「敬老の日も警備のバイト」少ない年金で15時間労働に耐える65歳男性と「夫が働かないから」とパートする69歳女性、貧困高齢者のリアル
近年、公的年金のみでは生活費や医療費を賄えず、働き続けている高齢者が年々増加している。日々の暮らしを維持するために「敬老の日」でさえ働き続けなければならない高齢者もいるのが現状だ。そんな労働人生のリアルを追った――。
【画像】ため息を飲み込むようにポテトを食べる吉田慎太郎さん(65歳・仮名)
年金だけでは生活できない高齢者の過酷労働
「今年の敬老の日も警備のバイトが入っています」
そう力なく語ったのは、東京都に住む独身の吉田慎太郎さん(65歳・仮名)。現在は警備会社で多忙な毎日を送っている。
「以前は、芸能人や社長の髪をカットするようなフリーランスの美容師をしていました。ちょっとしたバブルのようになっていて、かなり稼いでいましたね。
ですが、50歳を過ぎたあたりから徐々に仕事が減ってしまい……穴埋めのアルバイト感覚で警備業界に足を踏み入れたんです。すると今度は、たまに美容師の依頼が入っても警備のシフトがあって断らざるを得なくなり、美容師の仕事が減っていく悪循環に陥ってしまいました」
吉田さんは長年個人事業主として働いていたため、納めていたのは国民年金だけであった。満額を納めることができなかったため、現在受給できている額は月に5万円程度。
「交通整理の仕事は常に人手不足で、土日祝日も関係なくシフトが入ります。昼間の現場をこなした後に少し仮眠を取り、そのまま深夜の現場へ向かうようなシフトになることも。
現場作業が終わったら短い労働時間で帰れる日もあるんですよ。日給制なのでその点は助かってます。おかげでそれなりの給料にはなるんですけど、体力的には厳しくなってきましたね」
「生活保護のお世話にはなりたくない」
吉田さんは、仕事を辞めて年金だけでの生活は成り立たないとため息をつく。万が一辞めるとなれば、生活保護の申請も視野に入れているようだが……
「稼がないと生きられないので、仕事を完全にやめるわけにはいかないんですよね。それになるべく生活保護のお世話にはなりたくない。でもいまの生活を考えると受給額だけでは、到底暮らせませんよ。毎日死んだように生きていくことになりそうで……。
さすがにこれからは1日15時間労働のような無茶な働き方は避けるようにしていこうとは思っていますけどね」
独身のため誰かと支え合うということもできず、「自分の力でなんとかしなければ」とたびたび口にしていた吉田さん。しかし、高齢者の貧困は独身だけに限った話ではない。
神奈川県に住む田中俊美さん(69歳・仮名)は、同い年の夫とふたり暮らし。隣町のスーパーで週4日働いており、何十年も勤めているベテランだ。3人いる子どもたちは全員独立。田中さんは「この年齢になってもまだ働かなければいけないのか」と力なく笑う。
「夫はもともと働くのが苦手な性格で……。それでも子どもが3人いたので、学費を稼ぐために定年まで同じ会社に勤めあげ、1500万円の退職金をもらいました。私はずっと旦那の扶養になっており、年金は月に7万円程度。夫婦で17万くらいの収入になっています。でも、毎月貯金もできなくて、カツカツの状態ですね。いままであった貯金もほとんど使っちゃいましたし」
貯金と退職金を使い切ってしまったのには理由がある。近年、高齢者向けに必要のない場所までリフォームの提案をしてくる業者に引っかかってしまい、退職金のほとんどを持っていかれてしまったのだ。
夫婦には「持ち家をきれいな状態で子どもたちに残したい」という希望があった。そこで1階のリビング、寝室、浴室をリフォームし、あわせて家全体の耐震補強工事も行うことにした。
「『今後このあたりの土地価値が上がりますから、今のうちに施工しておいたほうがいいですよ』という業者の言葉を真に受けてしまったんです。築30年の家で傷みも出ていたため、言われるがまま見積もりを作ってもらったらオプションがどんどん重なり、総額で1500万円以上もかかってしまいました」
リフォーム費用としては高額だが、自分たちが亡くなった後に売却する際、少しでも資産価値を残したかったのだという。
「住宅ローンがまだ5年残っていたのに、思い切った改修をしすぎたかもしれません。ですが、どうしても綺麗にしたかったんです。私は素人なので、ここの耐震が弱くなってるとか、ヒビが入ってると言われると不安になってしまって。いまとなっては、余計な工事だったのかは知る由もありませんね」
子どもたちには世話になりたくない……
年金受給年齢になるとまず頭を悩ませるのは何歳から年金を受給するかということだ。60歳から受給をするよりも、65歳から受給した方が毎月の受給金額は増える。前出の田中さんはこう続けた。
「本当はもう少し働いてほしかったのですが、夫は60歳からの年金受給を選択しました。『今までがんばって働いてきたから』と、(65歳からの受給を)提案しても絶対に首を縦には振らず。
子育てとかは全て私に任せっきりだったのに。子ども達にも相談してみたのですが、『がんばってきたから働かなくてもいいんじゃない?』と言われてしまいました。
結局、私がパートの時間を増やすことで日々の生活を乗り越えるしかなくて」
たまに遊びに来る孫たちをもてなしてあげたいという思いもあり、田中さんは今も連日パートに出て働いている。今年のシルバーウィークは5連休。孫たちが遊びに来るのでは?と尋ねると……
「『実家に泊まりに行くね』と娘から連絡が来たんですけど、『パートが入っているからいない時間もあるからね』と伝えています。一日中一緒にはいられないけど、顔が見られないよりはマシかな」
年金受給だけでは足りず、「敬老の日」であっても仕事をせざるを得ない。そんな高齢者の増加は、現代社会の切実な課題を示している。困窮の原因は人それぞれだが、共通しているのは、生活保護の申請や子どもに頼ることを躊躇し、肉体的・精神的な限界を抱えながらも自力で生計を維持しようともがく姿だ。
単なる個人の自己責任として片付けるのではなく、高齢者の暮らしを維持するための社会的支援や制度のあり方を深く問い直す時期に来ている。
取材・文/山崎尚哉
