「お父さん、もう来ないでください」孫の夏休みに実の息子が明言。〈年金月22万円〉75歳義父に“義娘”が20年間言えなかったひと言
子どものため、孫のためを思ってかけた言葉や提案が、思いもよらない強い拒絶を生んでしまう--。その背景にあるのは、親世代と子世代のあいだに存在する「暮らしや家計の当たり前」の大きなギャップです。本記事では、Aさんの事例から、合同会社ミコサポ代表の三藤桂子FPが良好な親子関係を保つために理解しておくべき家計の現実を紐解きます。※事例はプライバシー保護のため、一部脚色しています。
「夫が外で働き、妻が家庭を守る」…親夫婦の“当たり前”
75歳のAさんは、都内から少し離れたところにある戸建てで妻と二人で暮らしています。60歳で定年を迎え、再雇用で65歳まで働きました。年金は夫婦あわせて月約22万円で、住宅ローンもなく、贅沢しなければ年金のみで日常生活は賄っていけそうです。
妻とは20代のころ同じ職場で出会い、いわゆる職場結婚で結ばれました。二人が若いころは、「夫が外で働き、妻が家庭を守る」という考え方が主流で、Aさん夫婦も例外ではなく、妻は結婚を機に退職後、専業主婦として家庭を支えてきました。
夫婦には一人息子のCさん(現在49歳)がいます。Cさんは大学卒業後、都内の企業に就職。その後、取引先のご縁で知り合った3歳年下の女性と29歳のときに結婚しました。Cさんの結婚が決まった際、Aさんは相手が仕事を辞めないことに違和感を抱きましたが、「子どもができれば辞めるだろう」と思っていました。
Aさん夫婦の住まいは広々としていて、息子家族も一緒に住めるような作り。そのため、年に1〜2回息子夫婦が帰省した際にはいつも、「いつでも一緒に住む用意はできている」と話をしていました。
Cさんの妻・Dさんは愛想笑いをして頷くだけでしたが、Aさん夫婦にとってはそれが同意の証のように思えていました。
孫に会いたい…息子夫婦の帰省を待ちきれず東京へ
一方、Cさん夫婦のあいだでは、「結婚しても子どもが生まれても仕事を続ける」というのが、妻からの結婚の条件。もちろんCさんも、「いまは共働き夫婦が当たり前だし、お互いに協力して頑張ろう」と快諾していました。
それからしばらくして、結婚後なかなか子どもに恵まれなかったCさん夫婦に子どもが生まれました。Aさん夫婦にとっては、待望の初孫です。
近年は、育児介護休業法が大きく変わり、女性が産後休業をしているときに、夫も育児に参加できるよう、「産後パパ育休(出生時育児休業)」が取れるようになりました。Cさんも育休を取得し、夫婦で育児に奮闘します。
孫が生まれたのになかなか帰省してこなくなった息子たちにしびれを切らし、Aさん夫婦は自ら東京へ。息子のマンションに向かうと、Cさん夫婦は少し疲れた表情でしたが、手厚くもてなしてくれました。
Aさん夫婦は、孫の可愛さに舞い上がり、後ろ髪を引かれるように帰宅。それからというもの、「孫の顔が見たい」と、Cさんの会社が夏季休業になるお盆の時期は息子の家を訪問するように。それまでCさん夫婦の帰省は不規則でしたが、夏はAさん夫婦が都内の息子の家を訪問し、GWと年末年始はCさん一家が実家を訪ね、そのたびに夫婦は「うち(実家)のほうがゆっくり育てられる」「私たちも育児を手伝える」などと同居を匂わせていました。
嫁からは言えなかった本音
初孫の誕生から7年が経ち、孫が小学校に入って最初の夏休み。Aさん夫婦も70代後半になり、夏に猛暑のなか都内まで行くのが体力的にもキツくなってきました。
C家に行くたびに伝えていた同居の誘いを、いつまでものらりくらりとかわすCさん夫婦に対し、Aさんははっきりと言います。
「東京まで来るのはしんどくてな。東京は暑いし人も多いし、電車も座れないし体力的にキツい。ここまで待ってやったのだから、うちで今後は一緒に暮らそう。正直いうと、ここでの暮らしはお前の負担も大きすぎると思う。Dさんにはそろそろ仕事を辞めてもらうべきだと思うし、うちなら孫ものびのび育てられる。それに……」
言葉を続けようとするAさんをCさんは遮りました。
「俺たちは父さんたちと同居する予定はない。妻も仕事を辞めるつもりはないといっている。本音では、毎年、夏にお父さんたちが来るのが経済的にも大きな負担だし、仕事と家庭の両立を頑張っている妻が疲弊してるんだよ。少し距離を置こう。お父さん、もう来ないでください」
妻の離職がもたらす損失
Aさんは「実家で同居すれば子育ても楽になり、お金もかからない」と考えていますが、現代の共働き世帯において、妻が家庭に入ることの経済的ダメージは想像以上に大きなものです。
現在46歳で年収520万円のDさんが離職し、専業主婦になった場合の損失を計算してみます。
生涯賃金の損失:約7,300万〜9,900万円
60歳の定年、または65歳の継続雇用終了までの14〜19年間、年収520万円で働き続けた場合に得られる給与収入の総額です(昇給や退職金を考慮するとさらに増額します)。
老齢年金の損失:約800万〜1,100万円
定年まで正社員として厚生年金に加入し続けた場合と、途中で専業主婦(国民年金のみ)になった場合では、65歳以降に受け取る年金額に年間約40万〜55万円の差が生じます。85歳までの20年間受給しただけでも、1,000万円前後の差となります。
合計すると、離職によって失うお金は「およそ8,000万〜1億1,000万円規模」にのぼるでしょう。
物価高や教育費の上昇が続く現代において、収入源を途中で断つことは、孫の教育資金や自分たちの老後資金を直接的に削り取ることを意味します。Cさん夫婦が共働きを維持するのは、子世代の家計を守るための絶対に必要な防衛策でもあるのです。
〈参考〉
厚生労働省「育児介護休業法について」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000130583.html
三藤 桂子
合同会社ミコサポ
代表

