「ファンを回したまま飲食店に入るのは勘弁して」 いまや“電動ファン付き作業服”は現場作業の必需品だけど…“モーター音”や“安全性”だけじゃない意外な問題点
ここ数年、夏になると外で仕事をする多くの現場作業員たちの上半身がやたらと着ぶくれしているように見える。
その正体は、「ファン付き作業服」だ。
【写真を見る】まるで「ミシュランマン」? ファン付き作業服の姿
ファン付き作業服とは、その名の通り、バッテリーで稼働するファンが搭載された作業服のこと。電源を入れるとファンが稼働。服の中に外気を取り込み、内部でかいた汗を蒸発させることで体から熱を奪い、冷やす仕組みになっている。
年々暑さが厳しさを増す日本の夏。ファン付き作業服は、今や現場の欠かせないアイテムとなっているが、普及が進む一方で、ブルーワーカーたちからの改善を求める声のほか、飲食店などでの使用に対する賛否の声も上がっている。

今回は、ファン付き作業服に対して集まった現場の声を紹介していきたい。
ブルーカラーの夏
ブルーカラー労働者のなかには、冷房の効いた室内で仕事をするオフィスワーカーとは違い、1日中、外で仕事をする人たちが大勢いる。
ある建設業の社長はこう話す。
「土木建設の現場において、夏の仕事はもはや命がけです。日が昇り始める前の早朝から作業を始められればいいですが、道路工事などは通勤ラッシュなどの兼ね合いもあり、交通規制ができる時間が決まっているため、大幅な調整は難しいんです」
また、とあるトラックドライバーはこう話す。
「働き方改革と言いながらも、現場ではフォークリフトを使わない手荷役(手で1つ1つ荷物を積み降ろす作業)がまだ一般的に行われています。炎天下、屋根も風もない倉庫で数千個の荷物の積み降ろし。作業の途中でTシャツを着替えないと荷物がびしょびしょになるくらい汗をかきます」
100年あたり、1.38℃の割合で上昇している日本の夏(6~8月)の平均気温※。2023年からは、各地で最高気温が40度を超える「酷暑」になる日まで頻繁に出始めている。
そんな状況下で仕事をするブルーワーカーたちにとって、ファン付き作業服は命を守る服だ。
「この服がないと、もう絶対、熱中症になると思う」
「作業中にバッテリーが死んだ時の絶望感は、ファン付き作業服を着たことのない人にはわかってもらえないでしょうね(笑)」
2000年代から開発・製造・販売されてきたファン付き作業服だが、特にこの数年は種類も販売数も爆発的に増加。現在は、袖なしタイプ、半袖タイプ、頭までをカバーするタイプなども登場している。
ファン付き作業服の欠点
一方、あまりの暑さのせいか、現場によっては効果を感じにくいという声も。
「服の中に取り込む外の空気自体がもはや熱いので、それほど冷えません。『ないよりマシ』が正直なところ」
「冷却剤入れないと、ひたすら熱風かき回してるだけですから(笑)。さながら、サウナにおけるロウリュのごとし」
「暑い外での着用では涼しいとは感じないが、水分補給の量がかなり少なくて済むことは確かですね」
さらに、その作業服らしい地味な色も手伝い、ファンの空気によって服が膨れると「ミシュランマン」のようになるのも気になる点のようだ。
「中年の作業員は見た目など気にしていられないでしょうが、若い作業員からは、やはり『ダサい』という声がチラホラ聞こえてきますね」
「今はどの現業職も女性が増えたんですから、デザイン性も多少でいいから加味して欲しいですよね。まあ、こういうと大抵『ピンクのファン付き作業服用意しました』となるのがこの業界の悲しいところ」
しかし、本当に問題なのは「見た目」ではない。作業の妨げになる点も多くある。今回の取材で多かったのが「音」に関する声だ。ファンはかなりの音がする。
「近くにいると、結構うるさいんですよね。もっと静音のファン作れないんだろうか」
「現場で作業している際は気にならないが、事務所など静かなところに入った途端、人の会話が聞こえにくくなる」
「話が聞き取りにくくなるので(要するに音が耳障りなので)事務所では使用しないで下さいって言われたことはあります」
使用中の危険性も
さらに、ファンの位置や大きさの改善を求める声も多かった。
「狭いところに入るときに、ファンが当たって邪魔になることがある」
「腰辺りにファンが付いてるタイプは、椅子に座ったりフォークリフトに乗ったりするとファンが背中に当たって痛いです」
「日陰のないサーキット場では、長袖タイプは日に焼けないので嬉しいですが、車の乗り降りが多い時は、背中にあるファンが邪魔なのでファン付き作業服を前後逆にして着たりしています」
「フード付きはヘルメット内まで冷えて良いらしいですが、ヘルメットの表面に書いてある会社名や苗字が見えなくなるのが欠点。今は長袖空調服+ファン付きのヘルメットで過ごしています」
最近ではサイドファンタイプ、さらにはフルハーネス等にも対応するタイプなどラインナップが豊富になってはきているが、現場の作業員は1つの動作を延々続けているわけではないため、やはりファンの存在そのものに課題がありそうだ。
もう1つ、ファンやバッテリーの「安全性」に対する深刻な懸念点も。
「溶接・塗装をしています。火を使う熱い現場なのでファン付き作業服は必須ですが、横にあるファンが塗装ミストと溶接のガスを巻き込んで胸元から出てきます」
「火花が散る作業場では、空気を吸い込むと同時に火花まで服内に入ってしまい、火傷に繋がったとの事象もあるようです」
「補助金を使ってドライバー用に導入したいと思ったのですが、バッテリー管理について懸念材料を提示され、却下に。短時間でも勤務中に車内に置き去りにする可能性や、点呼時に事務所で受け渡す場合も、管理担当者の確保が難しいのが課題です」
ファン付き作業服のマナー問題
そんなファン付き作業服の普及に伴い、現在現場で懸念され始めているのが、使用に対する「マナー」の問題だ。
ある現場関係者はこう話す。
「最近、ファン付き作業服のファンを回したまま飲食店で食事をしている方を見かけます。食事をする側としては、汗や臭い、衛生面が気になってしまう」
実際、飲食店でファン付き作業服を着たままの人が座った際、ファンの音や襟・裾などから漏れ出た空気が気になったという世間からの声も。これに対し、ファン付き作業服を使用する作業員たちからは
「賛成。飲食店ならエアコンもそこそこ効いているんだしファンは切るべき」
「エアコンの効いた部屋でファン回すとめっちゃ涼しいのですが、ファンをとめると、風を通さない素材なので逆に熱い。しかしファンを店の中で回し続けると、汗臭と体臭を周りに撒き散らすことになりますもんね。気遣いは大事」
とする声が多く上がる一方、
「風量の“弱”くらいは許してほしい。暑い所から涼しい所に入った時にあのひんやりした空気を取り込んだ時の気持ちよさ、堪らないんですよね」
とする声や、「弱くらいは認めてあげて欲しい。お店にいる間に体温下げさせてあげて欲しい」という現場外からの意見もあった。
実際、店によっては「ファンの使用はご遠慮ください」「店内では電源をお切りください」としているところも増えてきているという。
「『暑い中、仕事してるんだから』、と揉めている場面にも遭遇したことも。ファンで服の中の空気を循環させているので、汗の臭いも一緒に出てしまいます。もちろん気を付けている方も多く、うちの会社では、飲食店ではファン付き作業服を脱ぐよう徹底しています。飲食店などではファンを止める・ファン付き作業服を脱ぐなどのマナーが現場に広まってほしい」
こうしたブルーワーカーたちの使用感を反映し、今後よりいい商品が開発されることを期待したいところだが、一方、そもそも論として、ブルーカラーの夏の現場は、作業そのものに対策が必要なのではとも感じる。
最近の夏は、外で体を使って仕事をするには、あまりにも暑い。
作業員が高齢化していく現場。夏という季節の作業においては、ハード面ソフト面から対策を講じる必要があるのではないだろうか。
橋本愛喜(はしもと・あいき)
フリーライター。元工場経営者、日本語教師。大型自動車一種免許を取得後、トラックで200社以上のモノづくりの現場を訪問。ブルーカラーの労働問題、災害対策、文化差異、ジェンダー、差別などに関する社会問題を中心に執筆中。各メディア出演や全国での講演活動も行う。著書に『トラックドライバーにも言わせて』(新潮新書)、『やさぐれトラックドライバーの一本道迷路 現場知らずのルールに振り回され今日も荷物を運びます』(KADOKAWA)
デイリー新潮編集部
