ネットメディアなどでも活躍する外山氏

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 「1億総中流」という、かつて日本社会を支えてきた幻想が崩れ、マイホームが「高嶺(たかね)の花」になりつつある。日本経済新聞社の記者・外山尚之氏が、現在の不動産市場で何が起きているのかを追った「なぜ働いても家を買えないのか」(日本経済新聞出版、1100円)が刊行された。

 東京23区の新築マンションの平均価格は1億3000万円を突破し、過去10年間で2倍となり、既にバブル期の水準を超えた-。もはや年収1000万円を超える層でも手が届かない相場だ。「衣・食・住というが、『住』が本来の役割に加え資産として扱われるようになり、人々が地に足をつけて暮らすことが難しくなっている」。外山氏は首都圏の住宅事情についてこう指摘する。

 その象徴が、東京の湾岸エリアに林立するタワーマンションだ。購入したマンションに暮らし続けただけで、1億円を超える『含み益』を得た人が数万人規模で生まれたという。人々が生活を営む土台だった住宅は、いつしか金融商品のような性格を帯びるようになった。

 なぜ、ここまで住宅価格は上がったのか。政府と日銀の「超低金利政策」、夫婦がフルタイムで働く「パワーカップル」、完済時には80歳になる「50年ローン」、転売目的でモデルルームに殺到する「タワマン転売ヤー」。本書は、こうした複数の要素が絡み合い、不動産相場を押し上げてきた過程を丹念な取材で追った。外山氏は「これまで、国は住宅ローン減税などを通じマイホームを国策として推進してきたが、持つ者と持たざる者に二分されることで、住宅が格差を拡大する装置となっている」と分析する。

 その格差は、さまざまな形で表れる。母国の先行きを悲観した中国人が都心の不動産を買い、その勢いが北海道や沖縄にも波及している状況も紹介する。東京・港区では10億円、100億円単位で売買される超高級マンションが誕生。入居金だけで5億円に上る超高級老人ホームが活況を呈する一方、人口の半数以上が高齢者となったニュータウンでは、街全体が活気を失っている。こうした都市部と地方の格差についても描いた。

 不動産デベロッパーやゼネコン、購入者、専門家、投資家、政治家をはじめ、立場の異なる数百人への取材を行った。生の声と豊富なデータを重ね、日本だけでなく海外にも目を向けた。

 「最も深刻」と考える問題が、これから住宅購入を考える若い世代への影響だ。「1億円を出せないと家を買えないような世界では、結婚し子を生み育てるという社会の人口再生産がままならなくなる」。住宅価格だけではなく、少子高齢化、人口減など日本社会の実像もあぶり出す。「若い人が住宅を購入できないというのは、日本だけではなく世界共通のテーマ。このまま放置すれば、社会の不安定化を招きかねない」。外山氏はそう警鐘を鳴らした。

 ◆外山 尚之(とやま・なおゆき)2008年慶応大卒、日本経済新聞社入社。前橋支局や国際部を経て17年から21年までサンパウロ支局長。南米大陸の各国でルポ執筆に力を入れる。帰国後はビジネス報道ユニットでエネルギーや不動産関連を取材。現在、同ユニット消費・サービスグループデスク。著書に「ポピュリズム大陸 南米」(日本経済新聞出版)。