共和の牙城で異例の接戦、スキャンダル抱えるMAGA代表格を37歳神学生猛追…アメリカ中間選挙まで2か月
11月3日投開票の米中間選挙が2か月後に迫る中、共和党の牙城・南部テキサス州の連邦上院選が異例の接戦となっている。
民主党の「新星」が共和党候補を猛追しているためだ。民主党が勝てば1988年以来、38年ぶりの快挙となる。(テキサス州フォートワース 栗山紘尚、写真も)
8月29日夕、同州フォートワースで開かれた集会で、元教師で神学生という異色の経歴を持つ民主党のジェームズ・タラリコ氏(37)がステージに現れると、多くの支持者が歓声を上げ、写真を撮ろうとスマートフォンを向けた。
タラリコ氏は、議席を争う共和党のケン・パクストン氏(63)を「テキサスで最も腐敗した政治家だ」と批判した。パクストン氏はトランプ大統領を熱烈に支持する「MAGA(米国を再び偉大に)」の代表格で、収賄容疑による弾劾(だんがい)や不倫問題などのスキャンダルを抱える。
タラリコ氏は「米国の分断は左右ではなく、上下の対立だ」と説き、富や権力に対抗する姿勢を前面に出す。集会に参加したサラリン・カリロさん(62)は「必要なのは権力者ではなく、私たちを気にかけてくれる人物だ」と期待する。
選挙分析機関「クック・ポリティカル・リポート」は8月20日、同州連邦上院選の情勢評価を「共和党優勢」から「接戦」に修正した。人口全米第2位の強固な保守地盤で共和党候補が敗れれば、トランプ政権には計り知れない痛手となり、次期大統領選にも影響を与える可能性がある。
危機感を強める政権はテキサス州を最重視し、今月9~10日、同州ダラスで中間選挙の年では初となる党大会を開き、結束を呼びかける。トランプ氏は2日公開のポッドキャストで、同州で敗れれば「私は最後の共和党大統領になり、我が国は生き地獄を味わうことになるだろう」と語った。
中間選挙は与党・共和党が連邦議会の上下両院で多数派を維持できるかどうかが焦点だ。上院選はほぼ互角の争いで、下院選は民主党が優勢との見方が多い。
共和 予備選で党内不和
米共和党の牙城・テキサス州の連邦上院選で、異色の民主党候補ジェームズ・タラリコ氏(37)が予想外に支持を広げ、共和党候補ケン・パクストン氏(63)と接戦となっている。共和党側はタラリコ氏への個人攻撃を強めるが、予備選で党内が割れ、パクストン氏に反発する党員が一定数残ることが不安材料だ。
8月29日、テキサス州フォートワースで開かれた集会「ニュー・アメリカン・ドリーム・ツアー」。会場は「タラリコ」と書かれたTシャツ姿の支持者ら約1000人で埋まった。
きっちり横分けした髪に、少年のようなあどけなさを残すタラリコ氏は対談で、28歳で糖尿病を患い、高額な医療費に悩んだ過去を明かした。「一部の大企業が米国の医療を独占し、価格を決めるのは正気のさたではない」と語った。
神学生として学びながら政治活動を続ける異色の経歴を持つ。この日もイエス・キリストの教えに触れ、「私が目指すのは、隣人の命を救い、全ての人の医療費を削減することだ。誰もが神から与えられた可能性を発揮できる社会にしたい」と述べた。
さわやかな弁舌や社会の包摂を訴える姿を、オバマ元大統領になぞらえる声も多い。大学職員のビビアン・ジョン・ルイスさん(23)は「政策は左寄りだが、教会で培った語り口は魅力で、保守的な人にも支持されている」と語った。
米紙ニューヨーク・タイムズなどが6月に行った世論調査では、両氏の支持率は47%で並んだ。米調査会社オーバートン・インサイツが8月24~26日に行った調査でも、タラリコ氏44・0%、パクストン氏43・4%となり、接戦が続いている。
トランプ政権と共和党は中傷を強める。タラリコ氏にビーガン(完全菜食主義者)のレッテルを貼り、バーベキューの本場であるテキサス州の候補にふさわしくないと攻撃している。
異例の接戦の背景には、同州の人口構造の変化もある。
米国勢調査局によると、同州の2025年人口は5年前から約250万人増え、約3170万人となった。全米の人口2万人以上の都市を対象とした直近1年間の人口増加数では、上位10都市のうち6都市をテキサス州が占める。
海外からの移民に加え、割安な生活を求めて西部カリフォルニア州などから移り住む人も増えている。人口に占める共和党の支持基盤だった白人層の割合の低下が指摘されており、民主党優勢の「ブルー・ステート(青い州)」からの人口流入も、保守地盤を揺るがす一因となっている。
一方、共和党の団結は不十分だ。予備選の決選投票で現職ジョン・コーニン上院議員を破ったパクストン氏には、コーニン氏支持者らの反発が根強い。投票日まで2か月となっても、党支持層の足固めが課題となっている。

8月29日、テキサス州ヒューストン郊外の住宅街。共和党運動員のジョシュ・キムさん(24)は有権者宅を回り、パクストン氏への支持を訴えた。訪問先は、共和党支持者と判明している家庭に絞った。
手にしたビラは、タラリコ氏を「史上最も過激な民主党員」と批判し、パクストン氏への支持を訴える内容だ。ただ、訪問先でパクストン氏の名前を出すと、手を横に振って支援を断る人もいた。
パクストン氏への拒否感は根強い。キムさんは「共和党員の1~2割はパクストン氏を支持していない」と話し、党支持者の票の一部がタラリコ氏に流れることを懸念した。
資金力、共和党が圧倒…「スーパーPAC」下支え
【ワシントン=上村健太】中間選挙が近づく中、共和党は資金力で民主党を圧倒している。
米連邦選挙委員会によると、共和党全国委員会は7月末時点で約1億3000万ドル(約205億円)を保有していた。一方、民主党全国委員会は約1600万ドル(約25億円)にとどまり、約1790万ドル(約28億円)の負債も抱えていた。
共和党の資金力を支えるのが、資金管理団体「スーパーPAC(政治活動委員会)」だ。個人や企業などから上限なく献金を受けられる。特定の候補者や政党と直接連携できない一方、対立候補へのネガティブキャンペーンなどは可能だ。
トランプ大統領を支持するスーパーPAC「MAGA Inc.」は約4億ドル(約630億円)を保有する。米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)によると、この資金はまだ共和党支援に投入されていないという。
急進左派伸長、中道戻れず…米リベラル派論客 ルイ・テイシェイラ氏

米中間選挙で与党が議席を失ってきた過去を踏まえると、共和党は今回も議席を減らすだろう。加えて、イラン攻撃などトランプ大統領の政策は有権者に不人気だ。民主党は本来なら穏健層を警戒させないような候補を擁立すれば、中間選挙で圧勝できるはずだ。
だが、実際には左派寄りの支持者が民主党予備選で活発に投票し、11月の中間選挙で勝利が見込めない急進左派の候補を選んでいる。彼らは、2024年大統領選の敗因はトランプ氏への攻撃不足だと考え、共和党に勝つには対立軸を強め、より進歩的な政策を掲げるべきだと信じている。
民主党内の急進左派は影響力を増す政治団体「アメリカ民主社会主義者」への支持を強めている。十分な知識がないまま社会主義を「良さそうだ」と考え、自分たちを「進歩的」で「正しい」と信じている。支持層には高学歴だが低収入の若者が多く、社会への不満や思想的な過激化につながりやすいとされる。
急進左派が重視するのは、人種や性別などのアイデンティティー、環境の問題だ。最近ではパレスチナ自治区ガザを巡る問題の重要性も増している。民主党内では「イスラエルは虐殺を行っていない」との発言は、もはや容認されない雰囲気だ。
国民の大半が関心を持つのはこうした問題ではなく、生活を豊かにする政策や家族、地域の問題だ。社会主義は本来、労働者層に根ざすが、現在の民主党は労働者層からさらに離れてしまっている。
民主党は下院を奪還するなど、中間選挙で「好成績」を収めるだろう。その結果、急進左派は自らの方向性に自信を深め、勢いづくに違いない。中間選挙の結果は民主党を束縛し、28年の大統領選に向け、党の軸足を中道に戻すことがますます困難になるだろう。(聞き手・ワシントン支局 向井ゆう子)
Ruy Teixeira 米リベラル派の論客。近著にジョン・ジュディス氏との共著「アメリカ民主党 失敗の本質」(東洋経済新報社)がある。
