩が身体的または経済的理由により母体の健康を著しく害するおそれのあるもの

暴行もしくは脅迫によって、または抵抗もしくは拒絶することができない間に姦淫されて妊娠したもの

配偶者の同意については例外が定められています。同条第2項は、配偶者が知れないとき、その意思を表示することができないとき、または妊娠後に配偶者が亡くなったときは、本人の同意だけで足りると示しています。

配偶者とは婚姻関係にある相手を指します。婚姻関係にない場合の取り扱いは、医療機関によって説明が異なることがあるため、事前に確認しておくと手続きを進めやすくなります。

未成年の場合の対応も、医療機関に尋ねておきましょう。不安があるときは、受診の段階で相談して構いません。

吸引法を用いる妊娠週数の目安

吸引法は、妊娠12週未満の人工妊娠中絶で用いられる方法です。日本産婦人科医会は、この時期の処置を早期人工流産と呼び、独立した項目として扱っています。

同会は、人工妊娠中絶について妊娠11週までに行うことが望ましいと示しています。週数が進むにつれて子宮が大きくなり、身体への負担も増していくためです。

妊娠12週以降は、子宮収縮薬を使って人工的に陣痛を起こす方法へと切り替わります。入院が必要になるほか、手続きの面でも対応が変わります。

週数の判断は、超音波検査による胎児の大きさの計測で行われます。自身の記憶による最終月経の日付と実際の週数がずれる場合もあるため、早めの受診が選択肢を広げます。

吸引法による中絶手術の流れ


手術は、事前の診察から当日まで段階を踏んで進みます。ここでは一連の流れを順に解説します。

手術前に受ける診察と検査

初診では、問診と内診に加えて超音波検査が行われます。子宮内に妊娠が成立しているかを確認し、妊娠週数を判断するためです。子宮外妊娠が疑われる場合は、対応が大きく変わります。

血液検査も行われます。貧血の有無や血液型、血液が固まる働き、感染症の有無などを調べ、手術と麻酔を安全に進められるかを確認します。

持病がある場合や、常用している薬がある場合は、忘れずに申し出ましょう。血液をさらさらにする薬を使っている場合など、事前の調整が必要になることがあります。

手術の方法やリスク、費用についての説明を受け、同意書に署名する手続きも初診から手術前までの間に行われます。疑問が残る点は、この段階で確認しておきましょう。

子宮口を広げる前処置

手術の前には、子宮の入り口である子宮頸管を広げる前処置が行われます。急に広げると裂傷が生じるおそれがあるため、時間をかけて少しずつ広げる方法が用いられます。

日本産婦人科医会は、吸湿性拡張剤による緩速拡張について説明しています。海藻由来のラミナリアは、挿入から12時間で径がほぼ広がりきるとされ、24時間以上続けて挿入したままにするのは避けるよう示されています。

合成の製品もあります。同会によると、ダイラパンやラミセルは4時間で径が広がりきるとされ、前処置にかかる時間が短く済みます。

前処置は、手術の前日または当日に行われます。処置の際には痛みや違和感を伴うことがあるため、不安があれば事前に伝えておきましょう。

吸引法による手術当日の流れ

当日は、体温や血圧などの確認を受けてから手術室へ移動します。麻酔について、日本産婦人科医会は傍頸管ブロックでも静脈麻酔でもよいとしたうえで、日本では静脈麻酔による鎮静が主流だと説明しています。

麻酔がかかった後、子宮内に管を入れ、陰圧をかけて内容物を吸い出します。手術自体にかかる時間は10分程度とされ、麻酔から覚めるまでを含めても、日帰りで対応する医療機関が少なくありません。

手術後は回復室で休み、麻酔の影響が抜けたことを確認してから帰宅します。ふらつきが残る場合があるため、車の運転は避け、付き添いの方と一緒に帰ると安心です。

帰宅後に強い腹痛や大量の出血、発熱がみられた場合は、すぐに連絡するよう案内されます。連絡先を確認しておきましょう。

吸引法の中絶手術で身体にかかる負担とリスク


手術である以上、合併症の可能性はゼロではありません。ここではリスクと、術式がすすめられる理由を解説します。

吸引法と掻爬法で起こりうる合併症の違い

日本産婦人科医会は、早期人工流産で起こりうる合併症として、子宮穿孔、頸管裂傷、不全流産、術後感染を挙げています。子宮穿孔は器具が子宮の壁を突き抜けてしまう状態で、頸管の方向をよく確認し無理な力を加えないことが重要だと示されています。

不全流産は、子宮内に組織が残ってしまう状態です。出血が続いたり感染につながったりする場合があり、追加の処置が必要になることもあります。

同会によると、日本の集計データでは、掻爬法は吸引法と比べて不全流産や子宮穿孔の起こる頻度が上回る傾向にあるとされています。器具を直接動かして掻き出すか、陰圧で吸い出すかという操作の違いが背景にあると考えられます。

いずれの方法でも合併症が起こらないわけではありません。事前の説明を受け、術後の経過にも注意を払いましょう。

吸引法がWHOなどで推奨されている理由

日本産婦人科医会は、吸引法を含む術式について、手術時間が短い、出血量が少ない、疼痛が少ないという利点を挙げ、WHOや英国のガイドラインで推奨されていると説明しています。

手術時間が短ければ、麻酔にさらされる時間も短くなります。出血量が抑えられれば、貧血の悪化を防ぐことにもつながります。疼痛が少ない点は、術後の回復にも関わります。

合併症の頻度が低い傾向にある点も、推奨の理由として挙げられています。子宮の壁を傷つけるリスクを抑えられれば、その後の妊娠への影響も少なくできると考えられています。

日本でも吸引法を選ぶ医療機関が増えてきました。どの方法で行うのかは、事前の説明で確認しておきましょう。

中絶手術が将来の妊娠に及ぼす影響

将来の妊娠への影響を心配する方もいるでしょう。合併症なく経過した場合、その後の妊娠に影響が残ることはまれだと考えられています。

一方で、子宮穿孔や術後感染が起こった場合には、子宮や卵管に影響が及ぶ可能性があります。感染が骨盤内に広がると、卵管の通過性に影響して不妊につながることもあるとされています。

こうした点からも、合併症の頻度が低い術式を選び、術後の異常に早く気付くことが大切です。発熱や強い痛み、出血が続く場合は、我慢せず受診しましょう。

次の妊娠を考えている場合は、時期について担当の医師に相談してください。月経が戻る時期には個人差があります。

吸引法の中絶手術を検討するときの確認点


手術の内容以外にも、確認しておきたい点があります。ここでは費用や術後の生活、相談先を解説します。

中絶手術の費用が公的医療保険の対象外になる理由

母体保護法に基づく人工妊娠中絶は、病気やけがの治療にあたらないため、公的医療保険の対象にならず自由診療として扱われるのが一般です。そのため、費用は医療機関ごとに設定されています。

費用には、手術料のほかに初診料や検査料、前処置の費用、麻酔料、術後の診察料などが含まれます。何がどこまで含まれるのかは医療機関によって異なるため、総額で確認しておくと行き違いを防げます。

妊娠週数が進むにつれて手技が複雑になり、入院が必要になる場合もあるため、費用も変わります。この点でも、早い時期の受診が選択肢を広げます。

なお、母体の生命に危険が及ぶ状態など、治療として行われる処置は保険の対象になる場合があります。判断は医師が行うため、状況を正確に伝えましょう。

手術後の生活と回復の目安

手術後は、身体を休める時間を確保しましょう。当日は激しい運動や長時間の外出を避け、腹部を温めすぎない過ごし方が案内されます。

出血については、日本産婦人科医会が、早期人工妊娠中絶術後の出血を手術後2週間で20%程度に認めると報告しており、あらかじめ説明しておく必要があると示しています。少量の出血が続いても、想定の範囲内である場合があります。

入浴や性交渉、タンポンの使用を再開する時期は、術後の診察で確認します。感染を防ぐため、指示があるまでは控えるよう案内されるのが一般です。

同会は、中絶した当日は避妊への意識が高まりやすい日だとして、当日からの経口避妊薬の服用や子宮内避妊具の挿入がすすめられると説明しています。次の妊娠を望まない場合は、あわせて相談しておきましょう。

医療機関を選ぶときに見ておきたい点

まず確認したいのは、母体保護法指定医師がいる医療機関かどうかです。指定を受けていない医師は人工妊娠中絶を行えないため、この点が出発点になります。

次に、手術の方法と麻酔の内容、前処置の進め方について説明があるかを確認しましょう。リスクや合併症についても触れているかは、判断材料になります。

費用の内訳が事前に示されるか、術後の診察が費用に含まれるかも確認しておきたい点です。追加の費用が生じる場合の条件まで説明されると安心です。

プライバシーへの配慮や、質問しやすい雰囲気かどうかも大切です。短い期間で判断を求められる状況だからこそ、落ち着いて相談できる環境を選びましょう。

手術後に気持ちの不調を感じたときの相談先

手術の後に、気持ちの落ち込みや不安を感じる方もいます。身体の回復とは別に、心の負担が残る場合があると知っておくだけでも、抱え込みにくくなります。

まず相談しやすいのは、手術を受けた医療機関です。術後の診察の際に、体調と合わせて気持ちの変化を伝えて構いません。必要に応じて、専門の相談先を紹介してもらえます。

自治体の窓口も利用できます。女性健康支援センターや保健所では、妊娠や出産、女性の健康に関する相談を受け付けています。匿名で相談できる窓口もあります。

眠れない状態や食欲の低下が続く場合は、心療内科や精神科への相談も選択肢です。一人で抱え込まず、話せる相手を見つけることが回復につながります。

まとめ

ここまで、中絶手術の吸引法についてお伝えしてきました。要点をまとめると以下のとおりです。

吸引法は妊娠12週未満で用いられる術式で、母体保護法に基づき指定医師が本人と配偶者の同意を得て実施する

日本産婦人科医会は手術時間が短く出血量や疼痛が少ない点を挙げ、WHOや英国のガイドラインでも推奨されていると示している

費用は自由診療で医療機関ごとに異なり、術後は出血や気持ちの変化に注意しながら回復を待つ

中絶手術の吸引法は、法律に基づいて行われる医療行為であり、週数が早いうちのほうが身体への負担を抑えやすいとされています。判断を迷う時間が長引くと、選べる方法は限られていきます。まずは受診して現在の状況を確認しましょう。不安なことがあれば、医療機関や自治体の窓口へ相談してみてください。

これらの情報が少しでも皆さまのお役に立てば幸いです。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

参考文献

母体保護法|厚生労働省

人工妊娠中絶ができる条件とは何ですか?|日本産婦人科医会

3.早期人工流産(以下,妊娠12 週未満の人工妊娠中絶)について|日本産婦人科医会