負担が減る? 「多発性硬化症」の“治療費”を抑える「2つの公的制度」

MSの治療は長期にわたることが多く、疾患修飾薬(DMT)と呼ばれる再発予防薬をはじめとする薬剤費は、健康保険を適用しても自己負担額が大きくなる場合があります。急性期の入院治療や定期的なMRI検査、リハビリテーションにかかる費用の目安を整理し、治療を継続するための経済的な見通しを考える材料をご提供します。

監修医師:
松繁 治(医師)

経歴
岡山大学医学部卒業 / 現在は新東京病院勤務 / 専門は整形外科、脊椎外科
主な研究内容・論文
ガイドワイヤーを用いない経皮的椎弓根スクリュー(PPS)刺入法とその長期成績
著書
保有免許・資格
日本整形外科学会専門医
日本整形外科学会認定脊椎脊髄病医
日本脊椎脊髄病学会認定脊椎脊髄外科指導医
日本整形外科学会認定脊椎内視鏡下手術・技術認定医

多発性硬化症 (MS) の治療費:基本的な費用構成を知る

MSの治療は長期にわたることが多く、治療費や薬代の負担は患者さんやご家族にとって非常に大きな関心事です。どのような治療にどのくらいの費用がかかるのか、また利用できる公的な支援制度には何があるのかを正しく理解することは、安心して治療を継続するうえで欠かせません。このセクションでは、MS治療における具体的な費用構成とサポート制度を解説します。

薬物療法の費用:インターフェロン・経口薬・点滴治療

MS治療の中心となるのは薬物療法です。使用する薬の種類や投与方法によって費用は大きく異なります。治療薬は大きく「急性期の症状を抑える治療薬」「再発予防薬(疾患修飾薬:DMT)」「辛い症状を和らげる症状緩和薬」に分けられます。このうち疾患修飾薬は、免疫の過剰な働きを抑えて再発率を下げ、病気の進行を長期的に防ぐことを目的とした重要な薬です。
代表的な疾患修飾薬の「インターフェロンβ(ベータ)」は、ご自身やご家族が自宅で皮下・筋肉内注射を行うお薬です。健康保険(3割負担)を適用した場合でも薬剤費が高額になるため、月に数万円程度の自己負担が生じることが一般的です。
また、通院して服用する経口薬(飲み薬)には「フィンゴリモド」「ジメチルフマル酸」「テリフルノミド」などがあり、定期的に点滴投与する「ナタリズマブ」や、皮下注射を行う「オファツムマブ 」などの分子標的薬も用いられます。これらの高度な新薬は薬価が高く設定されているため、3割負担のままだと毎月の医療費負担がかなり重くなります。治療薬の選択にあたっては、病型のタイプや再発リスク、副作用、患者さんのライフスタイルに加え、経済的な継続可能性も含めて主治医としっかり相談することが大切です。

入院・検査・リハビリにかかる費用の目安

薬物療法以外にも、MSの治療には再発時の入院費用、経過を観察する定期検査費用、身体機能を保つためのリハビリテーション費用がかかります。
症状が急激に悪化する再発が起きた場合は、ステロイド薬を大量投与する「ステロイドパルス療法」のため数日~2週間程度の入院が必要となります。入院時には処置費のほかに室料や食事代などが加算されますが、一般的な公的公費制度である「高額療養費制度」を活用することで、1ヶ月あたりの自己負担額に年齢や所得に応じた上限が設けられます。
定期検査としては、半年~1年ごとに病変の有無を確認する脳・脊髄のMRI検査(3割負担で1万~2万円程度)や定期的な血液検査が行われます。さらに、歩行機能や手足の運動機能を維持・回復するためのリハビリ(理学療法・作業療法等)を通院や入院で受ける際にもリハビリ費用が発生します。
なお、MSは厚生労働省の「指定難病(指定難病13)」に認定されています。症状の重症度基準を満たす場合や、薬価が高く「月間の医療費総額(10割)が3万3330円を超える月が年間3回以上ある(軽症高額該当)」場合は、指定難病の医療費助成制度を申請できます。認定されると窓口での自己負担割合が2割へ引き下げられ、世帯所得に応じた「月あたりの自己負担上限額(0~3万円)」が設定されるため、長期にわたる経済的負担を大幅に軽減できます。

まとめ

多発性硬化症(MS)は、女性に多く見られる中枢神経の自己免疫疾患であり、初期症状が多様なために診断に時間がかかることもあります。視神経炎や感覚障害、運動障害などの初期サインを見逃さず、早めに神経内科を受診することが大切です。治療薬や定期検査などの費用は指定難病制度や高額療養費制度によって軽減できる部分もあります。気になる症状がある場合や治療の継続に不安を感じる場合は、まずは神経内科に相談することをおすすめします。

参考文献

厚生労働省「013 多発性硬化症/視神経脊髄炎」

難病情報センター「多発性硬化症(指定難病13)」

国立精神・神経医療研究センター「多発性硬化症とは」

日本神経学会「多発性硬化症・視神経脊髄炎スペクトラム障害診療ガイドライン2023」