中国ファーウェイ創業者の「国外逃亡説」は“ネットの与太話”なのか? 日本人も他人事ではない異変が起きている
中国を代表するハイテク企業・ファーウェイの創業者一家が国外逃亡したかもしれない--。この衝撃的なニュースを、台湾の複数の大手メディアが「エビデンスはない」と付記しつつ相次いで報じた。中国で何が起きているのか。ジャーナリストの杉本りうこ氏が解説する。
【画像】「今日、ファーウェイ本部で何が起こったのか、包囲されている」いう文字が読める
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「米国に抗う国家のシンボル」
発端は、「X」のある中国語アカウントだった。9月11日夜、ファーウェイ内部の人物からの情報として「任正非(創業者)一家が逃亡したもよう。海外に脱出したのではないか」と投稿。この投稿には内部関係者と思われる人物のチャット画面のような画像が添えられ、「梁華董事長が任正非と2日間連絡が取れなくなっている」「(任の)家族数十人と連絡が取れない」「金曜未明1時にミニバンの隊列が任家を出発していたことが監視カメラで確認された」といった文字が読み取れる。このチャット画面画像の出所は明らかにされていない。

ファーウェイ創業者の任正非氏(右)と、中国国家主席の習近平氏 ©AFP=時事
このアカウントは翌12日夜にも、関連情報の投稿をしている。そこでは「ファーウェイ本部が武装警察に包囲されている」とし、夜間、雨の中で多数の制服警察官が直立している短い動画を添えている。深圳市気象台の記録によると、ファーウェイ本社(深圳市)があるエリアでは、確かに雨が降っていたようだ。ただ動画では、本社社屋や看板などが映っておらず、深圳であるかどうかさえ判別できない。
任氏といえば、一代でファーウェイを世界屈指のハイテクガリバーに育て上げた経営者として、中国では尊敬を集めている。また2018年以降の米中対立では、まっさきに米政府から制裁を受け、実娘の孟晩舟CFOも3年近くにわたりカナダで拘束された。任氏とファーウェイは単なる大企業ではなく、「米国に抗う国家のシンボル」として中国では認知される存在だ。もし本当に海外逃亡したとしたら、大変ショッキングな事件である。
現在のところ、ファーウェイと中国当局から関連の発表は一切ない。また裏付けできるような他の暴露投稿も見当たらない。このように真偽がまったく定かではない情報ながら、台湾の複数の大手メディアが「エビデンスはない」と付記しつつ相次いで報じたことから、情報は短期間で世界に流布した。
国家安全上の理由で出国を制限
深圳在住の日本人に現地の様子をたずねたところ、「本社近隣では変わった様子はない」と言う。また現地のSNS・ウェイボーでは「台湾メディアがでっちあげたニセ情報」という投稿が散見される。
「ファーウェイ創業者の失踪が事実であったとしても、それが実際に明らかになるにはかなり長い時間がかかる」
そう指摘するのは英国在住のデズモンド・シャム氏である。シャム氏は温家宝一族の不正蓄財を世界に暴露したことで有名だが、シャム氏の元妻は突然失踪し、その行方は4年にわたって家族でさえ知るすべがなかった(現在、中国国内で暮らしている)。ファーウェイ創業者についても、本人がイベントなどに姿を現しでもしない限り、消息は中国当局以外には知りようがないだろう。タレントをしている次女の姚安娜氏は14日に北京でメディアの前に姿を見せたが、任氏や孟氏が公の場に現れたという情報は本稿執筆時点ではない。
日本人にとっては雲をつかむような話だが、任氏の逃亡説はネット上の与太話と退けられないところもある。火のないところに煙は立たない。特に政府が公式情報をコントロールしている中国においては、噂が重要な示唆をはらんでいることがままあるからだ。
今回の「種火」はおそらく、中国国務院(日本の内閣に相当)が9月15日に施行した「出入国管理規定」だろう。この規定は、国民の出国に伴う国家安全上のリスク管理を強化するのが狙いで、出入国管理法(2013年施行)の下位法令として施行された。条文では「中国公民が輸出管理などの規定に違反し、国家の産業・技術の安全を害するおそれがある場合、出国を不許可にできる」(第4条)と明確に定めている。
「彼は中国から出られない」
実は中国では新規定の施行前から、中国政府の機微に関わる企業・産業の経営幹部は、自由に出国できない状況だった。その厳しい現実を筆者が垣間見たのは、半導体に関連する取材の中でのことだった。
※この続きでは、中国在住の日本人も出国できない可能性に言及しています。全文は、月刊文藝春秋のウェブメディア『文藝春秋PLUS』に掲載されています(杉本りうこ「ファーウェイ創業者が失踪? 真偽不明のSNS情報が浮き彫りにする『出られない国・中国』という現実」)。
(杉本 りうこ/文藝春秋 電子版オリジナル)
