AI開発最前線のエンジニア・牛尾剛も驚いた、勝間和代の「ゴルフスコアを10改善した」“AIコーチ活用法”
人間のゴルフコーチは運動理論的に間違いだらけ!? 勝間和代氏が劇的にスコアを改善できたAIコーチ活用法から、「理解」こそがレバレッジが効くという本質まで。『部下としてのAI』が話題の、米Microsoftエンジニア・牛尾剛氏との白熱対談後編。
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牛尾剛さん(左)と勝間和代さん(右) 撮影・細田忠(文藝春秋)
勝間流「AI音声入力」活用法
牛尾 勝間さんってお仕事ではどんなふうにAIを活用されてますか?
勝間 実はこの4ヶ月ほど、AIベースの音声入力の研究に集中していたんですよ。私はいつもプロンプトはもちろん、メルマガや書籍の執筆にもAIの音声入力を駆使しています。長年Google Pixel シリーズの音声入力が大好きで使ってたんですけど、すごい勢いでしゃべっていると、300文字以上から先、取りこぼし始めるんですね。
でも、OpenAIの文字起こしAI「Whisper(ウィスパー)」を使うと、大量の音声でもばっとテキスト化してくれるので、どのやり方が一番使い物になるかをひたすら検証していました。ローカル作業がいいのか、クラウドがいいのか、AndroidがいいのかPCがいいのか……手当たり次第試しましたね。結論、クラウドの処理が一番速かった。
牛尾 すごい探究心ですね!
勝間 指示をどう出すと効率的なのかもけっこう試行錯誤しまして、面白かったのがWhisper AIに渡すプロンプトは「これは日本語ですよ」「こういう句読点入りの文章が欲しいですよ」というサンプルだけ与えればよかったんです。すると綺麗に句読点が入った日本語が出てきます。
牛尾 へー、僕はブラインドタッチ派ですが、そもそも日本語に変換するってけっこう面倒くさいですよね。
勝間 だからこそ音声入力を使うんですよ。もっというと、最近ElevenLabsが開発したScribe v2 という高性能の音声AIモデルを使ってるのですが、これはパソコンでしか動かせないのが難点。それだとかったるい場面もあるので、スマホのWhisper AIと使いわけていますね。多少間違えてるテキストだって、Geminiを通せばすぐ綺麗に直せますし。
1回の講演のスライドを作るのは10分でいい
牛尾 僕はADHDで頭の中がカオスになりがちだから音声入力は避けてきたのですが、今度やってみます。
勝間 入力なんて雑でいいんですよ。「他の人に読めるように直してください」とAIに整えさせて、あとは自分の手で直せばいい。例えば講演会で使うスライド作成でも、「こういうことを伝えたい」と簡潔に喋ったものをGeminiに渡して、さくっと十数枚のスライドを生成してもらっています。1回の講演でしゃべるスライドを作るのは10分でいいというのが私の発想です。2時間も3時間もかけてスライドつくっても意味がない。
牛尾 さすが効率性を極めてますね! 僕の場合はAIに資料をHTMLで作らせてたりしてますが、綺麗なものがすぐ出力できますよね。PowerPointでもExcelの出力でも、要はAI(コーディングエージェント)が裏側でプログラムを書いているだけ。これらのファイル形式(XMLベース)には、内容を操作・編集するためのAPI(仕組み)があらかじめ用意されているから、AIはそのAPIを使ってファイルを編集するプログラムを実行しているわけです。そのあたり今はどのLLM(大規模言語モデル)でも学習済だから、誰でも簡単にアウトプットを出せるんですね。
勝間 本当にそう。だからClaudeを使うべきか、Geminiか、ChatGPTかってよく聞かれるんですが、どうでもいい。そんなのは、どの車を買おうかな? と言っているのにすごく近い。
牛尾 同感です。自分が好きで、使いやすいものを選べばいいだけ。
AIにゴルフを習ってみたら……
勝間 あと私いま、AIにゴルフを習っているんですよ。今年の2月ぐらいから、人間の先生につくのはやめて、AIにコーチしてもらっています。
牛尾 えっ、AIにゴルフを習うんですか!?
勝間 要するに疑問に思ったこと全部聞くんですよ。昨今、運動理論の研究がずいぶん進んでいますから、人間はどういう感覚で動いてるのか、どういう仕組みで運動は上達し、どういう仕組みがダメかみたいなことをAIに教わっています。
というのも、自分の感覚だけでしゃべっている人間のコーチも多くて、理論的にみて間違いだらけなんですよ。
牛尾 そうなんですね。
勝間 一番ダメなことは、フォームとか握り方とかフォームの形を最初に教えてしまうこと。初心者に体の形から教えちゃいけないんです。全ての動きは連動してるのだから、パーツで肩はこうして、足はこうしてと言われているうちに動きの連動性が取れなくなって、必ず失敗するんですよ。
牛尾 体を連動させて理解するにはどうしたらいいんですか?
勝間 「内部フォーカス」というんですけど、体を使う時には体のことを一切考えてはいけないんです。弓道とか典型的ですが、的に当てるっていう制約条件に向かって、あとは自由にやらせる。
どう弓を引くのか、どうクラブを振るのかといった試行錯誤の中で、初めて自ら体が連動するんです。その結果としてフォームが出来上がっていくんですね。私の場合、AIの指南のもとでスコアが10近く良くなったんですよ。90前半ぐらいがメインだったのが、今80前半になって!
理解をスキップしている同僚はひとりもいない
牛尾 それはすごい。感覚に頼らず、理論的に正しい基礎をきちんと身につけたことでブレイクスルーが起きて、素晴らしいですね。以前から、勝間さんの勉強法関連の本も参考にしてきたんですが、基礎が重要ってすごく書いていらっしゃるじゃないですか。
印象的なエピソードが、自分の周りのイケてる人たちはハードワークをしてるわけではなく、みんなきちんと休んでる--彼らに共通してるのは、基礎に半年ぐらい時間をかけてしっかり勉強している、と。
勝間 牛尾さんも、理解の重要性を強調していますよね。
牛尾 結局のところ、自分がいかにアンダースタンドしているか、勉強しているかで、レバレッジが大きく変わるんですね。AIを使えば簡単にたくさんのアウトプットを出せて仕事できた気になるものですが、理解がなければゴミを10倍のスピードで生産することになってしまう。
逆に本体が強ければ、AIによってパフォーマンスが飛躍します。まわりの同僚たちをみていても理解をスキップしている人は誰ひとりとしていないですね。理解することに時間をかけてから手を動かすから、結果的に仕事のスピードが非常に速い。
僕はよく「AIって車のイメージに近い」という話をよくしています。
集合知の四要件を満たすとAIは本領を発揮する
勝間 どういうことですか?
牛尾 私たちは徒歩だと時速4、5キロでしか移動できません。でも車を使えば、それこそ時速60キロから100キロぐらいのスピードが簡単に出る。だから目的地に着くのに車を使ったほうが断然速いわけだけど、運転は必ず人間がするよねという話です。交通ルールや安全性や実際の道を把握している人間が舵を取る。
勝間 それでいうと、AIも、車のような免許制度じゃないけど、基礎を教育した方がいいんじゃないかとずっと思ってるんです。数時間の講習でもいいから、学校で必須にしたほうがいいくらい。
牛尾 それは名案ですね。
勝間 AIの基本的な性質はきちんと理解しておいたほうがよくて、散らばっている情報を集約するのはすごく得意です。集合知の四要件--多様性・独立性・分散性・集約性。これを満たしているものなら、AIは本領を発揮します。逆にそれを満たしてないのは苦手で、ようは抽象に落とし込めないものはダメなんですよね。先にふれたような、「青山ブックセンターにもっとも近い駐車場にいくルートを探して」みたいなのは不得意です。固有名詞の各要素が強すぎるので。
あとシンプルにAIの何がすごいって、情報源として最高ですよね。
牛尾 もう無限に知ってますからね。地上のインターネットにあるものは全て学習してるくらいの勢いで(笑)。
勝間 ワーキングメモリーが大きいので、水平思考(ラテラルシンキング)も非常に得意なんですよね。AとBとCとDを組み合わせるとこうなるよね? みたいな思考。だからカーナビの操作を尋ねると、その機種について知らなくても、類似のいくつかの仕組みを踏まえて「こうじゃないですか?」と確度の高いサジェストをしてくれます。
AIって基本的に集合知のエージェントだから、プログラミングが得意なのはもちろん、どうでもいいビジネスメールのテンプレートもお手の物でしょう。お礼状とかお詫びとか(笑)。でもこれがクリエイティビティの求められる文章になった途端に破綻するけれど。
牛尾 たしかにクリエイティブはいまいちですよね。過去にあったものを組み合わせて確率計算で出しているだけですから。仕事でAIをさんざん使い倒してますけど、僕はブログを書くとか趣味の音楽演奏では全く使わないですね。
勝間 クリエイティブでは、大したものが出せないけれど、誤字・脱字チェックとかにはすごく便利(笑)。
牛尾 それは有効な使い方ですね。今日は家電の話から勝間さんの超実践的なAI活用法までいろいろうかがえて、非常に面白かったです。
勝間 こちらこそ。『部下としてのAI』は、世の中にあまたあるAI本のなかでも、非常に深いことがたくさん書いてある本物の一冊だと思います。皆さんにぜひ読んでほしいなと思います。
牛尾 ありがとうございました。
(青山ブックセンターにて)
(牛尾 剛,勝間 和代/ライフスタイル出版)
