「50歳以降の女性“対策ナシ”で4割が骨折」 骨粗鬆症を遠ざける「三つの栄養素」と「取るべき食材リスト」
人生100年時代の私たちの体を支えてくれる屋台骨はまさに「骨」である。高齢者にとって骨折は命取りになりかねないが、骨粗鬆症には40代から注意が必要だという。予防のための「食事」と「習慣」を紹介する。【斎藤 充/東京慈恵会医科大学整形外科学講座主任教授】
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わが国最初の実測日本地図を作り上げた人物、伊能忠敬は、55歳から71歳まで、17年かけて日本列島各地を歩いて測量しました。驚くべきはその歩行距離で、地球1周分に相当する約4万キロを踏破したといいます。人生50年と言われた江戸時代に、これほどの距離を自分の足で歩ける“スーパー高齢者”が存在したのです。

ひるがえって現代、人生100年はもはや夢物語ではありませんが、寿命は延びても、容赦なく老いていくのが骨です。
体を支え、歩くための土台となる骨は、性別、国籍を問わず、加齢とともに必ず弱くなっていきます。しかし何の症状もないので、自覚が乏しい。ある日、突然起こるのが骨折です。
「手をついただけ」「尻餅をついただけ」なのに、まさか……。一度骨折をすると、2度目、3度目の骨折も起こりやすくなります。いわゆる「骨折のドミノ」です。高齢者に多い骨折部位の一つが太ももの付け根ですが、骨折ドミノを起こすと歩けなくなってしまい、寝たきりにもつながりかねません。一度目の骨折を起こす前に、ぜひ対策を講じてほしいのです。一般の人はあまり知らない、「骨の強さ」に関する“意外な真実”を知ってもらった上で……。
〈こう話すのは、東京慈恵会医科大学整形外科学講座主任教授の斎藤充医師。日本骨代謝学会理事、日本骨粗鬆症学会理事を務め、骨粗鬆症研究の第一人者として知られる。
骨粗鬆症の推計患者数は、国内の大規模住民コホート研究(ROAD研究)によると40歳以上の約1590万人。ただし「未治療が70%」ともいわれ、“隠れ骨粗鬆症”の多さが問題視されている。〉
人工関節の進歩
私は整形外科医で、専門が二つあります。一つは骨粗鬆症。そしてもう一つは関節外科です。関節外科はその名の通り関節を診る専門診療科で、加齢で傷んだ関節を人工関節に置き換える手術を年間何百件と行っています。
人工関節の進歩は、目を見張るものがあります。例えば40~50歳くらいから増える変形性股関節症。痛みで歩行困難になる病気で、最終的には人工関節の手術が検討されます。課題の一つが耐久性で、私が研修医だった約30年前は10年ほどしか持たず、いつ手術を行うかが悩みどころでした。しかし今では耐久性が30年以上。人生をアクティブに過ごすために、50歳代で手術に踏み切る人も少なくありません。
だからこそ、骨の健康を維持する重要性をより感じています。骨は、加齢による脆弱(ぜいじゃく)化から逃れられません。手術を受け人工関節にし“痛みなく歩ける脚”を手に入れても、骨粗鬆症で他の部位を骨折し、歩けなくなってしまう人もいるのです。
50歳以降の女性は「何も対策をしなければ、10人中4人が骨折」
骨は20歳前後で完成し、「骨(こつ)代謝」という新陳代謝が絶えず行われます。古い骨を壊して吸収する「骨吸収」と、新しい骨を作る「骨形成」がバランスよく行われ、骨の健康が保たれるのです。
ところが、このバランスが崩れる時がやってきます。性ホルモン(女性ホルモン・男性ホルモン)が減少する時期です。女性ホルモンには骨が壊れて吸収されるのを強力に抑制する働きがあり、男性ホルモンには骨が作られるのをサポートし吸収を抑える働きもあります。性ホルモンの減少によって、これらの働きも不十分になり、「壊して吸収」が「作る」を上回り、骨が弱くなっていくわけです。
女性の場合、閉経前後の期間を含む更年期(おおむね45~55歳)に女性ホルモンの分泌が激減します。“ちょっとした日常の衝撃で骨折”という、今まであり得なかった経験をする人が出てくるのもこの時期です。50歳以降の女性は、何も対策をしなかった場合、10人中4人が骨折をするというデータがあります。
密度が高い骨でも、骨粗鬆症のリスクが
男性の場合は、だいたい40~50歳代くらいから男性ホルモンが緩やかに減少し始めます。閉経という目に見える指標がないため、「まだまだ俺は」と思っている人もいるかもしれません。ですので、男性ホルモンが減少し、さまざまな不調が出てくる“男性の更年期”を「LOH症候群」と言いますが、これに該当するかどうか、チェックしてみることをお勧めします。代表的な症状を挙げると「“朝の現象”がなくなった」「“男性機能”が弱くなった」「疲れやすくなった」「筋肉量が減り太りやすくなった」。男性も骨が弱り、やがては骨粗鬆症になるとしっかり認識してください。
また、「骨は、対策や治療が効果を発揮しやすい臓器である」ということもぜひ知っておいていただきたい点です。骨の新陳代謝は血管や軟骨などほかの組織に比べて圧倒的に速く、年間7~40%の骨が新しいものに替わります。骨を強くするための対策を講じ続ければ、骨粗鬆症と無縁でいることも可能なのです。
ところでみなさんは「骨の強さ=骨密度(骨の量)」と思っていませんか? 骨粗鬆症は時に「骨がスカスカになる病気」とも言われますが、実は量が多く、密度が高くギュッと詰まった骨であっても、骨粗鬆症の可能性があるのです。
「骨密度と骨質で決まる」
1993年、WHO(世界保健機関)の研究班は香港で開かれた会議で「骨の強さは骨密度で決まる」と示した骨粗鬆症の定義を提唱しました。しかし現場の医師からは「骨密度だけで骨の強さを測るのには限界がある」という声が上がり、2001年には米NIH(国立衛生研究所)によって「骨の強さは骨密度と骨質で決まる」という新定義が発表されました。
ちょうどその頃、私は国立宇都宮病院(当時)の整形外科に勤務していたのですが、患者さんの中に骨密度が高いにもかかわらず骨折する人が、少なからずいました。「骨の強さは骨密度と骨質で決まる」というけれども、骨密度は測定方法があるのに対し、骨質を評価する方法はありません。骨質ってなんなのだろう……。疑問を解き明かすべく、診察以外の時間を研究に注ぎ込み、発見したのが「骨質には、体のコゲともいわれる老化物質AGEs(終末糖化産物)が関係している」「AGEsが骨に多いと、骨密度が高くても骨折を起こしやすい」「代表的なAGEsであるペントシジンの尿中・血中濃度が、骨に蓄積したAGEs量と強い相関関係にある」ということでした。
私はよく骨を鉄筋コンクリートの建物に例えて話をします。分かりやすく言うと、このようになります。
・コンクリートに相当するのがカルシウム(骨密度)
・鉄筋に相当するのがコラーゲン(骨質)
カルシウムは骨に硬さを与え、コラーゲンは骨にしなやかさを与えます。鉄筋コンクリートの建物は、硬さとしなやかさがあるからこそ、地震に耐えられますよね。骨にもそれが当てはまります。骨に存在する無数のコラーゲンは棒状で、隣り合うもの同士が強固につながり合って束になり、骨質の良い、しなやかな骨を作っています。
日本人は遺伝的に骨質が悪くなりやすい
ところが、加齢や不適切な生活習慣で活性酸素が体内に過剰発生し酸化ストレスが増加すると、棒状のコラーゲンのつながりが無秩序になり、しなやかさが失われます。さらに血糖コントロール不良、肥満、偏った食生活、飲酒、喫煙、運動不足などがあると、血液中の余分な糖分が体内のタンパク質などと結び付いてAGEs(ペントシジン)が生じ、骨質が一層悪くなります。
従って、骨密度が高くても油断禁物。日本人はただでさえ、遺伝的に酸化ストレスが高くなりやすい、つまり骨質が悪くなりやすいことが指摘されています。特に男性は、活性酸素に対抗する力が女性より弱く、酸化ストレスが高くなりやすい。やはり、骨質が悪くなりやすいのです。男性は骨密度が正常範囲の「YAM(若年成人の平均値)80%以上」であっても骨折リスクがあります。また、男性の骨折は女性と比べて生命予後が悪く、要介護リスクが24.7倍高いというデータも報告されています。繰り返しになりますが、男性も骨粗鬆症を“自分ごと”として捉えて対策を講じてください。
痛みがなくても……
続いて、骨粗鬆症のセルフチェック法について触れておきましょう。ぜひ身長を測ってみてください。若い頃より2~4センチ縮んでいたら、背骨の圧迫骨折が疑われます。そして、高齢者の圧迫骨折の原因で最も考えられるのは、骨粗鬆症です。
痛みがないから骨折のはずがない--いいえ! 圧迫骨折のほとんどが激しい痛みがなく、“いつの間にか骨折”と呼ばれているほど。身長の低下が見られれば、すぐにでも病院・クリニックを受診していただきたい。残念ながら、骨質を知るペントシジン検査は現時点では保険適用がなく、骨の状態を調べるには骨密度を測定するしかないのですが、骨密度が高くても骨折の既往があれば、骨粗鬆症と診断され、治療開始となります。
ここからは、今日から始めたい、骨の強化や骨折予防に役立つ方法を紹介します。
まずは体操です。私たちは研究で、骨に負荷をかける体操によって骨質が改善することを確認しています。私が自分の母にも勧めている、テレビを見ながらでもでき、かつ、けがのリスクが少ない四つの体操は次の通りです。
四つの体操
【“いつの間にか骨折”予防】
秋田大学の宮腰尚久先生が考案されたものです。うつ伏せになり、胸の下に座布団をはさみます。気をつけの姿勢から背骨を使い、上半身をゆっくりと10センチほど持ち上げ、5~10秒キープし、ゆっくりと下ろします。目安は1日10回です。
【じわじわ10秒背骨伸ばし】
背もたれのある椅子に深く座り、10秒ほどかけてじわじわと両手を天に向け伸ばします。上から引っ張られているイメージで、1回2~3セット、朝昼晩と行いましょう。
【ダイナミックフラミンゴ体操】
骨粗鬆症研究の権威として知られる阪本桂造先生が昭和大学在籍時に考案した、私たち整形外科医の学会イチオシの体操です。真っすぐ立ち、目を開けたまま、片足を床から5センチほど浮かせて1分間キープします。左右1分間ずつ行うだけで、53分間のウォーキングと同等の負荷を骨、特に太ももの付け根付近の骨に与えることができます。目安は、片足1回ずつ、1日3セット。足元がよろける場合は、近くにある椅子や机に手をついて行ってください。
【荷重もも上げ体操】
背筋を伸ばして椅子に座り、片方の太ももの真ん中に手のひらを下に向け両手を重ねて置きます。手を真下に押し、それに拮抗するように太ももを10秒ほどかけてゆっくりと持ち上げます。そしてゆっくりと足を下ろします。背中が丸まると効果が半減しますので姿勢良く行ってください。左右交互に10回、1日2~3セットを目安に。
カルシウム、ビタミンD、コラーゲンを
体操と並んで大切なのが、骨質を守る食事です。AGEsの材料となる高血糖を避けるため、糖質過多の清涼飲料水は控えめに。揚げ物や焦げた肉などの高温調理ではAGEsが多く生成されますから、蒸す、煮る、ゆでるを優先してください。焼き魚より煮魚。唐揚げよりしゃぶしゃぶ。ちょっとした選択の積み重ねが、今後の骨に効いてきます。
そして取っていただきたいのが、広く知られている、骨の原料となるカルシウム、その吸収に不可欠なビタミンDに加えて、骨質に関係するコラーゲンです。コラーゲンは質が大事で、体内でコラーゲンが作られるときに必要となるアミノ酸(タンパク質)、コラーゲンの質を上げるビタミンC(ブロッコリー、ピーマン、ほうれん草、キウイ、柑橘類)、鉄分(レバー、カツオ、厚揚げ、納豆、豆乳)を意識して取りましょう。ただし、腎臓病がある人はタンパク質の取りすぎが問題になりますので、主治医に相談してください。
伊能忠敬が17年かけて地球1周分を歩き切れたのは、紛れもなく“骨”に支えられていたおかげです。私たちに忠敬ほどの旅は必要ありません。しかし「自分の足で最後まで歩く」ことは、誰にとっても人生最大の自由を守る営みにほかなりません。骨の老いと向き合うのは、その自由を守るための、もっとも確実な自己投資なのです。
斎藤 充(さいとうみつる)
東京慈恵会医科大学整形外科学講座主任教授。東京慈恵会医科大学卒業、同大大学院修了。同大附属病院副院長。日本整形外科学会副理事長。2010年、骨の強さは骨密度だけでは決まらないこと、骨質の低下が骨折に深く関与していることを世界に先駆けて論文発表し、大きな注目を集める。著書に『100年骨』(サンマーク出版)など。
「週刊新潮」2026年9月3日号 掲載
