水原一平受刑者が胴元に“密会”して話した内容とは(写真/Aflo)

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 ドジャース・大谷翔平(32)の銀行口座から約1700万ドルを盗んだとして、元専属通訳・水原一平受刑者(41)が不正送金の罪に問われた違法賭博事件。その黒幕とされていた胴元のマシュー・ボウヤー氏(違法賭博罪で禁錮1年1日、今年5月半ばに出所)はこれまで、米国内を中心に数々のメディアの取材に応じてきた。

【写真】タトゥーが腕までビッシリ入った賭博胴元・ボウヤー。スキャンダル発覚当日、水原が大谷に向けていた「微笑み」

 今年7月下旬から米スポーツ専門メディアのESPNが公開しているオーディオドキュメンタリー「大谷翔平を裏切った男」では、自身が家宅捜索を受けた後、水原受刑者と"密会"した不純な動機についても正直に告白している。

 返済に追い込まれていた水原受刑者が当時ボウヤーに語った「言い訳」と、その態度とは--事件の取材を続けてきたノンフィクションライターの水谷竹秀氏がレポートする。【前後編の前編。以下敬称略】

「一平はとにかく口数が少なかった」

 ボウヤーが水原と出会ったのは2021年9月上旬、カリフォルニア州サンディエゴのホテルで開かれたポーカーゲームだった。参加人数は13人ぐらいで、大谷や水原と親しかった外野手のデビッド・フレッチャー元選手(2025年11月引退)らエンゼルスのチームメイトやコーチも複数、同席していた。

 この日を境に水原は、ボウヤーが違法に運営するスポーツ賭博のアカウントを開設した。手始めにトルコのサッカー1部リーグに1000ドルを賭けたが、予想は外れた。以降もサッカーを中心にギャンブル熱がエスカレート。尋常ではない賭け方を続けていたと、ボウヤーは振り返る。

〈彼が賭けていた金額は、まったくもって常軌を逸していた。彼は一晩中賭けていた。あんなのは見たことがない。賭けの対象はサッカーが中心で、たとえばウクライナ対トルコの試合で、引き分けると予想して10万ドルを賭けたり、サウジアラビアやカザフスタンなど(サッカーの世界では)それほど知名度があるとはいえない国にも賭けていた〉

 水原がスポーツ賭博を始めて2か月ほどが経ち、負けの総額が4万ドルに達したところで、ボウヤーは初めて、水原に返済を迫った。

 懲りない水原は、賭け金の上限を引き上げるようたびたび要求し、ボウヤーはそれに応えて引き上げた。この結果、水原の借金は雪だるま式に膨らんだ。

 検察の調べでは、水原は2021年11月半ばに4万ドルをボウヤー側に送金して以降、1回に50万ドル(約7900万円)単位のカネを合わせて36回送金している。送金は2023年10月13日まで続いたが、その直前、ボウヤーは違法賭博の疑いをかけられ、カリフォルニア州の自宅で米連邦捜査局による家宅捜索を受けた。

 水原から送金を受け続けた約2年間、ボウヤーは水原とスマホでやり取りを交わし、エンゼルスのスタジアムでは簡単な挨拶をする程度で、一緒にどこかへ出掛けるといった親しい間柄にはならなかった。私の取材にも「一平はとにかく口数が少なかった」(ボウヤー)と語り、人柄はあまり印象には残っていないようだった。そのボウヤーが家宅捜索を受けた後、初めて水原と1対1で会った。それには理由があった。

 水原は2021年9月から2024年1月までの間に約1億4225万ドル(約217億円)勝ったが、約1億8293万ドル(約278億円)負けたため、差し引きすると約4067万ドル(約61億円)のマイナスだった。ボウヤーへの支払いは1500万ドル強にとどまり、2400万ドル強がまだ残っていた。その返済を迫るため、ボウヤーは水原とスターバックスで"密会"した。

「無礼な態度だった」

〈そのとき、私は(水原に)何か問題があることに気づき始めた。彼は「俺って本当にダメだな。予想が当たらない」なんて言っていたから。どちらかといえばうんざりしていた。少し愚痴をこぼしていた。私が賭けに負けたときに言うのと同じような愚痴だった。「2400万ドルも借りてしまったし、人生が終わった」という感じではなく、むしろ「どうしても勝てない。ごめん、今はお金を用意できない」みたいな〉

 このスタバでの話し合いの後、水原は2023年末から翌2024年1月上旬にかけ、合計125万ドルを3回に分けてボウヤーの仲間の口座に送金している。連邦捜査当局との合意事項では、家宅捜索を受けたボウヤーは賭け金の徴収を禁じられており、本来水原からの送金を受けてはいけなかった。そのことを把握していた上でなお、ボウヤーは水原に送金を迫っていた。

〈私たちは、未払い残高の一部を受け取り、それを彼ら(連邦当局)に送金して、私の賠償金や(未払いの)税金などに充当してもらえないか、と直接尋ねてみたほどです。しかし、彼ら(連邦当局)は「絶対にダメだ」と答えました〉

 家宅捜索を受けたボウヤーは、自身に降りかかる賠償金などを減額するため、水原からの送金を当てに、悪あがきをしたのだろう。だが、それが裏目に出たと、ボウヤーは考えている。

〈正直なところ、もしそうしなかったら(水原に最後の送金を迫っていなかったら)、おそらく自宅軟禁処分で済んだでしょう。あの時をやり直せたら良かったのにと思います〉

 ボウヤーは2025年8月下旬、米連邦地裁から禁錮1年1日を言い渡され、カリフォルニア州のロンポック連邦刑務所へ収監された。塀の中での態度が評価されて刑期は徐々に短縮され、今年5月半ばに出所している。

 悪あがきが裏目に出て、刑が重くなったと悔やむボウヤー。ただ、スキャンダルが弾ける直前に"悪あがき"をしていたのは水原も同じだった--後編記事で詳報する。

(後編につづく)

【プロフィール】水谷竹秀(みずたに・たけひで)/ノンフィクションライター。1975年生まれ。上智大学外国語学部卒。2011年、『日本を捨てた男たち』で第9回開高健ノンフィクション賞を受賞。他に『ルポ 国際ロマンス詐欺』(小学館新書)などの著書がある。10年超のフィリピン滞在歴を基に「アジアと日本人」について、また事件を含めた現代の世相に関しても幅広く取材を続け、ウクライナでの戦地ルポも執筆。