労災発生当時の雇用の構図 

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 企業に雇用された障害者に働く場所を提供する「障害者雇用ビジネス」を巡り、業者が運営する川崎市の農園で働いていた精神障害のある男性(47)が業務を理由に肺疾患を患ったとして、7月に労働基準監督署から労災認定されていたことがわかった。

 男性は同市の病院の職員として雇用されていたが、病院では勤務せず、農作業に従事していた。(西村魁、糸井裕哉)

収穫した野菜、病院食に使われた形跡なく

 障害者雇用ビジネスを巡り、障害のある労働者の労災認定が明らかになるのは異例。業者が運営する雇用現場の安全管理などの問題点が浮き彫りになった。

 男性や支援する労働組合などによると、男性は2024年夏、雇用ビジネス業者「ネクストワン」(東京都渋谷区)とアルバイト契約を結び、同社が運営する川崎市多摩区の農園で野菜の栽培などに従事。同社から「総合高津中央病院」(川崎市高津区)のパート職員になることを提案され、25年9月から病院の職員になったが、病院側からの求めで農園で作業を続けた。収穫した野菜は持ち帰るなどし、病院食に使われた形跡はなかったという。

 同11月からは同社側の指示で、農園のビニールハウスで鶏ふんと腐葉土を混ぜて堆肥(たいひ)にする作業を開始。アンモニア臭が充満したハウスで作業を続けるうち頭痛や吐き気を催すようになり、今年1月に肺炎の疑いと診断された。2月に川崎北労基署に労災を申請し、病院を退職。7月に労災認定されて治療費の支給が決まった。

 ネクストワンのホームページなどによると、同社は06年に創業。24年に農園を開設し、障害者の紹介や雇用企業への職場提供も行う。

 ネクストワンは読売新聞の取材に労災の事実を認めた上で、「施設を管理する立場として重く受け止めている。真摯(しんし)に円満な事態の解決に向けて話し合いを続けている」などとコメントした。また、総合高津中央病院を運営する医療法人は「ご本人への対応はこれまでも、今後も真摯に対応していく」などとした。

 障害者雇用ビジネスを巡っては、法定雇用率を達成したい企業による需要が高まる中、業者を介して企業に就職した障害者が実質的な仕事を与えられないなど不適切な労働環境に置かれていた問題が判明。厚生労働省が8月末、雇用ビジネスの法規制案を公表したほか、業者を調査するなど対応を進めている。

現在も通院の男性「安全な職場だと思っていた」

 ネクストワンの農園の業務が原因で労災認定された男性が読売新聞の取材に応じ、「危険性を説明されず、対応を求めても改善されなかった」と憤りをあらわにした。

 男性が働いていた川崎市多摩区の農園には、大型のビニールハウスやトレーラーハウスが並ぶ。男性はハウス内で昨年11月から、堆肥づくりにあたった。

 同社などから業務の危険性について特に説明はなかったが、ハウス内は刺激臭が充満し、「吐き気やのどの痛みがひどくて耐えられなかった」と振り返る。同社側に環境改善を訴えても、換気をしてくれないこともあるなど十分に対応してくれたとは感じられなかったという。「体調不良を訴える障害者はほかにもいた。泣き寝入りした人もいたのではないか」と話す。

 1月に肺炎の疑いがあると診断され、2月に退職した。現在も呼吸器科への通院を続けている男性は「障害者に配慮された安全な職場だと思っていた。まさか危険な作業に従事させられるとは」と悔しそうに語る。現在は支援する労働組合を通じ、謝罪や一時金の支払いを求めて同社や病院側と交渉している。

 ◆障害者雇用ビジネス=農園やサテライトオフィスなど障害者の働く場を雇用企業に提供する事業。厚生労働省が今年4~5月に業界団体を通じて行ったアンケート調査では、回答した業者22社のうち、農園型は5社だけだったが、働く障害者の数でみると農園型は8638人に上り、全体(1万1612人)の74%を占めた。