ペーパーテストだけでは測れない個性や意欲、多様な能力を評価する制度として導入された「総合型選抜」。しかし、大学の学部・学科ごとに異なる出願条件や合格基準の分かりにくさから、「親の情報戦」の様相を呈している。

【映像】ハードすぎる総合型選抜のリアル

 「学ぶ人材の多様化」は「入試の多様化」で達成できるのか。

 ニュース番組『わたしとニュース』では、実際に総合型選抜に苦労したという受験生の母親の声を紹介し、その実態と課題についてジャーナリストの浜田敬子氏とともに考えた。

■複雑すぎる入試制度と「年間100万円以上」の塾代がもたらす“課金ゲーム”

 「うち以外のママさんたちの話を聞いても、みんなてんやわんやしていると…」そう話すのは、昨年息子が総合型選抜で大学を受験し、その苦労をnoteに綴った塩辛いか乃さん。出願受付が早いため、高校2年生の頃から情報収集を始めたものの、大学ごとに異なる複雑な日程や出願条件に直面した。

「入試制度が複雑すぎる。大学ごとに募集要項が違う。分かりやすいのは日程で、出願のスタートと締め切りが違う。2次試験の選考が違うところを、出したい大学分だけ調べる。それだけでもう嫌になる」(塩辛いか乃さん、以下同)

 さらに、「〇〇大学の〇〇学部・学科の、なぜそこに入りたいのか、そこで何を学びたいのかをピンポイントで訴えかける必要がある。同じ学科名であっても、違う大学の同じ学科でも書くことは変わる」と話した。

 そこで頼ったのが総合型選抜での受験をサポートする塾だった。塩辛いか乃さんは「やはりノウハウはある。ただ熱量をぶつければいいのではなく、ロジカルにそれを訴求しなければならない」と語る。しかし、その費用について「高いですよ。どこも強気で、年間100万円以上はかかるかな。やっぱり“課金ゲーム”感はある」と、経済的な負担の大きさを指摘する。

 それぞれの個性や意欲を評価するはずの総合型選抜。だが、“対策”の勝負になっているのが実情だという。「制度がある以上、それをハックするのが一番強い。本筋じゃないのも理解はしているが、じゃあ高校生が愛を叫ぶみたいなことをして受かるのかと言ったら、やっぱり受からない。結局それが制度となってしまった瞬間に、それに対するノウハウを生み出す業者や塾ができてしまう。大学も『入れなかったらいいか』というものじゃないので、ある程度仕方ないし、だからこそ情報戦になってしまう」。

■「入試の多様化の前提を外した方がいい」専門家が指摘する制度の限界

 総合型選抜が抱える課題について、東京大学大学院教育学研究科の中村高康教授は「これはどこに応募したら本人が有利になるのか、適切なのかというのは簡単には分からない。それ自体が負荷になっているのかなとすごく思う」と分析する。そして、「熱心に取り組める家庭・事情のある方とそうでない方で、情報量に差が開いてしまう。これは学校もそう。学校単位で総合型選抜を熱心に狙っている学校だとそれなりに情報収集しているが、そうでなければ一般入試中心の指導をやってしまったり」と語る。

 また、「(入試の)多様化は『正しいことなんだ』という前提を外した方がいいのでは。もう多様化しすぎている。大事な試験に組み込まれると、みんな練習してくるし、正解を求めて結局同じ型に行き着いてしまったりする」と、制度の形骸化を懸念した。

 こうした現状に対し、浜田氏は「入試の多様化を目指した結果、本当に生徒の多様化につながっているのか。親の情報力や経済力がないと戦えない現実があり、それでは多様化につながらないのではないか」と述べた。

 また、新聞記事で読んだ事例を挙げて、「実家が経済的に厳しい学生さんのインタビューで『一般試験の方がフェアだ』と書いてあった。自分で努力をすれば点数だから上げていける。一方、総合型は親の情報力や経済力によるサポートの部分が大きいので、経済的な格差を反映させやすい。一般入試の方がまだ本人の力と努力で格差が埋められるのではないかと話していた」と紹介した。その上で「入試が多様なのはまだいいと思うが、総合型が主力になってしまうと、勉強をコツコツ努力するのが得意な子の間口が狭まってしまう」との懸念も示した。

■“家庭力”と学校現場の疲弊…これからの入試に求められる「シンプル化」

 総合型選抜は受験生やその親にも過度な負担を強いている。浜田氏は「親が働きながらフォローするのは非常に難しい。本来、子ども自身も受験制度を調べることに時間を使うのではなく、その時間は勉強に使いたいはずだ」と指摘。

 また、指導する学校側についても「探究学習などでさえ、先生たち自身が受けてこなかった授業であるため、どう指導していいか分からず、研修も受けていない。学校側にリソースがない中で新しい学習が持ち込まれている。総合型選抜も同じで、進路指導に困っているのではないか」と学校現場の疲弊に言及した。

 中村教授は、総合型選抜について、「商業高校や工業高校など、普通科以外の高校からの進学ルートにもなっている」など、従来の一般選抜では難しかった生徒の進学にもつながっているなどのメリットも指摘する。ただし、当初の目標とされた、時間をかけた丁寧な選抜という理想とは違う形になっている現状もあり、生徒・保護者の負担も増していることから「一つの学部で受験方法が何通りもあるケースも見られ、“シンプル化”も検討が必要」との見方を示す。

 浜田氏も同意して、「シンプルになれば、本来の時間を勉強に使える。親がやらなくても、子ども一人でも挑戦できるやり方に変えてほしい」と語り、現状の課題を指摘した。

(『わたしとニュース』より)