【大行列&即完売】開発に23年かけた兵庫県初のブランド梨「なしおとめ」ヒミツとは? 身近な果物「梨」1300年の歴史と“甘くない現実”
8月13日に道の駅などで本格的な販売が始まった、兵庫県の新品種の梨「なしおとめ」。朝早くから大行列ができ、用意された約300kgがわずか15分ほどで完売。
兵庫県初のオリジナルブランド梨として誕生した「なしおとめ」とは一体どのような梨なのか。そして、私たちが普段なにげなく口にしている「梨」の裏側に隠された、約1300年の歴史と最新の課題を農研機構・西尾聡悟上級研究員、鳥取大学・竹村圭弘准教授への取材を踏まえて解説します。
開発期間は実に23年!「ハズレなし」のこだわりと誕生秘話
「なしおとめ」は水分が豊富で極めてジューシーなうえ、ほかの品種に比べて芯の部分が小さく、食べられる部分が多いのが大きな特徴です。
さらに、「なしおとめ」として出荷されるのは糖度11度以上のものだけに厳選されています。つまり「ハズレがない」甘さが保証されているのです。
しかし、おいしさと品質にたどり着くまでには、気の遠くなるような年月がかかりました。1995年に育成を開始し、2017年には「但馬1号」が品種登録されました。開発にトータルで23年もの歳月。
農研機構・西尾聡悟上級研究員によると、梨の品種改良は通常でも15年から20年ほどの歳月を要するといいます。一代の交配サイクルに7~8年かかり、一代では解決できない課題が多いため、二代以上の改良を重ねる必要があるからです。
梨の栽培で農家を苦しめる「黒斑病(こくはんびょう)」は、果実に黒い点々が現れるカビの一種(菌による病気)で、農家によっては2割から3割もの被害が出ることがあるということです。「なしおとめ」はこの病気に強いという特徴を持っています。
また、収穫時期が早めの「早生品種」である点もポイントです。兵庫県北部は鳥取県に隣接しており、9月に入ってから旬を迎える「二十世紀梨」が有名ですが、「なしおとめ」は夏のうちから楽しめるため、出荷時期を少しずらして楽しめるメリットがあります。
国の品種改良と都道府県の「ブランド戦略」
果物の品種改良には、国が行うものと各都道府県が行うものの2種類が存在します。
国による品種改良は、全国の農家を支援することを目的としているため、「ある程度どこでも育てられ、誰が食べてもおいしい」ものを目指して作られます。しかしその反面、どこでも作れるために価格競争に巻き込まれやすく、自地域だけで高く売ろうとすることが難しいという側面があります。
一方、都道府県による品種改良は、それぞれの気候や風土に特化した品種を生み出します。梨は南は九州から北は秋田まで広く作られていますが、地域ごとの気候に合った品種を作り、特徴を持たせることでブランド化を狙えます。
多少価格が高くても「おいしいから買いたい」という消費者を獲得する戦略であり、「なしおとめ」はまさに兵庫県が初めて作ったオリジナルブランド梨なのです。
日本書紀にも記述が!?1300年に及ぶ日本人と梨の深い歴史
日本人と梨との付き合いは大変古く、その歴史は約1300年前(持統天皇の時代)にまでさかのぼります。『日本書紀』にも記述が残っており、中国から入ってきた梨の栽培を天皇が奨励したと西尾上級研究員は話します。
鳥取大学の竹村圭弘准教授によると、江戸時代になると多くの品種が作られるようになり、広く親しまれていきました。ただ、当時の梨は現在のものほど甘くはなく、主に水分補給や、ほかの作物が取れない際の栽培しやすさから重宝されていたようです。
日本の梨の歴史に劇的な転換期が訪れたのは明治時代のことです。現在の千葉県松戸市にあたる八柱村で、当時13歳だった松戸覚之助が奇跡的な発見をしました。
ゴミ捨て場に生えていた梨の木に「何か違うぞ」と感覚を得た松戸覚之助は、自宅へ持ち帰って育て始めました。簡単には実りませんでしたが、10年間の栽培を経て23歳になった時に実ったのが、後に全国へ広がっていく「二十世紀梨」でした。
ゴミ捨て場からの偶然の発見が、その後の日本の梨のおいしさを劇的に進化させたのです。
二十世紀梨の弱点をほぼ克服した「幸水」
革命的なおいしさを誇った二十世紀梨でしたが、唯一と言って良い弱点が前述した「黒斑病」への弱さでした。病気に強くおいしい梨を作ろうと、戦前(1935年)から国を挙げた品種改良が進められました。
戦争による中断もありましたが、24年の歳月を経て1959年に完成したのが「幸水」でした。幸水は黒斑病をほぼ克服し、甘く優れた味を持つだけでなく、早生品種ということで8月の収穫が実現しました。
その後、幸水を元にその子にあたる「豊水」なども開発され、より肉質が良く作りやすい品種が誕生しました。開発から50年~70年が経過した現在でも、国内の栽培面積の約7割を「幸水」と「豊水」の2品種が占めています。
さらに近年では、栃木県が開発した大ぶりの「にっこり」や、鳥取県の「新甘泉(しんかんせん)」など、全国で約50もの多彩なご当地品種が開発されています。
生産量減少と価格高騰…農家が直面する“甘くない現実”
歴史ある日本の梨栽培ですが、現在は非常に厳しい現実に直面しています。国内における梨の収穫量(生産量)は年々かなり減少しており(農水省調べ)、それに伴って価格はこの10年で約2.5倍にまで高騰しているというデータもあるようです。
生産量が減少している背景には、深刻な理由が存在します。
▼「手間がかかる」
果物は野菜に比べて手間がかかりますが、その中でも一番手間がかかるのがブドウ、その次が梨といわれています。
▼「担い手の減少・高齢化」
▼「設備の老朽化」
梨は枝を棚にくくり付けて作ります。その棚の寿命は約50年。梨栽培が大きく流行した1970年代~80年代からちょうど50年が経過した現在、棚の設備が古くなっており、高齢化も相まって廃業を選択する農家が増えているということです。
さらに、“菌”の進化や暑さ問題も追い打ちをかけています。
西尾上級研究員によると、同じ品種を作り同じ薬剤を使い続けたことで菌に耐性ができ、今度は「黒星病(くろぼしびょう)」という新しい病気が蔓延し始めているほか、猛暑や暖冬への対策も急務となっています(竹村教授)。
“究極の梨”を目指して!研究者の挑戦と私たちができること
こうした厳しい環境を克服し、今後もおいしい梨を食べ続けるために、研究者や農家は“究極の梨”を求めて工夫と挑戦を続けています。
梨には同じ品種の花粉では受粉しない性質があり、現在は人間が手作業で人工受粉を行っていますが、突然変異的に同じ品種の中で受粉できる品種を増やし、作業の省力化を図る研究が進んでいます。
また、暖冬で冬場にしっかり冷えないと春に花芽がつかない問題に対し、暖かい地域で育つ台湾梨と交配させることで暑さに強い品種の開発も進められています。
栽培技術の面でも、平面的な棚からV字に枝を広げる「V字樹形」を取り入れることで機械化・作業効率化を目指す動きがあります。
「おいしく、栽培しやすく、病気や暑さに強い」というパーフェクトな「究極の梨」の完成には、まだ時間はかかりますが、研究機関や農家の努力は日々続いています。
そして、私たち消費者にできる応援の形もあります。それは「新品種を積極的に試してみる」ことです。
新品種と聞くと「本当においしいのだろうか」と慎重になり、ついいつもの幸水や豊水を選びがちですが、各地の努力の結晶としてさまざまなおいしさを持つ品種が誕生しています。
梨の価格全体が上がっている現在、新品種だからといって格段に高いわけではありません。
ぜひ「なしおとめ」をはじめとする新品種を見かけた際は、試してその魅力を味わってみてください。
(2026年8月13日放送 MBSテレビ「よんチャンTV」内『山中プレゼン』より)
