病院のロキソニン湿布38円が“市販価格”の1800円に…「ないと仕事にならない」国の“配慮”も患者の99%が対象外
「配慮の必要がない患者など、どこにもいません。この薬があるからこそ働ける」--。34歳で関節リウマチを発症し、30年間治療を続けながら建設現場で働く東京土建一般労働組合の渡辺義久氏は、そう訴える。
痛みを抑えるステロイド剤の副作用で骨粗しょう症になり、その腰痛をロキソニン湿布などでしのぎながらタイル工事の仕事を続けてきた。
その湿布や痛み止めなどのOTC類似薬(医療機関で処方されるが市販薬とよく似た成分の薬)が一部保険外療養となり、来年3月から“値上がり”する。
渡辺氏ら患者や医師でつくる団体は9月17日、都内で集会を開き、制度の中止を求める11万筆の署名を厚労省に提出した。
「ないと仕事にならない」渡辺氏が使うロキソニンテープ(湿布)は、病院で処方されれば7枚入り1袋が3割負担で38円ほど。ところが同じ成分の市販薬は、ドラッグストアで7枚約1800円する。その差は50倍近い。リウマチの自己注射なども含め、年間の医療費は40万~50万円にのぼるという。
同じように痛みと向き合いながら働く人は多い。集会に参加した介護福祉士の70代女性は、脊柱管狭窄症と変形性関節症を抱え、週3日ほどロキソニンを飲みながら養護施設で働いているといい「痛み止めがないと仕事を続けていけない」と語った。
運輸関係の労働組合で働く男性は、トラック運転手にとって湿布やアレルギー薬は「あったら便利ではなく、ないと仕事にならないというのが実態だ」とコメント。
痛みや花粉症を我慢しての運転は事故につながりかねないとして、「単なる個人の問題ではなく、安全の観点から考えても医師の診断のもと(これまで通りの値段で)薬を使えることが重要だ」と訴えた。
「これは配慮ではなく排除だ」厚労省によると、対象は解熱鎮痛剤や花粉症の薬など77成分1042品目。患者は薬剤費の4分の1を別途負担する。制度による医療費の削減効果は年間約900億円で、加入者1人あたりの保険料軽減は年間約400円(月33円)にとどまるとされる。一方、花粉症で内服薬・点眼薬・点鼻薬を処方された患者の負担は、月1500円ほど増える。
長期に薬を使う患者は、負担を求めない「配慮」の対象とされる。しかし、その線引きは厳しい。上野賢一郎厚労相は会見で、年50週以上処方される患者は全体の5%程度、ロキソニン(ロキソプロフェン)に限れば約1%だと明らかにした。
裏を返せば、ロキソニンを使う患者の99%が配慮対象から外れる。低所得者への配慮も生活保護受給者に限られ、住民税非課税の1770万人は対象外とされた。
全国保険医団体連合会(保団連)の中村洋一政策部長(医師)は、「どんな患者にも医学的に最善の治療を行うべきで、『この人は配慮するが、この人は配慮しない』という発想は医療倫理としてあり得ない。これは配慮ではなく排除だ」と指摘した。
腰痛の85%は画像や血液検査で原因を特定できない「非特異的腰痛」とされる。渡辺氏は「画像で異常が見えないことと、痛みがないことは全く別の問題だ。医師の判断を尊重する仕組みにしてほしい」と語った。
皮膚の難病を抱える息子を持つ大藤朋子さんは、今年3月に実施した「OTC類似薬負担増についてのオンラインアンケート」の結果を紹介。
「回答した8114人のうち、3分の2にあたる3646人が家計の圧迫を懸念しており、治療を続けられず、症状が悪化すれば仕事もできなくなるという切羽詰まった声が多く寄せられた」と述べ、狭い配慮の範囲に不安を訴えた。
厚労省「必要な医療は確保」要請に対し、厚労省の担当者は「今回の制度はOTC類似薬を除外するものでも、セルフメディケーションに一律に切り替えるものでもない。必要な受診は続けていただく」と説明した。
外用薬が配慮対象から外れやすい点については、「内服薬と違い、外用薬は病状や疾患によって使用量が異なり、一律に判断するのが難しい」と述べ、線引きは引き続き検討するとした。低所得者を生活保護受給者に限った理由については、医療上の必要性は否定しないとしたうえで、「過度な負担とならないよう4分の1に設定している」と答えている。
そのうえで担当者は、施行に向けて周知を進め、制度導入後の影響をデータに基づいて分析していくと繰り返した。負担割合の引き上げについても「自動的に進むものではなく、影響を見ながら慎重に検討する」との考えを示している。
集会の終盤、渡辺氏は、こう繰り返した。「配慮の必要がない患者など、どこにもいない」。制度の施行は、2027年3月に迫っている。

