フランス4.3%、ドイツ9.3%なのに日本だけ25.2%…「死ぬまで社畜」を覆す年金世代の"知られざる働き方"
※本稿は、山崎俊輔『RETIRE SHIFT 人生100年時代の引退戦略』(東洋経済新報社)の一部を再編集したものです。

■60代後半男性の6割以上が働いている
人材不足の大きなうねりを受け、企業の多くが高齢者の労働力に期待を寄せるようになってきている。少なくとも65歳までの雇用は当然のものとして理解されるようになった。今ではさすがに再雇用の社員をお荷物と思っている企業は減ってきたはずだ。
これは私たちの引退戦略にとって大きな前進である。法律上は、希望者全員を再雇用するのが会社の義務となっているが、働く側はそれを断る自由もある。
少なくとも65歳以上は働かなくても年金がもらえる。しかし、65歳以降も働ける時代が「リタイア・シフト」の時代である。実際、働く社員の側はどうかというと、すでに高齢者世代は驚くほど「働いている」。
「令和7年版 高齢社会白書」に引用されている2024年のデータ(労働力調査)で、60歳代前半の就業率は73.0%のところ、65歳以上の就業率は25.2%となっており、これを見ると「たった4人に1人か」となるが、全労働者に占める60歳代後半以降の世代の割合を13.6%と紹介している。
実は全国で働く人たちの約7.4人に1人が年金生活世代なのだ。
■70代前半でも3人に1人が働く
また、60歳代後半以降をすべて一括りにするのではなく、さらに世代別に分類すればまったく違う世界がある。60歳代後半は就業率54.9%、70歳代前半は35.6%と、65歳以上の就業率の平均を大きく上回る。
60歳代後半は2人に1人、70歳代前半も3人に1人が働いているわけだ。70歳代後半となるとさすがに12.2%と下がるが、これは当然だろう。
男女別に見るとまた数字が違って見えてくる。今すでに年金生活に入っている世代はまだ女性の就業率が低かったこともあり、男女差が大きい。そのため、男性だけ取り上げてみると就業率はさらに上昇する。
60歳代前半男性の就業率が84.0%、60歳代後半男性の就業率が62.8%、70歳代前半男性の就業率が43.8%としている。これは女性と比べて15ポイントほど高い。
■「65歳で完全リタイア」は不可能か
男性だけで見れば、60歳代後半は3人に2人が働いていて、70歳代前半はおおむね2人に1人が働いている。「65歳で完全リタイア年金生活」「70歳現役社会なんてまだ遠い話」と思っていたら、大間違いなのだ。

この世代で女性の就業割合が下がる理由には「年上の夫がリタイアしたら私も」という発想で引退する女性が多いことも影響しているようだ。
平均的には女性が2歳年下の夫婦が多いというが、元気で長生きなはずの女性が、男性よりもさらに早くリタイアすることは、社会的にも本人の働きがいとしても損失だ。
しかし、共働きのまま60歳代に達するのがこれからの世代である。男女差は縮まり、将来的には解消されていくことだろう。
■生きがいや健康維持のための「ゆる労働」
公的年金は65歳からもらうことができるわけだから、65歳以降働く人のほとんどは、公的年金をもらいながら働いている。年金と賃金の合計額が高いと年金額が調整されるが(在職老齢年金)、多くの人はほとんど減額されないだろう。
合計で月65万円(2026年度)を超えなければ減額にはならない(賞与等がある場合は月割換算して月収に加算)。これも多くの人が年金をもらいつつ働く動機となっている。
では、60歳代後半の人たちは「年金だけでは生きていけないから働いている」のだろうか。どうもそれだけではないようだ。
内閣府の「高齢者の経済生活に関する調査結果」など、高齢者の働く理由について行なった調査の多くで、回答者は、
・収入を得たいから
・生きがいや、社会との関わりを持ちたいから
・健康維持に役立つから
などの理由を挙げる。年金収入に上乗せする収入源を確保したいという願いがあるのは間違いないが、70歳以降になるほどお金よりも生きがいや働きがいに重きが置かれる傾向があるようだ。
■「死ぬまで働かされる社畜」ではない
そして、働けるなら働き続けたいとする意向もまた強い。どうやら、現役世代が思うような「死ぬまで働かされる」という社畜イメージと遠い世界が、今の高齢労働市場にはある。
65歳以降の働き方においては、正社員比率が下がることは確かだ。役員や自営業者を除くと(つまり被雇用者だけを見ると)、正社員比率は23.2%に下がり、パートやアルバイトとして働く人が52.7%と、半数以上を占めるようになる。
65歳までの「リタイア・シフト」は「給料は下がらずに働き続けられるようになる」。しかし、60歳代後半以降の「リタイア・シフト」は「給料が下がるが、勤務時間の自由度が高まり、働きがいを感じられる」、そんな働き方になるのかもしれない。
しかもこちらは、すでに現実化している。
■勤勉なイメージのドイツすら日本の半分以下
国の年金が満額もらえるというのに、65歳以降もこれだけ多くの人が働くのは、世界的に見ると奇妙な現象だ。
65歳以上人口の就業率を比較したOECDの資料を見ると、フランス4.3%、イタリア5.5%、ドイツ9.3%という低い数字が並ぶ。日本の25%超という数字と比べて、なんと1ケタ以下、10%にも満たないというのは驚きだ。
フランスやイタリアの高齢者が65歳でリタイアしての悠々自適の生活を望むというのはなんとなくイメージできる。しかし、日本人に近い勤勉のイメージがあるドイツですら、日本ほど高くはない(それでもフランス、イタリアよりは高い)。

日本人より健康寿命が短いから高齢期は働かない、ともいえない。いずれの国も日本より健康寿命が短いとはいえ、これだけ就業率に差がつくほどではない。やはり日本の高齢者の就労意欲は高いのだろう。
とはいえ、これらの諸国は、今後年金受給開始年齢を65歳以上に引き上げていくので、さすがに60歳代後半の就業率は高まっていくだろう。
■年金だけで生きていけるけど、働く
アメリカでは65歳以上の就業率が18.9%と高い。これはおそらく公的な社会保障制度のカが弱く、働き続けざるを得ない高齢者世帯が多いのかもしれない。アメリカの公的年金受給開始年齢は67歳に移行する予定であることも、高い数字の一因だろうか。

それでも日本の就業率25.7%には及ばない。健康寿命についていえばアメリカは67歳より低いので、60歳代後半の就業率が2割弱もいるというのはむしろ驚きだ。
すなわち、体の自由が利かなくなるまでは働き続けなくてはならず、健康寿命を過ぎてからようやく公的年金をもらえるのだ。
日本でも、経済的な理由で働かざるを得ないという人も一定数はいるだろう。しかし、「高齢社会白書」のデータなどを見る限り、「年金でなんとかやりくりできる」という世帯はかなり多い。
すでに年金をもらえるはずの60歳代後半での就労率の高さは、働きがいを求めての選択だと思われる。
つまり、私たちは自ら「60歳代後半も現役時代とするリタイア・シフト」の世界を選んでいるといえる。もしかしたら、雇用の裾野をさらに広げれば、日本の高齢者は社会のためにもっと働くのではないだろうか。
リタイアする年齢、こうしたデータを踏まえ、あなたはどう考えるだろうか。
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山崎 俊輔(やまさき・しゅんすけ)
ファイナンシャルプランナー
1972年生まれ。フィナンシャル・ウィズダム代表。1級DCプランナー、消費生活アドバイザー。中央大学法学部法律学科卒業。企業年金研究所、FP総研を経て独立。老後資産形成、企業年金制度(確定拠出年金)、投資教育が専門。端的でわかりやすいお金のコラムに定評がある。著書に『RETIRE SHIFT(リタイア・シフト)』(東洋経済新報社)、『老後に4000万円って本当ですか?』(日本経済新聞出版)など多数。街歩きが趣味で、ブラタモリにも登場した東京スリバチ学会に所属。
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(ファイナンシャルプランナー 山崎 俊輔)
