石坂浩二でも古谷一行でもない…「いちばんイメージ通り」と言われた“金田一耕助”役の俳優とは? 映画「八つ墓村」新作公開で振り返る“異色の77年版”
「たたりじゃあ~」
歌舞伎俳優・尾上松也(41)が金田一耕助を演じる映画「八つ墓村」が9月18日から公開された。横溝正史氏の原作でおなじみの同作だが、これまで映画で3本、ドラマでは7本も映像化されている。今年で誕生80周年となる“金田一耕助シリーズ”の中でも、屈指の人気作品だ(金田一の初登場は1946年、『宝石』で連載された『本陣殺人事件』)。
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“令和版”も注目だが、ここにきて改めて注目されているのが49年前の1977年、今作と同じ松竹配給で公開された「八つ墓村」。今作の公開に合わせ、4Kデジタル修復版のDVDやブルーレイが発売されており、予約段階で1位になった販売サイトもあったほど。監督・野村芳太郎、脚本・橋本忍、音楽・芥川也寸志という、74年に大ヒットした「砂の器」(松本清張原作)のスタッフが集結。主演は萩原健一、さらに小川真由美、山崎努、山本陽子、市原悦子、中野良子、夏八木勲、田中邦衛ら豪華な配役で製作された。

羽田空港の誘導員・寺田辰弥(萩原)は、親戚筋の未亡人・森美也子(小川)の案内で故郷の八つ墓村へ向かう。腹違いの兄・多治見久弥(山崎)が病気で死期が近いため、辰弥が後継者になるというのだが、彼が村に戻ると次々と殺人事件が発生。探偵・金田一の調査で、400年前に起こった「落ち武者殺し」との関わりが明らかになる。戦国時代、毛利に敗れた尼子義孝(夏八木)は仲間の7人と共に逃げのびてある村に居ついたものの、村人の裏切りで惨殺された……。
時代設定など、原作とは異なる部分もあるものの、1938年5月21日に岡山県で起こった「津山30人殺し」の要素はしっかりと取り入れてある。辰弥の父・要蔵(山崎・2役)が、村人32人を惨殺するシーンは今も語り草だ。桜の木の下、頭に懐中電灯という異様な姿に真っ白な顔で走り、刀や猟銃で村人を殺すのだが、表情を変えず、一言も発しない……。
「たたりじゃあ~」という、強烈な印象を残すCMも話題になり(ザ・ドリフターズがコントの中でも取り入れた)、配収19億8600万円の大ヒット。この年の日本映画では第3位となった(1位は「八甲田山」25億900万円、2位は「人間の証明」22億5000万円)。
当時は横溝氏と共に、金田一耕助もブームになっていた。77年公開の映画をみると4月2日に「悪魔の手毬歌」、8月27日には「獄門島」(いずれも東宝)が公開されており、両作で金田一耕助を演じたのは石坂浩二(85)だった。金田一というと、石坂のイメージが強い読者が多いかもしれない。ほかにも古谷一行、豊川悦司(64)など、実力派俳優が演じてきた金田一だが、77年10月29日公開の「八つ墓村」は、国民的映画「男はつらいよ」シリーズの寅さん・渥美清が演じており、これも同作が話題となった一因だった。
「寅さんじゃない渥美さんを見たい」
「渥美ちゃんなら大丈夫。あの人は芝居がうまいですからね」
「八つ墓村」の「予告編No.」で、渥美の金田一起用について、原作者の横溝氏はこう語っている。野村監督は「拝啓 天皇陛下様」(1963年・松竹)で渥美を主演に起用して以来、その演技力を評価していたという。また、当時の報道でも、
〈その話題のひとつは“寅さん”こと渥美清が名探偵・金田一耕助に扮すること。(略)
金田一探偵役は「本陣殺人事件」で中尾彬(注・75年公開)、「犬神家の一族」(注・76年公開)で石坂浩二が演じているが、渥美は、
「顔じゃ勝てないがチエくらべなら負けません」
とファイト満々だ。しかもこの金田一探偵、原作では“モジャモジャの頭髪でおよそ風さいのあがらない男”とあるため、
「渥美がいちばんイメージ通り」
という現場の声もあって渥美は勇気百倍で撮影に加わっているという〉(「週刊明星」1976年9月5日号)
石坂が演じた金田一耕助は、着物に袴姿でボサボサ頭にチューリップハット、大きなトランクケースを持っていた。だが、渥美は髪の毛はボサボサでも、シャツにズボン、ジャケットを着ることもあった。「予告編No.2」では街行く人に「今度、松竹が『八つ墓村』を映画にするのを知っていますか」と質問。ある女性は「渥美清さんが出演するやつですか? 知っています」と述べ、鑑賞に行く理由を問われ、こう答えている。
「やっぱり、寅さんじゃない渥美さんを見たいですね」
また4人組の女子高生は「金田一は誰がやるか知ってるかな?」と問われ、一人が「石坂浩二さん」と言いかけると、すかさず別の女子高生が「違うわよ、渥美清がやんのよー」と答えて盛り上がる。若年層まで「寅さんが演じる金田一」は話題になっていたようだ。ちなみに、同作では「男はつらいよ」レギュラーも出演しており、3代目おいちゃんを演じた下條正巳や、寅さんの甥・満男を演じた吉岡秀隆(56)も出演。吉岡は2018年のNHKドラマ版で金田一役を演じている。
撮影現場での渥美の様子については、主演を務めた萩原健一が著書『ショーケン』(講談社2008年)の中で明かしている。鍾乳洞の中で、双子の老婆の一人の遺体を見つけるシーン。台本では、金田一が「そのままにしとこう」とある。それはおかしい、老婆が溺死しているのを見たら、すぐに引き上げるべきではないかと萩原は野村監督に意見した。渥美にも「これでいいんですか、渥美さん。絶対、変だと思いません?」と聞くと、渥美はこう答えたという。
「いや、最初っから変なんだよ。だってさ、おれが金田一耕助やってんだから」
シリーズ化にはならず…
〈渥美さんは真面目な人で、遅刻はしない。いつも現場にやってきては、出番が来るまで寝っ転がって、
「ごめんね。おれ、具合悪いんだ。肺一個、ないんだよ」〉(前掲書より)
しかし、セリフは完璧に覚えており、よく通る美声でNGはナシ。待っている間は冗談を言って共演者やスタッフを笑わせていたというが、「んなもんかなあ、今日は」と言って自分の出番が終わると、スーッといなくなってしまう。
〈「あれ、渥美さんは?」
そう聞いたら、スタッフのひとりが、
「帰っちゃいました。飽きちゃったんでしょ」
だって。ものすごい飽き性なのです。一日の仕事に加えて、人と十五分くらい会話して、相手を笑わせると、もう飽きちゃう〉(同)
77年の「寅さん」は、第19作「寅次郎と殿様」(8月6日公開)と、同20作「寅次郎頑張れ」(12月24日公開)の2本が製作されている。当時はお盆と正月の、年2作だった。日刊スポーツ1996年10月7日付によると、、松竹では「八つ墓村」を皮切りに金田一耕助のシリーズ化を予定、「寅さんと並ぶ、渥美さんのもう一本の柱に」と期待を寄せていたという。渥美本人も乗り気だったというが、残念ながら、実現することはなかった。
映画は辰弥を中心に話が進むため、渥美版・金田一は、登場場面は多くはないが、地道に調査を進めながらどこかひょうひょうとしており、他のシリーズとは異なる渥美の演技が光っている。1作だけで終わったからこそ、今も語り継がれる名作になったのかもしれない。
デイリー新潮編集部
