《女風で3000万円訴訟トラブル》「雨漏り修繕したい」「Wi-Fi契約が切れた」56歳独身女性が女風キャストから受けた“メチャクチャな金の無心”…業界に待たれる環境改善
昨今、世間的な認知が広がりつつある女性用風俗・通称「女風」。業界が大きくなる一方で、客と従業員との間のトラブルも増加しているという。
【写真を見る】富田さんが貸した札束を手に枚数を数える女風キャスト・X。富田さんとXのLINEのやり取り
都内在住の医療従事者の富田さん(56・仮名)は、2023年6月に「名前を呼んで抱きしめてほしい」という理由で、初めて男性従業員(通称、セラピスト)のX氏(27)を指名。初回では、会った途端"即寝"されてまともなサービスを受けられなかったにもかかわらず、以来、週に複数回指名しては会う関係になった。その中でX氏から求められるままに合計で約3000万円ものお金を貸してしまい、いまだ返金されていない。富田さんは今年3月にX氏を相手に損害賠償請求裁判を起こした。
富田さんは当初、自分がX氏に「騙されているという感覚はなかった」と明かすのだ--ライターの河合桃子氏がレポートする。【全3回の第3回。第1回から読む】
「WI-FIの契約が切れた」
X氏は富田さんに「セラピストの仕事は副業で、友人と同居しながら事業をしているが、その事業の資金繰りが苦しいからお金を貸してほしい」「部屋の雨漏りがひどいから修繕したい」などと説明し、複数回にわたって富田さんからお金を受け取った。借り入れから2年以上経った今も、一銭もお金は返っていない。
民事裁判にあたっては、4月にX氏から「借り入れた金員の合計額は911万円を超えない」といった反論が届いており、その金額については争っている。
X氏が所属する店のHPを見ると「全身の指圧マッサージやアロマオイルマッサージを行う」「重点的にマッサージをしてほしい箇所があればお申し付けください」などと書かれているが、X氏から富田さんにそれらのサービスが行われたことは一度もなかったという。
女風の情報サイト『Kaikan』のサイト運営者はこう語る。
「女風セラピストによるトラブルの話はよく聞きます。セラピストがサービスを行ってくれない、女性が望まない違法にも当たる本番行為が行われた、予約と前入金を要求されその支払い分のサービスが行われなかった、など、多くの苦情やトラブルがある。
しかし、大手の女風のほとんどが"出張型(セラピストが利用客の元に赴いて施術をすること)"で、サービスが密室で行われているため、店側も実態を把握しにくいし、店側がセラピストと"グル"になることもあります。昨年制定された『改正風営法』によりホストクラブに対する締め上げが厳しいですが、女風の業態はその規制の対象外にあり、いわば"無法地帯"になっているのです」
2023年6月から富田さんの氏名を受け頻繁に会っていたX氏だったが、翌年1月に突然、彼女のLINEを無視し行方をくらました。
「2024年1月1日のLINEを最後に、こちらからのLINEにパタっと既読がつかなくなりました。2月に電話をしても出ませんでした。その数日後に急に返事がきましたが、Wi-Fiの契約が切れたという言い分で、返済の予定を聞いても答えませんでした。
この頃、知人が紹介してくれた弁護士に事情を相談し『とんでもない詐取行為ですよ』と言われ、ようやく自分が騙されていたことに気がつきました」
「女風向上委員会」の存在
富田さんは今年1月に弁護士を立て、金銭の返還を求める訴状を東京地方裁判所に提出。しかし「訴訟をしたところで渡したお金が全額戻ってくるとは思っていません」と、富田さんはあきらめ顔だ。
「こうして取材を受けているのは、この出来事が明るみに出ることで、私のように騙される人が現れないように、と思っているからなんです」
実は富田さんには、X氏とのトラブルについて相談していた相手がいる。会社員として働きながら副業で女風のセラピストをしている「女風向上委員会」のハル氏だ。ハル氏もこのトラブルについては思うところがあるようだ。
「女風は本来、性的な欲求を満たすだけでなく、女性それぞれの人生で長く抱えた欠落感やコンプレックスを解消するヘルスケアの役割も持っているんです。
それでもトラブルが多いのは、被害女性が声を上げづらいという事情もある。僕は女風業界をよくしたくて、『向上委員会』を名乗るXアカウントを立ち上げました。予約時に料金を個人口座に振り込ませて施術をバックれたセラピストの事案や、施術中に女性の同意を得ず挿入した事案など、いくつもの相談を受けています。Xさんの事例を含め、業界が健全化することを祈っています」
富田さんからの訴状は、すでに東京地裁に受理されている。裁判所からX氏の元に訴状がわたっており、X氏からは「争う」という内容の返事が来たという。「『いついつまでに返す』という返事ではなく、金額について『争う』と返事をしてきたことに愕然としています。裁判が終わるまで、私の心が保つのか心配です」とうなだれた。
水商売や風俗業界のトラブルに詳しいグラディアトル法律事務所の若林翔弁護士は言う。
「今回のケースは、マニュアル作成こそしていないものの、『いただき女子りりちゃん』の事例と類似している。特に男性セラピストは、お金を借りる際に嘘をついている可能性もある。その嘘を立証できれば、『りりちゃん』のケースのように詐欺罪に該当します。
今後の流れ次第では、詐欺罪で刑事告訴をする、などといったことも考えられます」
X氏が2023年当時に勤務していた大手女風グループのセカンドブランド店にX氏の在籍確認のメールを送ったところ、返事は来なかった。また電話で問い合わせしようにも発信音が鳴ることはなかった。
X氏の住まいを訪れるも、雨戸は締め切られ、人の気配はない。ただ、自宅玄関前には富田さんと会う際に乗ってきたものと同じ自転車が停められていた。
X氏の弁護士を通して富田さんのもとに送られてきた準備書面(民事訴訟における被告側の主張内容の書面)には、しきりに「被告による欺罔行為など存在しない」と書かれていた。
〈原告は、訴状において、被告の事業資金が不足しているとの説明が虚偽であるとして、説明及び金員交付要請が欺罔行為にあたる旨主張する。しかし、以下のとおり、事業資金が不足しているとの被告の説明は事実であるから、現行の上記主張に理由はない〉(準備書面より抜粋)
さらに、富田さん側が主張している約3000万円近い借入金について、特に理由もなく過大な金額であると反論してきている。
〈原告は、訴状において、被告に対して合計3013万2083円を交付した旨主張する。しかし、被告が原告から借りた事業資金は、以下に記載した限りであり、その合計額が911万円を上回ることはない。そして、その余の原告の請求は、証拠の裏付けを欠くものであり認められない〉(同前)
X氏が911万円と主張する根拠はなんだろうか。富田さんに聞くとこう答えた。
「おそらく、自分がLINEに残した金額の合算なのではないかと思います。Xは従業員時代のSNSから借金の申し込みをしてきたり、時には電話口で言ってきたりもありました。SNSは退店後に削除されたのと、口頭での約束は証拠がありません。そのため、あきらなな証拠が残っているLINEでの借入の合計金額として、911万円だと主張しているのだと思います」
この準備書面をもとに、富田さんの次なる口頭弁論期日は10月5日に控えている。Xの反論次第では詐欺罪で刑事告訴の準備も進めているという。
富田さんのもとにお金は返ってくるのか--裁判の動向を注視したい。
(了。第1回から読む)
◆取材・文/河合桃子(ライター)
