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超高齢社会の日本において、高齢夫婦が支え合う「老老介護」や両者が認知症を患う「認認介護」の破綻が深刻化しています。親の「大丈夫」という言葉を信じ、異変に気づけない子世代も少なくありません。ある家族の事例を通じて、適切な介護支援へつなげるためのポイントを考えます。

「お願い、助けて」深夜の電話から始まった80代両親の異変

都内で働く高橋恵美さん(51歳・仮名)のもとに、実家の母である佐藤洋子さん(81歳・仮名)から電話がかかってきたのは、深夜1時過ぎのことでした。電話越しに洋子さんは、「誰か助けて。お父さんが暴れて外へ行こうとするの」と動転した様子で声を上げています。

恵美さんの父、佐藤勝さん(85歳・仮名)と洋子さんは、地方都市の戸建て住宅で2人暮らしを送っていました。夫婦の年金収入は合わせて月額約15万円です。恵美さんは月に数回、電話で様子を確認していましたが、洋子さんは常に「お父さんも元気だし、問題ないよ」と返答していました。恵美さんはその言葉を信じ、お盆と正月しか帰省をしていません。

始発の新幹線に飛び乗り、実家に到着したのはその日の正午。恵美さんは、玄関を開けた瞬間に言葉を失います。廊下には衣服や靴が散乱し、リビングの床には食べ散らかした食器が放置されていました。勝さんは大声で意味の通らない言葉を叫び続けており、洋子さんは部屋の隅で体を丸めて震えています。

勝さんは以前から物忘れが目立っていましたが、ここ数か月で症状が急速に悪化しました。夜間徘徊や家族に対する暴言が頻発していた状況です。さらに洋子さん自身も認知機能が低下しており、買い物の計算や服薬の管理が行えていませんでした。夫婦互いに認知症を患いながら生活する「認認介護」の状態で、限界を迎えていたと言えます。

厚生労働省『2025(令和7)年 国民生活基礎調査の概況』によると、要介護者等と同居する主な介護者の年齢組合せは「65歳以上同士」が61.9%、「75歳以上同士」が37.1%を占め、老老介護の深化が浮き彫りとなっています。さらに要介護者で介護が必要となった原因の第1位は「認知症」(23.6%)であり、夫婦そろって認知機能が低下して限界を迎える「認認介護」の危機も潜んでいます。

当事者自身が窮状を認識・SOS発信できなくなるため、離れて暮らす子どもが受話器越しの言葉だけで安心している間に、家庭内が深刻な破綻へ追い込まれる事例は少なくありません。

介護破綻を防ぐための初期対応と介護サービスへのアクセス

恵美さんはその日のうちに、実家を管轄する「地域包括支援センター」へ足を運びました。洋子さんはこれまで、「介護保険を使うと近所に知られて恥ずかしい」「まだ2人で暮らせる」と考え、外部への相談を拒否していた経緯があります。恵美さんは職員に対し、家庭内の現状と勝さんの症状を説明し、緊急の対応を要請しました。

厚生労働省の資料によると、地域包括支援センターはすべての市区町村に設置され、高齢者の総合相談や支援を行っています。しかし介護保険サービスの未利用者やその家族のうち、相談窓口の存在を知りながらも「自分たちで対応できる」「手続きが複雑そうだ」との理由で相談を躊躇する割合が一定数存在します。初期相談の遅れは、介護者の共倒れや過重負荷による事故のリスクを高める要因となります。

連絡を受けた地域包括支援センターの職員が同日中に実家を訪問し、要介護認定の緊急申請手続きが始まりました。勝さんは提携医療機関を受診し、アルツハイマー型認知症との診断を受けます。その後、勝さんは安全確保のためにショートステイを利用し、特別養護老人ホームへの入所申請が進められました。

同時に洋子さんについても要支援認定が行われ、週に数回のデイサービス利用が決まります。栄養状態の改善と生活リズムの調整が行われたことで、洋子さんの表情には落ち着きが戻りました。

洋子さんが住む町では、地域包括支援センターが実態把握のために定期訪問を行っていました。そこで異変を察知できなかったのは、応対した洋子さんが「うちは大丈夫です」「元気にしてます」と答えていたからです。

恵美さんは今回の件を振り返り、親の「大丈夫」という答えを過信していた自身の対応を反省しています。「電話だけで、親の老いを正確に把握するのは難しいですね」と振り返ります。

高齢の親がいる場合、居住状態を直接確認し、何か変わったことがあるなら、早期に公的な相談窓口にアクセスすることが重要です。