「ランサムウェア」被害41社のファイル2000万件復元…警察庁開発の無料ツール、100か国超利用
企業などのデータを暗号化する身代金要求型ウイルス「ランサムウェア」の被害が拡大するなか、警察庁が独自開発した復元ツールが2024年2月の運用開始以降、国内41社のデータを回復させていたことがわかった。
復元できたファイルは顧客リストや社員名簿など約2000万件に上る。ツールは欧米など100か国超で利用されており、同庁は警察への早期相談を呼びかけている。(丸山滉一)
富山市の飲料メーカー「トンボ飲料」(従業員約180人)の本社。船木茂・情報システム課長(56)が異変に気づいたのは1月15日の朝だった。パソコン画面の壁紙が改ざんされ、社員の端末を一元管理するシステムが起動しなかった。
通報を受けた富山県警の警察官と画面上のファイルを開くと、「あなたのデータが暗号化された。料金を払えば復元し、情報漏えいを防ぐ」などと書かれていた。国際ハッカー集団「ロックビット」による犯行声明だった。
過去9か月分の仕入れデータが見られなくなり、紙の請求書を基に原材料などの取引記録を会計ソフトに入力し直した。担当者は残業続きの日々を送った。
県警から復元の連絡があったのは2月下旬。同社は身代金を払わず、業務を正常化させた。船木課長は「警察に相談してよかった。攻撃を受けても事業を継続できるよう、対策を強化していきたい」と話す。
FBIと連携
警察庁によると、これまでにデータを復元できたのは製造業や小売業など41社。同庁が復元ツールの開発を始めたのは、ロックビットへの国際共同捜査に参加したのがきっかけだった。
同庁サイバー特別捜査部の担当者は、ランサムウェアの生成ツールを特定して分析。暗号化ファイルの構造を解明した。23年12月には独自に開発した復元ツールを欧州警察機構(ユーロポール)に提供し、その後、世界各国の企業に利用を促してきた。
さらに、同部では、米連邦捜査局(FBI)が入手した情報を基に、国際ハッカー集団「フォボス」や「エイトベース」に暗号化されたファイルの復元にも成功。復元ツールは昨年7月に公開され、1万回以上ダウンロードされている。
この捜査では、警察庁が数万件のIPアドレス(ネット上の住所)を解析し、容疑者を特定した。同庁の担当者は、「世界的にも高い技術を持つ捜査員らが、時間と労力をかけて解析している」と語る。
6割「払い損」
今年上半期(1~6月)のランサムウェア被害は123件で、半期ごとの統計を取り始めた2020年以降、最多だった。うち約6割の79件は中小企業だ。
復旧費用の負担は重く、約3割は5000万円以上の費用が生じていた。警察庁の復元ツールは無料だ。
一般財団法人「日本情報経済社会推進協会」が1月に国内1107社を対象にした調査では、半数近い507社が「ランサムウェア被害に遭ったことがある」と回答した。4割の222社は身代金を支払ったが、復旧したのは83社で、6割超は「支払い損」だった。
新たな脅威
ランサムウェアを巡っては、今年7月に冷凍食品大手のニチレイに犯行声明を出したハッカー集団「RansomHouse」や、昨年アサヒグループホールディングスを攻撃した「Qilin(キリン)」など新たな脅威が次々に生まれている。
警察庁のツールで復元に成功した41社のうち、24社はロックビット、17社はフォボスやエイトベースによる攻撃だった。今後は最新の手口への対応が課題になる。ユーロポールなどのサイトでは約180種類の復元ツールが一般公開されており、警察は企業側に利用を促している。
立命館大の上原哲太郎教授(サイバーセキュリティー)は「身代金の支払いが広がれば日本企業はさらに標的とされる。警察は他国の捜査機関との連携を深めて技術向上に努め、企業のセキュリティー対策の底上げを側面から支援してほしい」と話す。
