偶然ではなかった開幕ハットトリックの衝撃 ドイツで価値を高める鈴木唯人が魅せる“覚醒の兆候”「求めたいのは、結果。もうちょいちゃんとした結果」【現地発】

開幕戦で得点ラッシュを決め込んだ鈴木。その結果は決して「たまたま」ではなかった(C)Getty Images
意識し続け、こだわる「形」
ゴール量産は、決して、突然始まったものではない。
現地時間8月30日に行われたブレーメンとのブンデスリーガ開幕戦で、フライブルクの鈴木唯人は、29分、48分、55分と圧巻のハットトリックを達成。チームを勝利(4-1)に導き、ドイツ・メディアからも称賛の声が相次いだ。
【動画】開幕戦で圧巻のハットトリック!鈴木唯人の3ゴールを一気に見る
重要なのは、3ゴールという目に見える結果だけではない。ボールが入り、前を向く、そして一度離れたボールが、もう一度戻ってくる--。チームと鈴木の間での密な関係性が、フライブルクで確かに築かれ始めている。
だからこそ、今季の鈴木には得点量産の予感がするのだ。
「求めたいのは、結果ですね。もうちょいちゃんとしっかりとした結果、目に見える結果とともに、チームにしっかり貢献できればいいかなと思います」
プレシーズンに行われたクリスタルパレスとのテストマッチの後、鈴木は今季に向けて、そう語った。
この試合では味方からのパスで抜け出した鈴木が、GKと完全なる1対1を迎える場面があった。シュートは相手GKにブロックされたものの、並走していた味方がこぼれ球を押し込み、得点に繋がった。
最初のシュートを決められなかった悔しさをにじませながら、それよりも手応えを口にしていたのが印象に残った。
「ああいうところに顔を出せたことは、すごいいいことだと思いますし、あれだけ綺麗な形であれだけなったってことは、チームとしても良かったです。間違いなく」
鈴木が評価したのは、決定機に至るまでの「形」。意識しているのは、決定機に入り続けることだ。
現地時間8月24日に行われたデュッセルドルフとのドイツカップ1回戦でも、鋭い飛び出しでビックチャンスを作り出した鈴木は、4日後のカンファレンスリーグ・プレーオフ第2戦となるマザーウェル戦でも、GKの好守に阻まれながらも、幾度となくゴール前に顔を出した。
ゆえにブレーメン戦の3得点は、突然の出来事でも、偶然の爆発ではない。
もっとも、兆候はすでに昨季からみられていた。2026年に入ってからのフライブルクには、攻撃が停滞する時期があった。ボールを前進させても、最後の局面まで持ち込めない、そもそもフィニッシュの回数自体が少ないという状況が悪目立ちした。鈴木自身もボールに触れる回数が減り、存在感を出し切れない試合が続いた。
ブンデスリーガ第23節のボルシアMG戦後には、チームの課題を率直に振り返っている。
「相手が前から来るのは分かっていましたが、自分たちもそれに慌ててしまった。ボールを蹴ってしまって、いい形でセカンドボールが入らず、なかなか難しい試合になりました。僕自身にもボールが入らなかった。うまく試合に入れていなかった感じがありましたし、ボールに触る回数もいつもより少なかった」
そこから少しずつ課題を解決し、現在のフライブルクでの立場に繋がる明らかな変化が見られるようになっていった。

積極果敢に得点へと繋がる流れに絡み、ゴール前での決定機を演出している鈴木(C)Getty Images
明らかに変化した立ち位置
4月10日(現地時間)のヨーロッパリーグ準々決勝ファーストレグで、セルタにホームで3-0と快勝した一戦後、鈴木はチームに起こった変化を次のように表現していた。
「みんながボールを要求するようになっているし、怖がらずボールを受けよう、繋ごうって。相手がどう出てくるのかっていうのもすごく、わかった上で、僕たちもプレーしている。3人目をうまく使いながら、空いているスペースをみんなわかりながら、プレーもできていると思います。
それで、相手も(前に)出て来れなくなっていたし、相手がボールを持つ時間もありましたけど、そこをうまくしのぎながらできたことが先制点にも繋がった。そこが大事だったんじゃないかなと思います」
機動力があり、スペースで受けたボールを捌き、ゴール前に顔を出すことができる鈴木にとって、チームの変化から受けるポジティブな影響は計り知れない。
同時に鈴木への影響は多岐にわたる。とくに個の力で局面を打開していたスイス代表MFのヨハン・マンザンビが今夏の移籍市場にプレミアリーグのアストン・ビラへ移籍したために生じた“穴”をどう埋めるのか、という課題解決にも直結した。
「チームがやろうとしてるサッカーっていうのは、一人が全てを打開するようなものが求められてる感じじゃない。チームでちゃんと作って、チームでやるべきことをやっていこうみたいな話はよくしているので」
クリスタルパレス戦後に語ってくれたこの言葉こそ、今季の鈴木を理解する上で肝となる。
マンザンビのような個の力を持った選手に依存することなく、チームで相手を動かし、空いたスペースを共有し、的確にボールを届けていく。フライブルク全体で、攻撃を組織的に構築できるようになったからこそ、鈴木が最後の局面で力を発揮する機会が増えているというわけだ。
また、ブレーメン戦の3得点が全て異なる形から生まれたのも興味深い。
1点目はニクラス・ベステのCKに対する鋭い動き出しからヘディングでゴール。2点目は左サイドからの折り返しへ相手DFのポジショニングからうまくスペースに入り込んでのゴール。そして3点目はイゴール・マタノビッチとのコンビネーションから、自らボールを預けてゴール前へ走り込み、リターンを受けて仕留めたものだった。
ボールを受ける位置とゴールへ向かう場所が、チームの中でより明確になっている。鈴木を起点とした循環ができているからこそ、必然的にチャンスが増える源になっている。
決められるか、決められないかだけを見れば、得点は偶然にも左右される。しかし、「どれだけ決定機に入れているか」「どれだけボールが自分のところへ戻ってくるか」という過程を見れば、今季の鈴木が置かれている状況は明らかにこれまでと違う。
開幕戦のハットトリックは、その変化が数字として表れた瞬間だ。ゴールへの図式が、フライブルクの中で形になり始めているからこそ、今季の鈴木からは、得点もアシストも量産しそうな予感がしてならない。
[取材・文: 中野吉之伴 Text by Kichinosuke Nakano]
