火星のスキャパレリ・クレーターで遊覧飛行する気分に浸れる動画 ESAが公開
ESA(ヨーロッパ宇宙機関)は2026年8月19日付で、火星の「スキャパレリ・クレーター」の上空を飛行しているかのような体験ができる動画「Fly around Schiaparelli Crater with Mars Express」を公開しました。
この動画は、ESAの火星探査機「マーズ・エクスプレス(Mars Express)」の観測データを使って作成されたもので、火星南部の高地に広がる巨大なクレーターと周辺の地形を立体的に再現しています。
【▲ 動画「Fly around Schiaparelli Crater with Mars Express」(Credit: ESA/DLR/FU Berlin & NASA/JPL-Caltech/MSSS (realistic flyover in the first half of the video); European Space Agency (orbit of Mars Express around Mars); German Aerospace Center (animation explaining how these videos are made))】
枝分かれする谷から巨大なクレーターへの“空中散歩”
動画は、スキャパレリ・クレーターの南西に位置するエブロス渓谷(Evros Vallis)の上空から始まります。エブロス渓谷は30億年以上前に形成されたとみられる、枝分かれした谷が広がる地形です。
エブロス渓谷から北へ向かった仮想のカメラは、名前の付いていない複数のクレーターが折り重なる地帯を抜け、スキャパレリ・クレーターの南側に広がるかつての河川の跡を捉えます。
その後、クレーターの縁を西側から越え、時計回りに旋回しながら内部を見渡します。ここでは、溶岩が冷えて収縮する際に生じた「リンクルリッジ」と呼ばれるしわ状の尾根や、内部に点在する小さなクレーター群も確認できます。
最後は、スキャパレリ・クレーター南側の斜面に刻まれた全長約400kmのブラゾス峡谷(Brazos Valles)を見下ろしながら上昇し、動画は終了します。

直径の割に浅いスキャパレリ・クレーター
スキャパレリ・クレーターは直径約460kmに達する、火星でも屈指の規模を誇る衝突クレーターです。名前は19世紀のイタリア人天文学者Giovanni Schiaparelli(ジョヴァンニ・スキャパレリ)にちなんでいます。
スキャパレリは1877年の火星大接近の際、望遠鏡で観測した火星の表面に直線状の模様を見出し、イタリア語で「水路」を意味する「canali」と呼びました。しかしこれが英語圏で「運河」を意味する「canal」と訳されたことから、一部の天文学者だけでなく、多くの一般の人々の間でも、火星に知的生命体が築いた人工の水路が存在するという説が広まるきっかけとなりました。ESAによると、スキャパレリが見た模様は当時の望遠鏡の性能の限界による目の錯覚だったことがわかっています。
これほどの規模があるにもかかわらず、スキャパレリ・クレーターは比較的浅く、現在の深さは約2kmしかありません。一般的に、衝突クレーターの深さは衝突した天体の直径の10分の1程度が目安とされています。スキャパレリ・クレーターを形成したのは直径30~40kmの天体だと考えられていますから、本来であれば4km程度の深さがあるはずなのです。
DLR(ドイツ航空宇宙センター)によると、スキャパレリ・クレーターがここまで浅くなったのは、数十億年にわたって風が運び続けた砂や、かつて存在したとみられる湖の堆積物、さらには溶岩によって埋め立てられたからだと考えられています。実際に、スキャパレリ・クレーターの縁には風に運ばれた火山性の黒い砂が帯状に堆積している様子がみられるといいます。
マーズ・エクスプレスの観測データとデジタル地形モデルで再現
今回の動画は、マーズ・エクスプレスの高解像度ステレオカメラ「HRSC」で取得した観測データと、デジタル地形モデル(DTM)を組み合わせて作られた3次元の景観アニメーションです。地形の起伏をわかりやすくするために垂直方向の高さは実際の3倍に強調されています。
2003年の打ち上げ以来、20年以上にわたり観測を続けているマーズ・エクスプレスが取得してきたデータは、火星表面の詳細な立体地図を描き出すだけでなく、火星の初期の地質学的な歴史を紐解くための貴重な手がかりにもなっています。
一見穏やかに見えるスキャパレリ・クレーターですが、その地形をたどると、水や風、火山活動によって姿を変えてきた火星の長い歴史が浮かび上がります。
文/ソラノサキ 編集/sorae編集部
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