「ご飯が喉を通らず3週間で5キロ減」恋人を信じ3430万円の物件を購入…世帯年収1250万円でも陥る“不動産投資”の罠

写真拡大

世帯年収1250万円の夫婦が契約寸前まで進んだ“赤字補填”付き物件。マッチングアプリで知り合った恋人から勧められ、数千万円のローンを組んだ男性――。なぜ高収入の会社員ほど不動産投資の罠にはまるのか。

【画像】住宅ローンを使った戸建て投資詐欺に遭い、「ご飯が喉を通らなくなり、体重が3週間で5~6キロ落ちた」という人

 

新刊『その家、買ってはいけない 不動産屋が言わない、購入、投資、相続の真実』より一部抜粋・再構成してお届けする。

「買う直前で踏みとどまった」世帯年収1250万円・パワーカップル(女性)

Cさんが私のところに来たのは、まだ物件を買う前のことだった。

製薬会社のMRとして年収750万円、夫は公務員で年収500万円。世帯年収1250万円の、いわゆるパワーカップルだ。「節税になると聞いて不動産投資を検討していたんですが、滝島さんのYouTubeチャンネルを見て不安になって、一度意見を聞きたくて」と話した。

聞けば、夫の兄弟の知り合いで、「大学生の頃から趣味で不動産投資をしている人」が、物件を紹介してくれたという。提示されていたのは東京・平和島と神奈川の物件2戸で、そこに破格の条件が付いていた。

「7年間は赤字が出ても販売会社が全額補塡する。空室になっても自己負担は1割。10年後には残債で買い取り保証」。Cさんは「絶対に損したくない」という気持ちから、この条件に強く引かれた。ローンの審査はすでに通っており、販売会社からは契約手続きを急かされていた。ただし、契約書はまだ受け取っていなかった。

試算してみると、平和島の物件だけで毎月約2万円、年間24万円の赤字が出る。「その赤字を7年間、販売会社が負担する」というのが提案の核心だ。だが調べてみると、その会社は設立3年目で、ホームページもフリー素材で作られたような出来だった。

そんな会社が、なぜ他人のために年間24万円、7年間で168万円もの赤字を引き受けるのか、合理的な説明がつかない。仮に会社が存続している間は約束が守られたとしても、会社が潰れた瞬間、保証はなくなる。残るのは赤字を垂れ流す物件だけだ。

「節税になる」というのも、冷静に計算すれば疑わしい。ワンルーム投資の節税効果は減価償却を利用したものだ。建物の価値が年々目減りするとみなして、その分を損失として計上することで課税所得を減らすわけだが、これは実態として「損をしたから税金が還付される」にすぎない。

この物件の場合、年間24万円の赤字が実際に出るが、その損失によって年間31万円程度の税金が戻ってくる計算になる。確かに差し引きでは年間7~8万円のプラスだ。

しかしそれは、24万円の損失を出してようやく得られる7~8万円なのだ。しかも、収益性の低い物件は時間が経つほど資産価値が下がっていく。帳簿の上でわずかにプラスになっている間に、物件そのものの価値が目減りし続けるのだ。これを節税と言って喜ぶのは本末転倒だ。

なぜ「先輩の紹介」で来るのか

さらにCさんの場合、将来の住宅ローンへの影響も見落とせない。ワンルームマンション投資に5000万円のローンを抱えてしまうと、後でマイホームを取得したいと思ったときに借入枠が大きく削られる可能性がある。

本来8000万円借りられる人でも、5000万円のローンがあるために3000万円しか借りられない、といった事態があり得る。Cさんは「今のところ自宅の購入は考えていない」と言っていたが、30代のカップルが将来にわたって選択肢を狭めることの代償は小さくない。

「私なら150%買いません。誘ってきた紹介者には着信拒否でいいと思います」と私は言った。せっかく努力して築いてきた夫婦の収入と信用を、業者に食い潰されてはいけない。ワンルームマンション投資などに手を出している場合ではない。

「今日、話を聞いて、やめる方向で考えます」とCさんは答えた。

契約書にサインする一歩手前のところで、Cさんが相談に来てくれてよかった。その行動が、落とし穴に陥る前に踏みとどまるという幸運につながった。

3つの事例に共通するのが、「職場の先輩・知人の紹介」という経路だ。これは偶然ではない。私の感覚では、ワンルーム投資の購入者のほとんどが紹介経由だ。

ワンルームマンションの販売会社の営業マンは、入社すると最初に「リストアップ」をやらされる。自分の身内、友人、知人の名前を書き出し、片っ端から会いに行ってくるよう指示される。リストが尽きて売れなくなったら解雇、というのが、この業界の仕組みだ。先輩や友人が「いい話がある」と連絡してくるのは、あなたへの善意からではなく、自分のリストの中にあなたの名前があるからだ。

さらに、すでに物件を買ってしまった人は、「誰かを紹介すれば40~50万円の紹介料が入りますよ」と誘われる。業者は、毎月の赤字を少しでも埋めたい、という心理を利用する。友人に「儲かるから買ったほうがいい」と言う人は、自分が損していると気づきながら、紹介料欲しさに友人を売っている、ということでもある。

「先輩や友人が『儲かっている』と言うから、自分も」と、相談に来た人たちは口をそろえるが、「儲かっている」と言う人ほど怪しい。実際は損をしていても、自分の投資の失敗を知られたくないという体裁を取り繕うために、あるいは紹介料目当てであることを隠すために、「儲かっている」と言い続けることがある。

これがワンルーム投資の実態だ。被害者が、次の被害者を生み続ける仕組みができているのだ。

「恋愛感情」を入り口にした手口

「先輩や知人の紹介」という経路が主流である一方、近年は別の入り口も広がっている。マッチングアプリを使った手口だ。

私のもとに相談に来た34歳・年収550万円の男性の話だ。彼は、マッチングアプリで知り合った女性と6~7回会ううちに交際に発展した。その2~3週間後、女性から「節税になる話がある」と切り出された。「私も持っているんだよ」という言葉とともに、女性の勤務先のファイナンシャルプランナーを紹介された。そのFPに勧められたのが、住宅ローンを使った戸建て投資だった。

物件価格は3430万円。フルローン、40年返済、金利0.45%。家賃収入は月13万5000円で、銀行への返済は月8万5000円。表面上は毎月5万円の手残りがある計算だ。「住宅ローンで組んだら違反では」と男性が疑問を呈すと、「みんなやっているから」「もし何かあれば我々が対応する」と押し切られた。内見もしないまま契約した。その契約から数週間後、女性からの連絡は途絶えた。

査定を取ると、物件の市場価格は約2700万円。3430万円で買っているため、購入時点ですでに700万円以上の含み損を抱えていた。さらに住宅ローンの不正利用が金融機関に発覚すれば、残債の一括返済を求められる可能性がある。残債は3720万円。「自己破産しか道がないでしょうか」と男性は訴えた。「ご飯が喉を通らなくなり、体重が3週間で5~6キロ落ちた」とも言った。

この手口の構造は、先輩・知人紹介と本質的には同じだ。時間をかけてターゲットの信頼を獲得し、その信頼を入り口に物件を買わせる。違うのは、職場の人間関係ではなく恋愛感情を利用している点だ。「付き合いましょう」と言われた相手から勧められた投資に、人は疑いを持ちにくい。女性は1件あたり60~90万円のバックマージンを受け取っていると私は見ている。

結婚詐欺であれば金銭の詐取として立件できる可能性があるが、「市場価格より高い不動産を買わせた」という行為は、法律上の詐欺として立件することが極めて難しい。それをわかったうえでこの手口は設計されている。「人の心をもてあそぶゴミみたいな人間だ」と私は思う。だが怒りをぶつけても、男性の状況は変わらない。

私が男性に示した選択肢は二つだ。一つは早めに法律家に相談し、銀行側と交渉しながら法的なソフトランディングを目指すこと。もう一つは、入居者が退去した際に自分が住み、住宅ローンとして本来の用途に戻すことだ。

どちらにせよ、時間をかけるほど状況は悪化する。「あなたはまだ若い。収入も十分にある。命を失ったわけではない」─それだけが、私がその場で言えた言葉だった。

文/滝島一統

『その家、買ってはいけない 不動産屋が言わない、購入、投資、相続の真実』 (PHP研究所)

滝島一統

2026年6月17日

1210円(税込)

208ページ

ISBN: 978-4569861319

老朽化が進む日本の住宅は、マンションであれ一戸建てであれ、「持っていれば資産になる」という常識が崩れ始めている。築古マンションでは、修繕積立金不足、住民間の合意形成の難航、管理組合の実態不明といった問題が深刻化し、表面的な価格や立地だけでは見えないリスクが潜んでいる。
中古マンションの契約書類を読んでも、壁の内側の劣化や配管の老朽化、将来の大規模修繕の現実までは把握できない。
一方、地方の一戸建ては、相続をきっかけに「売れない」「貸せない」「解体費だけかかる」負動産へ転落するケースが急増している。
さらに、老後資金対策として注目されるリバースモーゲージやリースバックにも落とし穴がある。契約者死亡時の一括返済や、住み続けられなくなるリスクは十分に知られていない。
ワンルームマンション投資もまた、「不労所得」という甘い宣伝とは裏腹に、空室率、修繕費、金利上昇を織り込めば、一定以上の利回りがなければ利益は出にくい。本書は、マンションと戸建て双方の危機を比較しながら、「住まいは本当に資産なのか」という根本問題を問い直す。買う前に何を確認すべきか、そして「持ち続けるべきか、手放すべきか」を冷徹に判断するための実践的な一冊である。

第1章   老朽化マンションの現実─修繕できない、管理できない、建て替えられない
第2章  〝負動産〟化する戸建て─相続・解体・思い出のはざまで
第3章  不動産投資のリアル─欲望の先に待ち受ける現実
第4章  タワーマンション─バブル崩壊前夜
第5章  賃貸か購入か─どこに住み、どう選ぶか
第6章  それでも家が欲しい人のために
第7章  知識があれば8割は防げる―不動産Gメンとは