「もう一人の自分との勝負」ドラ3ルーキーが魅せる日本で稀有な大型遊撃手の“片鱗” 元首位打者コーチたちが「本当に衝撃」と認める力【DeNA】

ここぞの局面で欲しい一本が出るようになってきている宮下。その裏には2軍での鍛錬の積み重ねがあった(C)産経新聞社
首脳陣たちが舌を巻いたルーキーの衝撃行動
2026年2月1日。キャンプ初日の朝だった。
まだプロ野球選手として右も左も分からないはずのルーキーが、誰に言われるでもなく室内練習場にいた。全体練習が始まる前から黙々と一人で動いていた。
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鈴木尚典打撃コーチは、その姿に目を奪われた。
「キャンプの2軍スタートだった宮下が、キャンプ初日ですよ。自分から全体練習が始まる前に、室内で事前練習というか、自主練をやってたんですよ。僕、何十年とこの世界にいますけど、ルーキーの子が初日ですよ? 普通だったら右も左もわからない子が自分でやってたんすよ。それは本当に衝撃的でしたね。それくらい彼は練習もするし、取り組む姿勢がある」
ドラフト3位で入団した宮下朝陽という男を語る上で、球団のレジェンドOBでもある鈴木コーチが告白したエピソードは象徴的だ。
自分に何が必要なのかを考え、自ら動く。その思考は自分で課題を見つけ、自分なりの答えを探すというプロとして必須要素を備えていることの証左でもある。
宮下の姿勢は、レギュラーシーズンが始まり、プロの厳しさを知ってからも変わらなかった。
1軍の舞台で結果を残し続ける難しさに直面した宮下は今シーズンに2度の2軍降格を経験した。その際も自らの頭で考え、弱点を克服。その結果、8月18日の巨人戦でサヨナラ打を放つなど、ここぞの局面でチームの戦力となっている。
1軍で打席に立つ上で、立ち塞がったのは、相手投手陣の厳しいインコース攻めだった。
苦心した課題を抱えながら2軍に戻った6月。宮下と向き合ったのは、村田修一監督だった。
現役時代にNPB通算360本塁打を放った強打者でもある村田監督。打撃の引き出しは豊富に持つ中で、指揮官は宮下にいきなり答えを与えなかった。まず、宮下自身が1軍の打席で何を感じたのかを聞いた。
「『どう感じた?』っていうのをまず聞きました。すると身体に近いところに速いボールを投げられて、それを思いっきり打とうとしても、やっぱり(身体が)開いて打っても対応できないと。『なら、ちょっと重心を落としながら、横向けてパーンってさばいちゃうようなイメージしないと』とは言いました」
力任せに振るのではなく、身体を開かないように横に向けたまま、「さばく」という感覚を説いた村田監督は、「バッターの得意なところには1軍は投げない。2軍では苦手なところに投げようとしても、コントロールミスも多いので得意なところを待っていればいいけど、1軍ではそうはいかないから」と続ける。
「苦手なところをいかにどう克服して攻略していくのか。できなければ、また2軍に戻るしかない。だから自分で取り組みながら、自分で出来るようにならないといけないなっていうことに早く気づけという話はしましたね。でも、(宮下は)考える能力はやっぱ高いですよ。こういうイメージでやりたいと自分で考えていましたから。そしてそれは僕が思っていたことと一致していました」
指揮官も認める思考力を磨いた結果、選球にも好影響が出た。
「2軍でも外のスライダーを振っていたことは気になっていました。でも、開かずにインコースがさばけるようになると、余計にアウトコースのボールは振らなくなりますよね。見え方がいいわけなんで。だから、引っ張る打球が増えてきた。足のスタンスもちょっと下がってますもんね。そういうの(打撃フォームの微調整)も全部自分の考えですよ」
1軍で突かれた弱点と向き合い、村田監督との対話を経て、宮下は自ら微調整を繰り返し、再び昇格した。

2軍でもバットを振る中で、宮下が追及したのは打撃の質であり、内容だ(C)萩原孝弘
「もうちょっと変えてみる」という勇気
もっとも、2軍で取り組んだことが、そっくりそのまま1軍で通用する訳では無い。
2軍から宮下を見続けてきた鈴木尚典コーチも宮下の思考力を認めている。その上で実戦での経験がモノを言うと説く。
「試合の中で、何かに気づくという経験をした方がいいと思うんですよね。1番はやっぱり自分が打席で何を感じて、じゃあそれをこれからどういう風に変えていくかっていうのを話し合いながらやっています。けど、結局は本人が考えないといつまでたっても成長できない。そういう意味でも本当に成長してますよ」
キャンプ初日の“自主朝練”のように、やるべきことの整理が、今の打席にも繋がっている。
「150キロ超えの球をバットいっぱい長く持って、今の自分が打てるのか打てないのか。それをやっぱ自分で感じて『じゃあ、もうちょっと変えてみる』。そういう勇気みたいなものを持って、取り組んでますね」
首脳陣の期待と指導に対し、当人も1軍の打席で常に思考を巡らせる意識を高めている。出番が限られる代打の場面でも、相手の配球、自分のスイングのズレ、そしてチーム状況を考えながら、一打席ごとにテーマを持って打席に入る。
先述の巨人戦で放ったサヨナラヒットは、その姿勢が如実に現れた結果だった。
「代打で後半から出るっていうのはイメージしていました。ただ代打の成績が出ていないので、その1打席の大切さをもう1度しっかり考え直してやっていきたいなと思いました。ここはもう一人の自分との勝負。初球から振れたのはよかったですね」
自分の感情と戦いながら、チームの状況にも目を向け、自分に何ができるかを考える。この積み重ねが、実戦での対応力に繋がっている。
課題への取り組みは、もちろん、練習にも表れる。左投手に比べ、数字が上がらない右投手への対策も怠らない。
「早出でバッティングをして、右を打つ回数を増やそうっていうのを心がけてやってます。左のピッチャーもインコースを攻められてくるので、そこをどうしたら打てるかっていうのは考えてますね。なんとかヒットを打てるような形を身につけようと、コンパクトにしてヒットを打てるようにという意識ではやってます」
早出練習も、ただただ数をこなしているわけではない。1軍で何を求められているのかを理解し、その課題を具体的な練習へと落とし込んでいる。
考えて、努力する――。球団史を顧みても稀有な大型ショートとして、宮下朝陽は着実に成長の階段を上っている。
[取材・文/萩原孝弘]

