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“好き”が“病気”に変わるのはどこからなのか。そして、なぜ本人は絶対に気づけないのか。スマホ、ショート動画、市販薬、美容整形、推し活

【写真を見る】推し活が“病気”に変わる瞬間 なぜ本人は気づけない?“自分が贅沢しているわけではない”【新時代の依存症 中編】

昭和や平成の時代とはまるで違う「イマドキの依存症」。朝のコーヒーも、仕事終わりのビールも、実は「依存」です。でもそれは「病気」ではありません。

この分野の第一人者・精神科医の松本俊彦さんに“新時代の依存症”について、伺いました。

▼出演
【松本俊彦】
国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 薬物依存研究部 部長 同センター病院 薬物依存症センター センター長

▼聞き手
柳沢彩美(CBCテレビ アナウンサー)

この記事は中編です。中編と後編は以下のリンクから読むことができます。

【前編】止まらない美容整形は“自分探し” 手軽に買える市販薬で“オーバードーズ”

【後編】朝のコーヒーや仕事終わりのビール… 精神科医が明かす「依存」と「依存症」の境界線

「1億総スマホ依存」とショート動画の影響

(柳沢彩美アナウンサー)
スマホ依存やショート動画への依存というのは、どう考えられていますか。

(松本俊彦さん)
スマートフォンは今日、我々の生活にあまりにも深く浸透しているので、スマホを家に忘れても大丈夫という人の方が少なくなったと思うんです。そういう意味では、“1億総スマホ依存”の時代がやってきたとも思うんです。

ただその一方で、本来やらなければいけない仕事、職業人としての責務、あるいは家庭人としてやらなきゃいけないことを放り出して、ショート動画やSNSにはまり込んでしまっている人がいるというのも事実。これをどこからどこまでが病的とするのかというのは非常に悩ましいところです。

我々精神科医は、それによって深刻な職業的な機能の障害が出ている、あるいは家庭生活に深刻な障害が出ている、あるいは人に迷惑をかけている、こういったものがない限りは一応「病気」とは言わないようにしている。

ただ、グレーゾーンも含めると、かなり裾野は広いですね。そして我々もまた、以前に比べると長々とした活字を見なくなり、YouTubeの動画ですら長く感じ、ショート動画ばっかりになってしまっている現実。これは依存症かどうかは別として、多くの方たちがそんなふうに思いを持っているんじゃないでしょうか。

ショート動画への依存「1時間、2時間の名作映画を見切る根気が…」

(柳沢)
子どもたちが街中でも、画面をスクロールしている場面をよく見ますよね。あれってショート動画を見ているんですよね。子どものショート動画への影響はどう見ていらっしゃいますか。

(松本さん)
子どもだけじゃなく大人も影響していると思うんですが、ただ子どもの時からこれになじんでしまうと、なんかちょっと怖いなという気がするんですね。例えば活字媒体、文学作品とかそういったもの、あれを読み通す根気。

あるいは名作映画、1時間なり2時間なりの名作を見切る根気というのがちょっと難しいというか。最初の10秒で勝負みたいなものじゃないと最後まで見通してもらえないものですよね。そういったものに子どものときから触れていると、将来自分が大人になって何らかのクリエイターとしての仕事をしなきゃいけないとなったときに、どんな作品を作るんだろうかとかですね、不安になってしまうところは正直あります。

ただ、それに関して私も何か根拠を持って言えているわけではないので、1人の大人としての懸念という感じではありますね。 

動画没入の陰に隠れた「子どもの感情」

(柳沢)
ショート動画の依存で、ご家族で先生に相談に来た例はあるんですか。

(松本産)
もちろん相談例はあります。ただ、最終的にご本人と会ってみると、ショート動画が一番の問題ではないんですよ。例えば学校で深刻ないじめを受けている。いじめのことを家で思っていると、なんかモヤモヤしてイライラしちゃうから、一生懸命ショート動画に没入して忘れようとしている。それがずっとひっきりなしに動画を見ている感じになっているので、一概にショート動画がダメだというふうに言っても、その子はつらい感情を紛らわすのにそれが役に立っていたわけですよね。

多分大人がしなければいけないのは、その子がショート動画を見なくさせることではなくて、学校での嫌なことを解決してあげることじゃないですか。

この依存という目線があることはとても大事なんですけれども、あまりこの依存症だけにフォーカスしすぎると、一番大事な問題を見落としてしまう点にも我々は注意しなければいけないかなと思います。

ショート動画を見ている子どもの顔は“楽しそう”?

(柳沢)
子どもがショート動画を見続けていて、スマートフォンを取り上げて、子どもが泣く、この対処が合っているか間違っているかというところですか。

(松本さん)
まず一つ大事なことは、ショート動画を見て本当に楽しそうに見ているかどうか、お子さんの顔をちょっと観察してほしいんですよ。なんかつらそうとか苦しそうにショート動画を見ていたとしたならば、深刻な何かがあるのかもしれないと思ってください。そしてその上で、そのショート動画を見続けることへの懸念を、落ち着いた声で言ってほしいんですね。

もちろんルール設定は必要になってきます。 そのルールに関しても、ショート動画を見ていることによって「宿題できなくなっているよね」とか「結構夜寝るの遅くなっているんじゃない」「ショート動画の時間決めない?」というふうにして、本人に提案させて、話し合って決めるというプロセスが大事であって、大人が強制的に取り上げて一方的に言うのは、ほとんど効果がないですね。隠れて使うようになるだけです。

(柳沢)
保護者の規制では治らないということですか。

(松本さん)
自分の生活をコントロールできるようになることは必要なんですけれども、「自分はコントロールできている」という、自己効力感を持って「俺いけてる」って思ってもらうことが必要なんですよ。 そのためには、誰かから押し付けられたルールを守れているのでは、子どもはなんか気持ちよくなれないんですよ。

医学的には脳の中でドパミンが出ているわけなんですけれど、やっぱり「俺はできる」っていう感覚を持ってもらうためには、自分でルールを決めさせて「ちゃんとルール通りやれてるじゃん、偉いね」っていうふうな言葉をかけてあげるようなタイミングが必要で、親から押し付けられたそのルールを守ってもドパミンは出ません。 

推し活」による依存 コロナ禍以降増加 

(柳沢)
先生が最近の現場で問題視されている依存症の傾向・ケースというのは、どんなものがありますか。

(松本さん)
どこまで何を依存症と言うかは、非常に難しいところがあるんですけれども、例えばリストカットみたいなものもやめられない止まらないっていう状態にあって、自分では制御できなくなっている子たちは、2000年以降確実に増えてきて、今もたくさんいるなというふうに思っています。

それから「推し活」ですね。これは我々が依存症の臨床を手がけるようになった頃には全く見かけなかった現象なんですね。本当にコロナ禍に入って以降、臨床現場でご家族の相談として多く聞かされるようになりました。

推し活のどの部分が当事者の方たちにドパミンを出させているのかというのは、人によって微妙に違うところもあるかとは思うんです。だけれども、自分が一生懸命応援することによって、ますます人気が出たり、ますますキラキラしたり、あるいは例えばグループの中でポジションアップ・人気アップをしたりというのがやっぱり嬉しいみたいですね。

そうするとドパミンが出て、自分のお小遣いとかを全部そこにつぎ込んで、本当に自分のことを二の次三の次にして、推しを応援しているという状況になってきますね。

推し活」はどこから「依存」?

(柳沢)
私も推し活は経験上あるんですが、推し活をしている時って、確かに自分よりも推しが輝いてほしいという気持ちがあって、自分の生活が少し適当になってもいいやという感覚はあるんですが、これってもう「依存症」ですか。

(松本さん)
僕はですね、推し活はダメだっていうふうには思ってはいないんです。推し活することによって張り合いが出てくることもあるでしょう。それから、同じ推しの仲間同士で新しいコミュニティができて、いろんな人間関係が広がるのも事実ですから、全部ダメとは思いません。

ただ、自分の経済力を超えてということが今問題になっているんですね。とても自分のお小遣いでは払えない、自分の給料では払えないというところまでいって、ときには借金をしたり、あるいは手っ取り早くお金を手に入れられるようにそれこそ風俗産業とかに従事したり、あるいは犯罪まがいのことをしたり。こうなってしまうと、これは「病気」だというふうに言わざるを得ないと思うんですよね。

本人は「気づけない」 家族は「ストレスで疲弊」

(柳沢)
それは、本人が気づけるものなんですか。

(松本さん)
実は気づけないんですよね。だって自分が一番大切に思っている人のために尽くしているんですよ。自分が贅沢をしているわけではない。むしろ自分は我慢して倹約して尽くしているわけですから、なかなか本人は、それが病的だとか非常識だっていうことには気づけなくなっていますね。

しかしながら、家族の関係はもう本当にボロボロになっていて、親御さんたちも本当にストレスで疲弊しきっているんですね。そういう意味ではこの推し活の問題というのは、これからも我々はどういうふうにしたらいいのか、あるいは社会として何をやったらいいのかということは考えていかなければいけないなと思っています。

〈新時代の依存症〉※この記事は中編です。

【前編】止まらない美容整形は“自分探し” 手軽に買える市販薬で“オーバードーズ”

【中編】推し活が“病気”に変わる瞬間 なぜ本人は気づけない?“自分が贅沢しているわけではない”

【後編】朝のコーヒーや仕事終わりのビール… 精神科医が明かす「依存」と「依存症」の境界線

YouTube「NextTV ネクストテレビ」2026年08月22日配信より