3か月で20兆円が消えたソフトバンクG…孫正義の「AIへの賭け」を左右する”PER200倍”の1社

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2026年6月、ソフトバンクグループ(SBG)の時価総額が一時トヨタ自動車を上回りました。同じ6月末、SBG自身が示すNAV(純資産価値)は72兆円。市場が付けた値段は34兆円で、ほぼ半値です。

この割安の一因は、孫正義氏が次に何を買うかという不確実性、言わば「孫ディスカウント」にあります。しかし、問題はそれだけではありません。そもそも72兆円というNAVを、額面通りに受け取ってよいのでしょうか。中身を検証します。

前編記事を読む→ソフトバンクGの株価は本当に割安か…「孫ディスカウント」で資産が"半値"に、42兆円の機会損失を生んだ1社

現在のNAVの6割はArm

2026年6月末の保有株式価値83.1兆円のうち、最大を占めるのがArmです。Arm株の時価は53.1兆円で、株式を担保としたファイナンス3.2兆円を差し引いた後でも、NAVへの寄与額は49.9兆円ありました。保有株式価値の約6割がArmという計算です。

そのため、SBGの「NAVが72兆円ある」という話を考えるには、Armそのものがどのくらいの値段で評価されているのかを避けて通れません。Armが優れた会社かどうかと、Arm株が割安かどうかは別の問題です。

Armの事業は好調。ただしPERは「200倍」

Armの業績は好調です。2026年3月期の売上高は49.2億ドルで前年比23%増、ロイヤルティ収入は21%増、ライセンス収入は25%増となりました。2027年3月期第1四半期も売上高は12.8億ドルで22%増え、データセンター向けロイヤルティ収入は前年同期比で2倍を超えています。

スマートフォンで強いArmのCPU設計は、データセンターや自動車にも用途を広げています。AIではGPUが注目されがちですが、大量の処理を振り分けたり、メモリーやセキュリティーを管理したりするCPUも欠かせません。Armの事業にAI時代の成長余地があるという見方には、十分な根拠があります。

一方で、株価はその成長をかなり先まで織り込んでいます。2026年9月2日のArm株終値は234.80ドルでした。2026年3月期のNon-GAAP EPS1.77ドルを基準にすると、実績PERは約133倍です。6月末には株価が354.57ドルまで上昇しており、その時点では同じ基準でPER約200倍に達していました。

売上が年20%台で伸びる優良企業であることは間違いありません。ただ、利益の100倍を大きく超える株価を正当化するには、今後も長期間にわたって高い成長が続く必要があります。Armの事業がしっかりしていることと、現在の株価が安心できる水準であることは分けて考える必要があります。

ArmをPER50倍で評価すると、NAVは72兆円から32兆円に

そこで、もう一段踏み込んでみます。

ArmのPERを、成長企業として一般的に高い評価である50倍として試算してみます。Non-GAAP EPS1.77ドルに50倍を掛けると、Arm株の評価額は1株88.5ドルです。

6月末のArm株価354.57ドルを基準にした保有価値53.1兆円を、この88.5ドルに置き換えると約13.3兆円になります。そこから6月末時点のArm株を使ったファイナンス約3.2兆円を差し引くと、NAVに寄与するArmの価値は約10兆円です。

ほかの資産や負債を6月末から動かさないという単純な前提なら、SBGのNAVは72.3兆円から約32.4兆円まで低下します。9月2日時点のSBG時価総額28.1兆円との差は約4兆円で、ディスカウント率は13%程度です。一般的な持株会社ディスカウントや税負担、未上場資産の不確実性を考えれば、「どう考えても安すぎる」とまでは言いにくい水準になります。

ここで重要なのは、PER50倍が正しいということではありません。NAV72兆円という数字の大部分が、Armに現在どれほど高い株価を認めるかによって動くという点です。「72兆円の資産を28兆円で買える」と考えるだけでは、実態を見誤る可能性があります。

OpenAIの評価はさらにおぼつかない

さらに、SBGが次の大きな成長源として巨額の資金を投じているのがOpenAIです。

SBGは2024年9月以降、ビジョン・ファンド2を通じてOpenAIへ累計346億ドルを投資し、2026年にはさらに300億ドルを3回に分けて追加投資する契約を結びました。追加投資時のOpenAIのプレマネー評価額は7300億ドルです。

OpenAIがAI革命の中心企業であることは疑いにくいでしょう。しかし、7300億ドルという企業価値が安いかどうかは別の話です。AIモデルの開発やデータセンターには巨額の資金が必要で、GoogleやAnthropicなどとの競争も続きます。現在の成長が最終的にどれほどの利益につながるかは、まだ見えていません。

Armが「高い株価で評価されている上場資産」だとすれば、OpenAIは「さらに将来の価値を先取りしている未上場資産」です。いまのSBGは、安定した資産を積み上げているというより、AIの将来価値に大きく資本を振り向けている会社だと考えた方が実態に近いでしょう。

時価総額日本一が映した「AIバブルの特性」

2026年6月1日、SBGの時価総額は終値ベースで約48.8兆円となり、トヨタを上回って日本一になりました。ところが、そのわずか3か月後の9月2日には約28.1兆円まで縮んでいます。

短期間で20兆円近く時価総額が動いたこと自体が、現在のSBGがどのような会社として市場に見られているのかをよく表しています。

トヨタは自動車を作り、世界中で販売し、そこから得る利益を積み上げて企業価値を形成しています。SBGも通信などの事業を持っていますが、株価を大きく動かしているのはArmやOpenAIをはじめとしたAI関連資産への期待です。AIへの期待が高まればNAVも株価も大きく膨らみ、期待が後退すれば両方が縮みます。

孫氏にはアリババやArmのような大成功があります。だから、今回のAIへの賭けが成功しないと決めつけることもできません。一方で、WeWorkのような失敗があり、NVIDIAのように早くから見つけた優良資産を大きく上がる前に手放したこともあります。SBGの株主になるということは、現在の資産だけでなく、孫氏がこれから行う資本配分まで含めて引き受けるということです。

そして現在、その資本配分の中心はAIにあります。SBGは「AIバブルから取り残され、割安に放置された会社」というより、むしろAIへの期待を最も濃く映している日本企業の一つです。NAVが何%割安かを見るだけでなく、そのNAVの中にどれほどの期待がすでに入っているのかを見ることが、いまのSBGを理解するうえでは欠かせません。

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栫井駿介

つばめ投資顧問代表、長期投資YouTuber

1986年鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業、豪BOND大学MBA修了。大手証券会社に勤務した後、2016年、つばめ投資顧問設立。延べ2000名以上の個人投資家を相手に、堅実かつ実践的な長期投資のアドバイスを実施。YouTuberとしても活動し、登録者は20万人超。ひとりでも多くの人に長期投資のよさを広め、実践してもらうことを夢見て発信を続けている。著書に『年率10%を達成する! プロの「株」勉強法』『1社15分で本質をつかむ プロの企業分析』(ともに、クロスメディア・パブリッシング)『買った株が急落してます!売った方がいいですか? 株で利益を出す人の考え方』(ダイヤモンド社)、共著として『株式VS不動産 投資するならどっち?』(筑摩書房)がある。

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