ランナーがいなければ15秒以内に

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 今シーズンのプロ野球もいよいよ大詰めですが、水面下では来季に向けた動きが加速しています。特に、ファンにとっても関心事なのが新ルール。試合時間短縮のため、これまでも様々な変更、改変がありましたが、日本野球機構が本格導入を検討している「ピッチクロック」はその最たるものでしょう。東海ラジオで35年間、プロ野球実況を続けてきた村上和宏さんがルールの狙いや現場に与える影響などを解説してくれます。

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ピッチクロックはいつから?

 プロ野球はリーグ優勝と、CS進出争いも佳境に入っていますが、すでに来シーズンに向けて様々な動きが報じられています。

ランナーがいなければ15秒以内に

 NPB(日本野球機構)と日本プロ野球選手会の事務折衝が8月12日に行われました。投球間隔制限である「ピッチクロック」に関して、投球間の「秒数」などのルール詳細や、導入の時期などについて協議されました。

 協議終了後、取材に応じた加藤諭・日本プロ野球選手会事務局次長は「NPB側も今日のところは『早期に』というところは一致しているが、どうなるかはわからない。選手会として導入時期についてそこまで話し合っているわけではないが、シーズンの頭からではないか」と語りました。

 さらに、9月7日に開かれたNPBと12球団の実行委員会でもこの問題は取り上げられ、中村勝彦・NPB事務局長は「なるべく早く取り入れたい」と述べ、12球団にアンケートを採り、設置場所など、導入に伴う問題点を検討したことを明かしました。

 この「ピッチクロック」は2023年からMLBで導入されたもので、ご存じの方も多いと思います。ただ、細かい内容についてはあいまい、という方も多くいらっしゃるので整理しておきます。というのも、「ピッチクロック」はピッチャーだけでなく、バッターにも適用されるルールなのです。

 MLBで適用されているルールでは、まずピッチャー側はボールを受け取ってから制限時間内に投球動作を始めなければなりません。この制限時間はランナーの有無によって違い、ランナーがいない場合は15秒、いる場合は20秒と決められました。実際に2023年に運用した結果、ランナーがいる場合はさらに短縮が可能とされ、翌24年からは18秒となりました。

 制限時間をオーバーすると、1ボールが宣告されます。

 また、牽制球を投げる、プレートを外すという行為も試合時間が長くなる一因だとして一人の打者につき2回までと制限が加えられました。牽制やプレートを外す行為が一人の打者に対して3回を超えると、ランナーがいない場合は1ボール、いる場合は1ボールに加えランナーに進塁権が与えられます。

導入で困るのは…

 一方、バッター側は、制限時間が残り8秒になるまでに打席の準備(つまり構えること)を済ませなければなりません。打撃体勢がとれていないと判断されると1ストライクが宣告されます。また、1打席につき1回しかタイムを取ることができません。

「ピッチクロック」がMLBで導入された理由はただ一つ、「試合時間短縮」です。MLBはアメリカ3大プロスポーツの一つであり、人気も高いことは言うまでもないですが、他のプロスポーツと比較して決定的な違いがあります。

 NBA(バスケットボール)は1クオーター12分×4で48分、NFL(アメリカンフットボール)は1クオーター15分×4で60分とプレー時間が決まっています。実際の試合ではプレーが止まることもあれば、ハーフタイムショーがあるので試合終了までの実質的な時間は単純計算できないとはいえ、野球に比べはるかに短くなります。

 MLBは長時間の試合に観客が飽きたり、ファンが減ったりすることに危惧を覚え、試合時間短縮の決定打として「ピッチクロック」というルールを定めたのです。

 この「ピッチクロック」をNPBでも導入するための協議が行われているわけですが、これまで、NPBが試合時間短縮に向けたルールを全く定めていなかったわけではありません。

 ルール上、現在でも攻守交代は2分15秒以内、イニング途中の投手交代は2分45秒以内にプレーを再開すると定められています。投球間隔については、野球規則には「ランナーがいないときはボールを受け取ってから12秒以内に投球動作に入ること」との条文がありますが、NPBは「ボールを受け取ってから15秒以内に投球動作に移ること」という、いわゆる「15秒ルール」を定めています。

 テレビ中継でベンチの中が映った際、ベンチ裏へ抜ける通路にポスターが貼ってあるのが見えることがあります。そのポスターは、このルールを含め試合時間短縮に努めるようNPBが作成した啓蒙ポスターです。

 ただ、こうしたNPBの定めたルールは厳密に運用されているとは言えません。私も長年NPBを取材していますが、適用された場面は見たことがありません。だからこそ厳密に運用できるルールとして「ピッチクロック」の導入が決まったわけです。

 現実問題として「ピッチクロック」が導入された場合、特にピッチャー側に戸惑う選手が少なからずいると思います。

 我々、実況アナウンサーは、担当日の先発ピッチャーの名前を見て「今日は早く終わりそうだ」とか「今日は長い試合になりそうだ」と感じます。ピッチャーによってやたら投球間隔が長い、サインに首を振ってなかなか決まらないなど、各投手の特徴を知っているからです。

 自分のリズムとして投げるまでのルーティンが長い、あるいはバッターをじらすため、わざとなかなか投げないというピッチャーは多くいます。プロの世界で長年続けてきた自分のいわゆる「習慣」を変えることは容易ではないと思います。

 仮に来シーズン冒頭から「ピッチクロック」が導入された場合、この新ルールにいかに適応できるかが個人の成績に大きく影響するのではないでしょうか。

WBC敗退が導入を早めたか…

 投球間隔を短くするツールとして、投手と捕手で行うサイン伝達機器「ピッチコム」があります。NPBでは本格的な導入に向けて今シーズン途中から「ピッチクロック」と併せて一部の2軍戦で試験運用してきました。

「ピッチコム」に関してはNPBが来シーズンからの導入を決め、12球団に通達したことが報じられました。使用は「任意」とのことです。

 元阪神監督の矢野燿大さん(57)が、今年のWBCで実際にピッチコムを使った阪神の坂本誠志郎選手(32)に聞いたところ「使うのはかなり難しい」という感想を述べたそうです。キャッチャーも新しいルール、新しい機器への対応が求められます。

 個人的な想像ですが、今年に入って「ピッチクロック」と「ピッチコム」が、一気に導入に向けての機運が高まったのは、3月のWBCで日本代表が優勝を逃したことが大きく影響していると思います。

「史上最強」の呼び声高かった日本代表が決勝戦にすら進出できなかったことは、NPBに日本のプロ野球界の将来に対する大きな危機感を抱かせたのだと思います。実際、WBCで日本敗退が決まった際「期待していた盛り上がりが、逆の結果になった。観客動員に影響がでるのではないか」と顔を曇らせていたある球団幹部がいました。

 WBCがMLBのルールで運用される以上、それに合わせる必要性を感じているのでしょう。新しく日本代表監督に就任した井口資仁氏(51)も導入を歓迎するコメントを出しています。新監督が初めて指揮する、11月に開催されるアジアプロ野球チャンピオンシップでも「ピッチクロック」「ピッチコム」ともに採用されることが決まっています。

 国際的な流れがある以上、新たな国際基準に合わせていくことが急務だと、私も思います。

村上和宏(むらかみ・かずひろ)
フリーアナウンサー。1967年、広島県出身。専修大学法学部卒業後、91年に東海ラジオ放送入社。制作局アナウンサーとして、主にスポーツ実況を担当。2025年の退社まで、プロ野球をメインに多くの番組制作に携わった。現在、バンテリンドームナゴヤのDAZNドラゴンズ戦実況、「プロ野球ニュース」(フジテレビONE)などに出演中。

デイリー新潮編集部