フードデリバリーの王者ウーバーイーツも危うい…手数料37.8%を抜き、事故責任から逃げる「街の破壊者」の末路

■コロナ禍で急拡大したフードデリバリー
フードデリバリーのプラットフォーマーだった「menu」が、このほど事業からの撤退を発表した。menuは2026年9月30日をもって事業を終了する。
フードデリバリーは2020年初頭から感染拡大した新型コロナウイルスの影響によって、広く認識されるようになった。それまでもピザや寿司といった飲食店では、デリバリーを実施してきた。
日本には“出前”という文化もあり、飲食店が注文された品を各家庭へと届けることは珍しくない。しかし、フードデリバリーと従来の出前の大きな違いは、プラットフォーマーが商行為に大きく関与していることが挙げられる。
IT技術の進化によってスマホひとつで簡単に飲食物が注文できるようになったが、なによりフードデリバリーが世間一般に浸透した理由は新型コロナウイルスの感染拡大を避けるという目的からだった。
コロナ禍は密を回避しなければならず、屋内でしかも客と客の距離が近い飲食店はコロナが感染拡大する条件が揃っていた。そのため、政府は飲食店などに営業自粛を呼びかけ、社会全体がそれを容認する空気が生み出された。
飲食店は営業休止もしくは縮小に迫られたが、日々の経費として家賃・人件費・光熱水費の基本料などが固定費としてのしかかる。これらを支払うため、飲食店の多くはテイクアウトを実施して生き残りを図った。
■先駆者Uber Eatsが圧倒的シェアを握る
とはいえ、その売り上げだけでは限界がある。そこで新たな販路として、客側が持ち帰るテイクアウトではなく店側から配達するデリバリーに活路を求めた。
コロナ禍によって、Uber Eatsや出前館といったフードデリバリーが広く活用されるようになり、それらはフードデリバリープラットフォーマーとして存在感を高めていった。
Uber Eatsはフードデリバリープラットフォーマーの最大手で、日本には2016年に進出するなど業界の先駆者でもある。それまでは広く認識されていなかったが、コロナ禍をきっかけに大きく利用者を増やした。Uber Eats以外のプラットフォーマーも次々と参入したが、現在に至っても国内のフードデリバリーはUber Eatsが圧倒的シェアを誇っている。
コロナ禍によってフードデリバリーは広く利用されることになったが、フードデリバリーが隆盛を誇る要因はそれだけに限らない。昨今の副業ブームという社会的環境も配達員という人的資源の確保を後押しし、それがフードデリバリーの追い風になっている。フードデリバリーが便利なサービスであることは否定しないが、風土・慣習・文化に照らして、これらのサービスが日本に根付くか? と問われれば、そこには疑問が残る。
■サービスに対して後ろ向きな自治体
そして、フードデリバリーに対して地方自治体、なかでも基礎自治体と呼ばれる市区町村は消極的な姿勢を崩していない。
市区町村は飲食店がコロナ禍で危機に瀕していたこともあって、飲食店の救世主になり得るUber Eatsに対して期待も含めて静観していた。それでも当時から行政はテクノロジーを駆使するフードデリバリー事業者を好意的には見ていなかった。
筆者が取材した複数人の行政職員は名指しこそしなかったものの、特に業界の代名詞的存在にまで成長したUber Eatsに違和感を抱いていた。なぜ、行政はUber Eatsに違和感を抱いていたのか? それを解きほぐすには、まずUber Eatsを取り巻くプレーヤーを整理しておく必要がある。
フードデリバリー市場におけるプレーヤーは大別して、以下の6者に分類できる。
(1)フードデリバリープラットフォーマー(例:Uber Eatsや出前館、ロケットナウなど)
(2)料理を提供する街の飲食店
(3)配達員
(4)注文者(消費者)
(5)街を歩いている人(非注文者)
(6)行政
このうち、(1)(2)(3)(4)はビジネスを通じた関係にあるので理解しやすい。また、(5)の街を歩いている人(非注文者)に関してもUber Eatsの配達員が運転する自転車で危険な体験をしたといった怨嗟の声をよく聞くので、想像しやすいだろう。

■人手不足の飲食店を助けた配達アプリ
一方、(6)行政とフードデリバリーの牽連性はすぐに理解できないかもしれない。しかし、行政の存在を抜きにフードデリバリーによる社会的問題を語ることはできない。
もともと街の飲食店は、大資本のチェーン系を除けば細々と営業をしている個人事業主が圧倒的多数で、配達に人員を割ける余裕は少なかった。
かつて家族経営的な飲食店が多かった頃は家族による助力も期待できたが、そうした家族による支援は時代とともになくなっていく。そうした飲食店の隙間を埋めたのが、Uber Eatsをはじめとするフードデリバリーのプラットフォーマーでもあった。
フードデリバリーのプラットフォームを活用すれば、配達員の確保に悩むことはない。飲食店にとって人件費は大きな負担になる。それが配達員を常駐させる必要はなく、配達の注文が入ったときだけ配達員を使うことができる合理的かつ経済効率性のいいシステムといえる。それだけに飲食店がフードデリバリーのプラットフォーマーを導入して売り上げを拡大するメリットはあった。
■40%近くもの手数料が取られてしまう
一方、フードデリバリーの配達員は隙間時間をうまく活用してアルバイト感覚で働くことができる。Uber Eatsは副業ブームも追い風に順調に配達員を増やし、それに伴って売り上げも伸ばしてきた。
しかし、飲食店にとってネックになるのはフードデリバリーのプラットフォーマーに支払う手数料だ。タリーズコーヒー創業者で、元参議院議員の松田公太氏は2020年7月に配信された東洋経済オンラインのインタビューで、飲食店側からUber Eatsに支払われる手数料を38%と明かしている。
その後、松田氏は自身のSNSで正確な数字として37.8%と修正したが、取り立てて間違った数字ではないだろう。少なからず、これほど高い手数料を徴収されたら、飲食店が現状の価格で利益を出すことは難しい。

そうなると飲食店は値上げをせざるを得ず、その負担は注文者に転換されることになる。値上げによって店側は利益を確保できるが、その分だけ注文者が払う金額は膨らむ。注文者は自己のために利用しているのだから、値上げ分を負担するのは当たり前だが、問題はその先にある。
■「街の破壊者」と呼ぶ声も
値上げをした結果、これまでだったら週3回注文していた人が週2回に利用を減らすといった現象が起きることになる。巡り巡って飲食店が機会損失となり、それは売り上げ・利益にも影響を及ぼす。
なによりもフードデリバリーのプラットフォーマーは基本的にキャッシュレス決済のため、街の飲食店にとってそれらの導入費用・手数料は無視できない。
また、キャッシュレス決済は売掛金となるため、すぐに店側に入金されない。個人営業の飲食店にとって現金決済は日々の回転資金にもなる。それだけに、キャッシュレス決済の導入は街の飲食店にとって資金繰りを悪化させる。これで立ち行かなくなる飲食店もあるだろう。
行政にとって、地元の飲食店は街をつくる共同体といった存在になる。一方、フードデリバリーのプラットフォーマーは得体も知れない企業で、言うならば街の破壊者でもある。
「フードデリバリーが栄えて飲食店が滅ぶ」と自嘲していた自治体関係者もいた。だから行政は、フードデリバリーのプラットフォーマーにいい顔をしていなかった。とはいえ、行政という官がグローバルに展開する企業を相手に経済活動で太刀打ちできるわけがない。それでも数少ない自治体が地元の飲食店保護を名目に、独自にフードデリバリーの事業に乗り出した。
■配達サービスに行政が疑問を感じたワケ
2020年4月には東京都文京区が、7月には三鷹市が公営のフードデリバリーサービスを開始。自治体が独自にフードデリバリー事業を始めた理由は、街の飲食店を守るという大義名分だけではなかった。仮に街の飲食店を行政が守ろうとするなら、キャッシュレス決済の導入費用を助成するといった施策もある。文京区や三鷹市は、そうした助成金による解決を選ばなかった。
文京区や三鷹市は飲食店の経営を心配するだけではなく、配達員にも着目していた。文京区は地元の社会福祉協議会を通じて配達員を募集・確保し、三鷹市はコロナ禍でアルバイトができなくなって経済的に困窮していた学生を中心にスタッフを揃えた。
これにより、地元の飲食店を地元住民が支え合うという関係が構築されることになる。ここに税金が投入されたことは有効な使い方といえるだろう。
■十分とは言えない配達員への対応
フードデリバリーのプラットフォーマー、なかでもUber Eatsの配達員は業務委託契約の個人事業主が多く、速く走ればその分だけ配達件数をこなすことができ、自分の報酬にも反映される。そのため、いかに速く届けるかが至上命題になり、それは道路やガードレールなどを損傷させる事故・トラブルにもつながっていく。2021年には東京都板橋区で配達員が横断歩道を渡っていた高齢者を死亡させる事故も起きた。
猛スピードで駆け抜ける配達員に恐怖を覚えた人は少なくないだろう。自分が注文した料理なら、温かいうちに食べたいから急いでくれる配達員をありがたく感じることもあるだろうが、自分とは無関係な飲食物を運搬する配達員によって怪我をさせられたら、憤りを覚えるのが一般的な感情だ。

配達員に対する怨嗟の声が高まり、それはプラットフォーマーのUberも無視できなくなった。こうしてUber側は対人・対物保険を用意するようになった。同保険は「自宅から待機場所に移動する際に起きた事故」「配達先から待機場所に移動する際に起きた事故」「待機中の事故」などは対象外となっている。
■事故のうち約16%が保険適用外で起こる
少し古いデータになるが、ウーバーイーツユニオンは2020年に調査を実施し、配達員が起こした事故のうち約16%が配達依頼を受けていない状態で起きていることを公表した。待機時間は保険適用外ということになるので、当然ながら被害者の救済・保護も手薄になる。
通常、企業は従業員などの被用者が仕事中に他人に損害を与えると、企業が損害賠償責任を負う。これは民法第715条に明文化されている使用者責任と解される。
これに基づけば、配達員が事故を起こして通行人(5)に怪我を負わせた場合や届け先の住居もしくは配達中に道路などを損傷させた場合、まずは雇用主(1)が賠償責任を負う。
もちろん、配達員がまったく免責されるわけではないが、同法は被害者の救済・保護を最優先する目的を含んでいるため、ひとまず使用者が責任を取る形で被害者に賠償し、その後に使用者が被用者へ求償するという段取りになる。
UberEatsでは、事故やトラブルの責任はとにかく配達員が負わなければならない。これは企業としての責任を放棄しているのに等しい。

■ブーム終了で配達会社の競争が激化
配達員による事故・トラブルが相次ぎ、それらの一部は訴訟にまで発展した。Uber Eats側も被害者に向き合わざるを得なくなり、少しずつ補償面で改善が見られるようにはなっている。
例えば、現在は配達員が加入できる保険に弁護士特約も付与されている。これは配達員に代理して弁護士が被害者と交渉してくれるという内容で、弁護士がつくことで配達員は安心して仕事に打ち込めるようになる。それでも事故はあくまでも配達員の責任という意識が存在している。これでは被害者へのケアが手薄になり、まだ十分とは言い難い。
歩行者や生活者の安全を確保することは重要な行政課題であり、責任を放棄しているとも受け取れるUber Eatsを自治体が受け入れることは容易ではない。
コロナ禍が収束し、文京区や三鷹市といった自治体独自のフードデリバリーサービスは役目を閉じた。これによって民間のフードデリバリープラットフォーマーがシェアを拡大するチャンスを得たが、フードデリバリー需要が一服したことでプラットフォーマーも生存競争が激しくなった。
Uber Eatsはフードデリバリー市場を席巻する存在ゆえに目立ってしまい、本稿でもUber Eatsを中心にその問題点を触れざるを得ないが、ほかのフードデリバリープラットフォーマーにも問題がないわけではない。ここまでも述べてきたようにフードデリバリープラットフォーマーは行政との関係をうまく築けていない。行政と関係をうまく築けていないからといって即座にフードデリバリーのビジネスモデルが否定されるわけではない。
■会社だけが儲かる仕組みでは長続きしない
それでもフードデリバリーは食品衛生法に基づく営業許可、配達員・プラットフォーム事業者を対象とした交通安全対策・運送業法といった法規制が多く、その許認可の権限を有する地元自治体・保健所・警察署といった行政との連携は欠かせない。特に行政からは「フードデリバリーのプラットフォーマーは情報を開示する意識が希薄」と見る向きが強い。これは外資特有の閉鎖性もあるのかもしれない。
フードデリバリーのプラットフォーマーが改善策を講じたとしても、行政からはそれを窺い知ることができない。そうしたもどかしさも不信感として積もっていく。これらを総合考慮すれば、行政と密に連携ができていないことの意味する帰着点は明白だろう。

なによりフードデリバリーというビジネスは、先述した(1)〜(6)の(1)のプラットフォーマーだけが儲ける仕組みになっており、(2)〜(6)はプラス面が少ない。
コロナ禍が去った今、こうしたビジネスが継続できるとは考えにくい。(2)〜(6)が離れれば、当然ながら(1)のプラットフォーマーもビジネスとして展開できない。実際2022年1月末にはfoodpandaが、2022年5月にはDiDi Foodが、2026年3月にはWoltが撤退した。
これらと入れ替わるようにロケットナウが台頭してはいるものの、2026年4月から自転車の交通違反に科される青切符制度が導入され、それらがフードデリバリーの障壁となって立ちはだかる。
menuが撤退を表明したことで再びフードデリバリープラットフォーマーに暗雲が立ち込めている。この先、フードデリバリー市場に明るい材料は見当たらない。仮にフードデリバリープラットフォーマーが自己のためだけに利益拡大を図っても、(2)〜(6)の存在を抜きにして業界の繁栄はない。巨人・Uber Eatsも含めて業界全体が縮小を迫られることは必至だ。
----------
小川 裕夫(おがわ・ひろお)
フリーランスライター
1977年、静岡市生まれ。行政誌編集者を経てフリーランスのライター・カメラマンに転身。「東洋経済オンライン」「デイリー新潮」「NEWSポストセブン」といったネットニュース媒体で定期的に取材・執筆・撮影。取材テーマは、旧内務省や旧鉄道省、総務省・国土交通省などが所管する地方自治・都市計画・鉄道など。また、官邸で実施される内閣総理大臣会見には、史上初のフリーランスカメラマンとして参加。著書に『鉄道がつなぐ昭和100年史』(ビジネス社)、『渋沢栄一と鉄道』(天夢人)、『東京王』(ぶんか社)、『封印された東京の謎』(彩図社文庫)、『路面電車の謎』(イースト新書Q)など。共著に『沿線格差』(SB新書)など多数。
----------
(フリーランスライター 小川 裕夫)
