子どもと一緒に本にふれる機会が増える夏休み。せっかくなら、親子で一緒に名作の世界を楽しんでみませんか? 今回は、『きみの心を強くする名作103』を監修する明治大学文学部教授の齋藤 孝先生に、子どもにもぜひ読んでほしい名作を教えてもらいました。作品のあらすじとともに、文豪たちの意外な苦労や素顔もご紹介します。

生きている間は無名だった「宮沢賢治」

『銀河鉄道の夜』をはじめ、数々の名作を残した宮沢賢治。その人生は、決して順風満帆なものではありませんでした。賢治の半生や作品が生まれた背景を知れば、物語の印象も少し変わるかもしれません。

【画像】「こころ」のあらすじを見開き2ページで紹介!

●じつはずっと「病気がち」だった

『銀河鉄道の夜』などで知られる宮沢賢治ですが、じつは子どもの頃からやや体が弱い少年でした。熱を出してはたびたび学校を休み、大人になってからは肺の病気に悩まされます。

それでも農作業や創作に全力投球したせいで体調を大きく崩し、なんと37歳でこの世を去ってしまいました。あれだけたくさんの物語を書いた賢治ですが、じつは「丈夫な体」とはずっと無縁の人生だったのです。

●生きている間は無名そのもの

今では教科書の常連で、超有名作家の賢治ですが、生きている間に出した本はたったの2冊。しかも全然売れなかったので、本人も「いつか自分の書いた物語が国語の教科書に載る」なんて、夢にも思っていなかったはず。彼が注目され始めたのは、亡くなったあとの話でした。

売れなくても、評価されなくても、賢治は書くことをやめませんでした。それどころか、農業学校で学んだ知識を生かし、農家の人たちに肥料のつくり方や栽培のコツまで教えていたというから驚きです。

「みんなが幸せにならないうちは、自分の幸せもありえない」。そんな理想を本気で追い続けたのです。

●それでも理想を追いかけた

そんな賢治の心を強く支えたのが、妹のとし子でした。将来の夢を語り合うほどの仲のよさでしたが、とし子は24歳の若さで病気のため亡くなってしまいます。深く悲しんだ賢治は、その思いを詩『永訣の朝』に込めました。

『銀河鉄道の夜』にも通じるような「死んだ人はどこへ行くのだろう」というテーマに向き合うようになったのは、妹の死がきっかけとも言われています。

評価されなくても、大切な人を失っても、理想を追いかけることをやめなかった賢治。その生き方こそが、今も読みつがれる物語へとつながりました。

多くの人に読み継がれる代表作『銀河鉄道の夜』

宮沢賢治の代表作として、長く読み継がれてきた『銀河鉄道の夜』。孤独な少年ジョバンニが、親友のカムパネルラとともに銀河鉄道に乗り、不思議な旅をする物語です。

『銀河鉄道の夜』のあらすじを、イラストと一緒にご紹介します。

美しく幻想的な世界を描きながら、その奥には「本当の幸せとはなにか」という深い問いが込められています。ジョバンニとカムパネルラが旅の途中で出会う人々や、二人が交わす言葉にも注目しながら、物語をたどってみてください。

幼少期から苦労続きだった「夏目漱石」

数々の名作を世に送り出した文豪・夏目漱石。彼のも人生のなかで、さまざまな悩みや苦しみを抱えていました。

●生まれてすぐ「いらない子」だった!?

『坊ちゃん』『吾輩は猫である』『こころ』などの作品で知られる夏目漱石は、8人兄弟の末っ子として生まれ、生後すぐによその家へと里子に出されてしまいます。理由のひとつは「すでに夏目家には子どもが多すぎたから」。

しかも一度は実家に戻されたものの、今度は別の家にまた養子に出され、ようやく実家に帰ってきたのは9歳の頃。

小さい頃からいろいろな家を転々としてきたがゆえに、もしかしたら漱石は「自分の居場所ってどこにあるのだろう」と考え続けていたかもしれません。

●ひとりぼっちのロンドン生活

大人になった漱石は、国の命令でイギリスに留学することに。エリート街道まっしぐらな大抜てきですが、実態はかなりハードでした。

言葉も文化も違う異国の地で、友達もできません。安い下宿の部屋にこもって、ひたすら本を読むだけの毎日。やがて孤独と不安がふくらみ、心も体もボロボロになってしまったそうです。エリート留学の裏には、想像以上の孤独があったのです。

●帰国しても続いた苦しみ

日本に帰ってきても、漱石の苦労は終わりません。留学中のストレスから、神経衰弱という心の病に悩まされることになります。大学で教えながら小説を書いていましたが、体調を崩して仕事を休むこともありました。さらに胃の病気にも苦しめられ、何度も入退院を繰り返します。

漱石の作品には、「人はなぜ孤独なのか」「他人とわかり合うことはできるのか」というテーマがたびたび登場します。これはきっと、漱石自身が「自分の居場所はどこだろう」という思いを抱えながら生きてきたからでしょう。居場所のなさ、孤独、病気。苦しい経験があったからこそ、『こころ』のような名作が生まれたのです。

教科書でもおなじみの作品『こころ』

教科書でもおなじみの、夏目漱石の代表作『こころ』。「私」と「先生」の交流を軸に、先生が長い間抱えてきた過去と秘密が明らかになっていきます。

『こころ』のあらすじを、イラストと一緒にご紹介します。

人を信じることの難しさや、友情、恋、嫉妬、そして罪悪感など、だれもがもちうる複雑な感情を丁寧に描いた作品です。

100年以上前に書かれた小説でありながら、登場人物たちの悩みや心の揺れには、今を生きる私たちにも通じるものがあります。彼らがなぜそのような行動をとったのか、心の動きにも注目しながら読んでみてください。