実際に男を乗せたタクシーを前に、笑顔を見せる塚田さん(左)と森下さん(24日、須坂市で)

写真拡大

 長野県須坂市で8月末に起きた特殊詐欺事件で、タクシー会社の配車係と運転手が機転を利かせ、「受け子」の迅速な逮捕につなげた。

 自分のいる場所が分からないのに、調べようともしないのはどうして---。わずかな違和感を見逃さない2人の連携プレーが光った。(荒井結月)

 事件は8月26日に発生した。須坂市内の民家に法律事務所の職員になりすました40歳代の男が訪れ、住人の80歳代女性から現金200万円をだまし取った。男はその後、市内のタクシー会社に配車を依頼した。

 男の電話を受けたのが、「北信タクシー」の配車係、森下貴恵さん(56)だった。やりとりする中で、気になる点があったという。男は今いるコンビニ店の地名が読めなかった。店員に助けを求めるわけでもなく、ひたすら番地を繰り返すだけだった。

 「タクシーを呼ぶ人は、どうにかして居場所を伝えようとするのに、なぜ」。特殊詐欺事件にタクシーが利用されることがあると注意喚起を受けていたこともあり、配車連絡の際、運転手に「怪しいので服装などを覚えていて」と伝えた。

 コンビニ店で男を乗せた運転手の塚田純一さん(58)は、男について「見た目も様子も普通の人。言われなければただのお客さんとして見ていた」と振り返る。それでも森下さんの直感を信じ、たわいもない話をしながらバックミラー越しに服装や人相、持ち物を覚えようと努めた。男は須坂駅で降車した。

 配車依頼の30分後、被害を認知した警察から「タクシーを使った可能性が高い」と情報提供の依頼があった。「あの男だ」。塚田さんが覚えていた特徴などをもとに、男は同日中に詐欺容疑で緊急逮捕された。

 2人には今月16日、須坂署から感謝状が贈られた。森下さんは「特殊詐欺が多いので、お役に立てて良かった。今後もアンテナを張りめぐらせていきたい」とはにかんだ。塚田さんは「連携プレーが(逮捕につながった)一番の要因。常にコミュニケーションを取っていきたい」と話す。

 同署管内では今年、8月末までに12件(暫定値)の特殊詐欺被害があり、被害額は計約4000万円と、件数、被害額ともに前年同期比で倍増している。斉藤晃一署長は「会社で特殊詐欺に関する教育が行き届いていることが早期検挙につながった」と感謝した。