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―[橘玲『エロス資本論』]―

「性的魅力は、資本になる」ーー。’00年代初頭、イギリスの社会学者キャサリン・ハキムが提唱した「エロス資本」という概念がある。若い女性の性的魅力は経済的価値を持つ「資本」であり、それをマネタイズすることには経済合理性がある、という考え方だ。
キャバクラ嬢、コンカフェ嬢、アイドル、立ちんぼ……。本連載では、作家・橘玲がエロス資本の視点から、彼女たちの行動と動機を深く掘り下げていく。

(※本記事は週刊SPA!連載「エロス資本論」Vol.1を元に構成しました)

◆路上に立ち続ける 「立ちんぼ」から 見える経済合理性

歌舞伎町のホテル街を歩くと、路地の脇に若い女性たちがぽつぽつと立っている。

かつて大久保公園周辺に集まっていた「立ちんぼ」は、警察の取り締まり強化でホテル街へと分散したが、それで歌舞伎町の”立ちんぼ市場”が消えたわけではない。週末ともなれば、いまなお30~50人ほどの女性が立っていることも珍しくない。

立ちんぼは当然ながら違法売春であり、「風俗の最底辺」をイメージするかもしれないが、実はその認識はかなりズレている。取り締まりの影響で「かつてのように一日10万円稼げる日は減った」との声もあるが、それでも彼女たちが立ちんぼという選択をするのは、そこに確かな「経済合理性」があるからだ。

路上売春の現場では、違法行為を抜きにして、極めてドライで冷徹なまでにインセンティブに忠実な、一種の「究極の自由市場」が成立している。

◆「中抜きなし、客を選べる」という経済合理性

通常の風俗店の場合、男性客が例えば1万8000円の料金を支払ったとしても、店の取り分などの「中抜き」が発生するため、女性の手取りは1万円程度に減ってしまう。さらに出勤ノルマや風俗ポータルサイトの日記更新などの”労働”も発生する。

その点、立ちんぼは個人営業だ。彼女たちが風俗店(デリヘルやファッションヘルスなど)に籍を置かず、あえてリスクのある路上を選ぶ最大の理由は、「中抜き(マージン)がない」ことと「客を自分で選べる」という2点に集約される。立ちんぼの現在の相場は、コンドームありで2万円、ナマで2万5000円が目安とされる。取り締まりの影響で収入は減っているというが、それでも「中抜きがない」という点は大きい。

これに加え、客を自分の意思で品定めして選べるのだから、労働者としての主導権は圧倒的に女性側にある。いわば「エロス資本のフリーランス化」だ。