(※写真はイメージです/PIXTA)

写真拡大

高齢になった親が暮らす実家に、使わないモノが山積み。「転んでケガでもしたら」と子どもが片づけを始めたものの、親にとっては簡単に捨てられないモノもあります。良かれと思って始めた「生前整理」で親子が衝突してしまった事例から、実家の片づけを進めるポイントをCFPの松田聡子氏が解説します。

「良かれと思って…」実家の片づけで78歳母が流した涙

山梨県で一人暮らしをする三宅敦子さん(78歳・仮名)は、2年前に夫を亡くしました。現在は月約14万円の年金(遺族年金を含む)で、つつましく暮らしています。預貯金も2,500万円ほどあり、持ち家のため、生活に困ることはありません。

長女の洋美さん(53歳・仮名)は、敦子さんの家から車で20分ほどの場所に住んでいます。子どもたちはすでに独立し、現在は近くのスーパーマーケットでパートタイマーとして働いています。

最近、洋美さんには気がかりなことがありました。敦子さんが家の中で転ぶことが増えてきたのです。洋美さんの実家は夫婦で暮らしていた一戸建てで、広さは十分にあります。ところが、亡くなった父が集めた本や洋服をはじめ、長年ため込んだモノで収納はいっぱいです。廊下や部屋の隅にも段ボール箱や紙袋が置かれていました。

「お母さん、これじゃまた転ぶよ。少し片づけようか」

子育てが一段落して時間に余裕ができたこともあり、洋美さんは実家の片づけを申し出ました。敦子さんも最初は「助かるわ」と喜んでいました。

実家は部屋数の多い広い家ですが、亡き父が残した本や衣類が押し入れに入りきらず、廊下や部屋の隅にまで積み上がっていました。床下収納からは、いつ漬けたのか敦子さん自身も覚えていない梅酒の瓶が何本も出てきました。押し入れには、箱に入ったままの結婚式の引き出物、古いタオルや食器などがひしめいています。

洋美さんから見れば「もう使わない」と思えるモノばかりでした。

「お母さんに一つずつ聞いていたら、いつまでたっても終わらない」

そう考えた洋美さんは、明らかに不要だと思うモノについては、自分の判断で処分することにしました。

ところがある日、洋美さんが古い子ども服をまとめて捨てたことを知ると、敦子さんの表情が一変します。それは、洋美さん自身が幼いころに着ていた服でした。

「どうして捨てちゃったの? ずっと大事に取っておいたのに」

「だって、もう50年近く前の服でしょう。誰も着ないじゃない」

すると敦子さんは、「勝手に私の思い出をゴミにしないで! もう、いいかげんにして」と涙を流しながら部屋に閉じこもってしまいました。

母のために良かれと思ってやっているつもりだった洋美さんは、思いもよらない反応に言葉を失いました。

約半数が「実家はモノだらけ」…片づけが親子トラブルに発展する背景

洋美さんのように、親が暮らす実家の片づけが気になっている子世代は少なくありません。

ブルークリーン株式会社が2026年7月、親が実家に住んでいる30代以上の男女500人を対象に実施した「ご自身の実家に関するアンケート」では、「明らかに物が多い」「やや物が多い」と回答した人は合わせて52.8%でした。さらに34.8%が、将来実家がゴミ屋敷化する可能性を感じています。

一方、実家の片づけについて親と「話したことはない」「話したいが切り出せていない」という人は合わせて67.8%に上ります。必要性を感じながら、親子だからこそ話しにくい問題でもあるのでしょう。 なぜ、親を思う「善意の片づけ」が、親子の関係悪化を招いてしまうのでしょうか。そこには、世代間における「モノに対する価値観の決定的なズレ」が存在します。

高度経済成長期やバブル期を経験したシニア世代にとって、モノを所有することは豊かさの証であり、「使えるモノを捨てるのは罪悪」という価値観が根底にあります。また、子どもの衣服や作品、亡き配偶者の遺品は、親にとって「家族と過ごした時間や自分の生きてきた証」そのものです。第三者から見ればただの不用品であっても、本人の許可なく捨てられることは「自分の尊厳を踏みにじられた」ような精神的ダメージをもたらす可能性があります。

とはいえ、実家のモノを放置し続けることには現実的な生活・経済リスクが伴います。親が亡くなった後に一軒家の遺品整理を丸ごと専門業者へ依頼した場合、間取りや荷物の量によっては100万円以上の費用がかかることも珍しくありません。

生前に「全部捨てる」必要はない…重要書類だけは元気なうちに確認を

親子関係にヒビを入れず、かつ将来の金銭的・身体的リスクを回避するためには、どのような手順で実家の整理を進めるべきでしょうか。FPから4つのポイントを解説します。

1. 「捨てる」ではなく「安全・快適な生活」を目的にする
親に片づけを提案する際は、「捨てる」という言葉を使わないほうが賢明です。「これからの暮らしを安全で快適にするため」と伝えましょう。 まずは家全体ではなく、玄関、廊下、階段、寝室からトイレへの動線など、「転倒リスクの高い場所の床にモノを置かない」ことだけに絞って進めます。

2. 親の決定権を守り、「捨てる以外の出口」を用意する
どんなに不要に見えるモノでも、勝手に処分してはいけません。判断に迷うものは無理に捨てさせず「保留ボックス」のようなものを作って一時保管します。 また、未使用の引き出物や蔵書などは、リサイクルショップの出張買取や寄付を活用するのも有効です。ゴミとして捨てるのではなく、誰かに使ってもらう方法であれば、手放すことへの心理的抵抗が大幅に和らぐでしょう。

3. 片づけと同時に「重要書類・財産の棚卸し」を行う
 片づけは、預貯金通帳、保険関係の書類、不動産の権利証、実印などがどこに保管されているかを親自身に整理してもらうよい機会です。 親の認知判断能力が低下し、本人の意思確認が難しくなれば、預金の引き出しをはじめとする金融取引や各種手続きが、それまでと同じようにはできなくなる場合があります。元気なうちに親自身が整理し、「何かあったときに必要なものがどこにあるか」を家族と共有しておくことが重要です。

4. あえて「生前にすべてやりきらない」という割り切りを持つ
一方で、あえて「生前にやりきらない」という割り切りも現実的な選択です。親がどうしても手放せないモノまで無理に捨てさせれば、親子関係そのものが壊れます。親が残しておきたい思い出の品は将来、費用をかけて業者に頼むと決めておけば、親も子も気持ちが楽になるでしょう。

生前整理は、残される子どものためだけに行うものではありません。これからも親が自分の家で安全に、気持ちよく暮らすために何が必要なのか。そこから考えれば、すべてのモノを捨てることが正解ではないはずです。

洋美さんも敦子さんと改めて話し合い、「廊下や床にあるモノだけは減らす」「押し入れの中の思い出の品には勝手に触らない」と決めました。遠回りに見えても、それが親子で生前整理を続けていくための近道といえるでしょう。

参考:ブルークリーン株式会社「ご自身の実家に関するアンケート 2026年7月」(調査対象:親が実家に住んでいる30代以上の男女/有効回答数500人)

松田聡子
CFP®