まわりの時間とズレると生き残れない?「せっかちなハエも、のんびりなハエも、世代を重ねるごとに徐々に集団の中から姿を消していった」体内時計のテンポが狂ったハエが教えてくれること【岡山大学】
「時計遺伝子を壊す」
人間をはじめ多くの動物の脳には、体内時計の司令塔となる神経細胞が存在します。
【写真を見る】まわりの時間とズレると生き残れない?「せっかちなハエも、のんびりなハエも、世代を重ねるごとに徐々に集団の中から姿を消していった」体内時計のテンポが狂ったハエが教えてくれること【岡山大学】
これまでの研究でも、体内時計を作る「時計遺伝子」が突然変異で壊れたショウジョウバエは、正常なハエとのサバイバル競争に負けやすいことは知られていました。
しかし、ここに大きな落とし穴がありました。
時計遺伝子は体内時計以外の役割も担っているため、「リズムが狂ったから負けたのか」「別の機能が損なわれたから負けたのか」を区別できなかったのです。
脳の24個の神経細胞だけをピンポイントで操作
岡山大学大学院環境生命自然科学研究科の相川紗英大学院生、吉井大志教授(時間生物学)、三村真紀子教授(生態学)らの研究グループは、この問題を突破するためにキイロショウジョウバエを使った新しいアプローチをとりました。
ハエの脳にある約240個の時計神経細胞のうち、最も重要な約24個だけをピンポイントで遺伝子操作し、体の他の部分には一切影響を与えず「行動のリズムだけ」を変えることに成功したのです。
こうして生まれたのが、1日のリズムが約18時間になった「せっかちなハエ」と、約27時間になった「のんびりなハエ」の2種類です。
27世代 10万匹以上の大追跡
これらのリズムが狂ったハエを正常なハエ(約24時間)と一緒に飼い、27世代・約1年間・10万匹以上にわたってサバイバル競争を追跡しました。
結果は明確でした。せっかちなハエも、のんびりなハエも、世代を重ねるごとに徐々に集団の中から姿を消していったのです。
さらに研究グループは、光をずっと当て続けて全員の体内時計を「ストップ」させた環境でも実験を行いました。
もし脱落の原因が体内時計以外にあるなら、この環境でもリズムが狂っていたハエは負け続けるはずです。
ところが実際には、体内時計が全員止まった状態ではリズム異常のハエも脱落しなくなり、サバイバルへの影響は消えました。
この結果が示すのは、「地球の24時間と体内時計のリズムがズレていたこと(ミスマッチ)」こそが、脱落の直接の原因だったということです。
詳しく調べると、リズムが狂ったハエは交尾のペアを見つけるタイミングもズレてしまい、残せる子孫の数が少なくなっていることも明らかになりました。
人間の体内時計にも個体差がある
研究グループが指摘するのは、ハエの世界だけにとどまりません。人間の体内時計にも朝型・夜型など生まれつきの個体差があります。
しかし、現代社会では、すべての人が学校や仕事の「同じ時間」に合わせることを求められます。自分の生まれ持ったリズムと社会のルールがズレてしまう「ミスマッチ」が、気づかないうちに深刻な影響を及ぼしている可能性を、今回の発見は強く示唆しています。
岡山大学大学院環境生命自然科学研究科の相川紗英さんはこう語っています。
「もともと昆虫は苦手でした。それがどういうわけか、ハエの研究を始め、夢の中でもハエを数え続けるほど、狂気な日々に……当時は想像もしていませんでしたが、その執念が体内時計の重要性を明らかにする大発見へとつながりました。将来、教科書に載ってもおかしくない成果を出せたことを心からうれしく思います。人間、何がキッカケで人生が変わるかわからないですね」
約24時間という地球のリズムに体を合わせること。それは生物の進化の歴史が積み上げてきた、生き残るための根本的な条件だったのです。
この研究成果は、2026年8月10日にアメリカの科学誌「iScience」に掲載されました。論文名は「Brain circadian clock neurons drive fitness advantages in Drosophila」で、著者は相川紗英、田村彰一郎、三村真紀子、吉井大志の各氏です(DOI: https://doi.org/10.1016/j.isci.2026.117125)。>

