クボタ社長が明かす、自前主義を脱して挑む「企業価値経営」の道筋

クボタ代表取締役社長CEOの花田晋吾氏(撮影:榊水麗)
農機、建機メーカー大手のクボタが、規模拡大から資本効率重視へと経営のかじを切る。2026年初に同社初の営業部門出身社長となる花田晋吾氏が就任し、2月には「中期経営計画2030」を発表。“Focus & Breakthrough”を掲げ、フリーキャッシュフローの創出やROIC向上を重視する姿勢を鮮明にした。5月には大阪・梅田エリアの「グラングリーン大阪」へ本社を移転。新体制の下、花田氏はクボタをどのように変革しようとしているのか。
約130年ぶりの本社移転、コミュニケーション変革を担う新本社
──長年慣れ親しんだなんばエリア(大阪市浪速区)から梅田エリアへの本社移転は、実に約130年ぶりだそうですね。
花田晋吾氏(以下敬称略)新本社が入る「グラングリーン大阪」には、再開発コンセプトの一つとして、クリエイティブな企業が集うエリアにしていくという考え方がありました。そうした場所に本社を移すことで、社外の方々とのコミュニケーションやコラボレーションをより活発化できるのではないかと考え、2年前から移転を計画してきました。

クボタ本社が入居するグラングリーン大阪(写真提供:グラングリーン大阪開発事業者)
もう一つの理由は、旧本社ビルの課題です。旧本社はワンフロアあたりの床面積が小さく、部門を越えたコミュニケーションが取りづらい面がありました。その点、グラングリーン大阪は1フロアの面積が旧本社の約5倍あります。部門間のコミュニケーションがより緊密になり、連携しやすくなったことも大きなメリットです。
──今年から始まった新中期経営計画では、売上高重視から利益重視への転換が大きなテーマになっています。
「売上高至上主義」との決別、クボタが追う成長の量から「質」
花田 一言でいえば、「規模の追求」から「価値の創造」への変革です。企業規模の拡大が、必ずしも企業価値の向上に結び付いていなかった点を、真摯に受け止めました。これからは成長の量だけでなく、成長の質を高めていく必要があります。
ポイントは大きく3つあります。1つ目は、財務規律を高めること。2つ目は、既存事業を磨き込みながら、新規事業にも果敢に挑戦する「両利きの経営」を進めること。そして3つ目は、事業の選択と集中を進め、伸ばすべき領域により多くの経営資源を投入することです。その考え方を集約したのが、“Focus & Breakthrough”というスローガンです。

資料提供:クボタ
当社は農機や建機などの機械事業を中心に、海外事業比率が8割近くに上っています。だからこそ、グローバルビジネスの基盤をもう一度、整え直す必要があります。単に海外拠点の数を増やすのではなく、各拠点の人的資本やサプライチェーンの充実も含め、事業基盤をしっかり再整備していく考えです。

米国で堅調な小型建設機械CTL(コンパクトトラックローダ/写真提供:クボタ)
われわれは、食料・水・環境の分野で「命を支えるプラットフォーマーになる」という長期ビジョンを掲げています。社会課題の解決に資する事業に取り組むことは、われわれの誇りです。社員にも、志高く仕事に向き合う人が非常に多くいます。その姿勢は、これまでも、これからも変わりません。
一方で、資本市場からの要請に対して、われわれが十分に応えられていなかった面もあったと反省しています。そこで新中計では、バランスシートを意識した戦略的な財務運営への転換を打ち出しました。

──転換の原点は、ここ5年累計で見たフリーキャッシュフロー、すなわち営業キャッシュフローから投資キャッシュフローを差し引いた数値がマイナスだったことに行き着くのでしょうか。
花田 定量的な数値という意味では、やはりフリーキャッシュフローが大きいと思います。これまで当社の経営は、PL(損益計算書)を中心に考える傾向がありました。売上高とマーケットシェアを伸ばし、その結果として利益を確保するという考え方です。
しかし、われわれがお預かりしている資本をどのように使い、いかに高効率な経営につなげていくかも、非常に重要です。そこで従来のPL中心の考え方を整理し直し、より強い会社にしていく必要があると考えました。

資料提供:クボタ
最優先はROIC向上、5年で9000億円を稼ぎ出す財務戦略
──フリーキャッシュフローについては、2030年までの5年累計で9000億円を創出するという数値目標を掲げています。
花田 ROIC(投下資本利益率)7%以上、ROE(株主資本利益率)12%という目標を掲げています。その達成に向けて逆算すると、9000億円という水準のフリーキャッシュフローを生み出す必要があります。株主還元と同時に、成長投資もしっかり行う。その前提に立って、フリーキャッシュフローの積み上げ目標を算出しました。
例えば、北米におけるトラクターをはじめとした機械事業では、販売金融の債権や運転資金の面でも、かなり大きな投下資本を伴う事業になっています。こうしたビジネスの在り方も、今後は見直していきます。

資料提供:クボタ
また、キャッシュコンバージョンサイクル、つまり仕入代金の支払いから売上代金の回収までにかかる期間を短くすることで、フリーキャッシュフローを生み出していく視点も必要です。そうした取り組みを積み重ね、9000億円の目標を達成していきたいと考えています。

──ROICとROE、企業によってはROA(総資産利益率)を重視するところもあります。クボタとして、最優先で見る指標は何でしょうか。
花田 投下した資本をどれだけ有効に使い、収益を生み出していくか。その観点から、ROICの向上を全社で共有すべき最優先目標にしていきます。
一方で、資本市場では、株主資本に対する利益率であるROEが重視されます。ROICは幹部や社員にも目配りしてもらう指標であり、ROEはわれわれ経営陣が常に意識すべき指標だと考えています。

資料提供:クボタ
──定量目標としては、営業利益率12%も掲げています。2025年の営業利益率は8.8%でしたが、この差を埋めるために、どのような施策を進めていくのでしょうか。
花田 われわれが成長けん引事業と位置付けているのは、グローバルな建機事業、インド「発」事業、そしてアフターセールス部品を中心とするライフサイクルサポート事業の3つです。まずは、この3事業をしっかり伸ばしていきます。
一方、欧州や国内の農機事業など、採算面で課題を抱えるビジネスについては構造改革を進めていきます。ただし、縮小均衡に向かっていても、日本の農業はわれわれにとって非常に大事な事業領域です。農業を支えるメーカーとして、これからも支え続けなければなりません。そこは、われわれの使命だと思っています。
そのうえで、事業ポートフォリオ全体を「成長けん引」「価値再構築」「構造改革」の3つのカテゴリーに分類し、それぞれに最適な対応を進めていきます。会社全体の収益力を底上げし、その結果として営業利益率12%を達成したいと考えています。

資料提供:クボタ
インド「発」事業を狙う意義、子会社と挑むグローバル輸出戦略
──インド事業について、あえて中期経営計画で「インド『発』事業」と表現しています。これは、インドを単なる販売市場としてではなく、開発・調達・生産の拠点として位置付けていくという意味でしょうか。
花田 今後も大きな成長ポテンシャルが見込まれるインドですが、現状、われわれの市場シェアは10%強にとどまっており、まだまだ小さいのが実情です。現地企業であるエスコーツクボタの強みを生かしながら、当社の技術や経営リソースも投入し、インドでの事業をしっかり伸ばしていきます。
エスコーツクボタは、当社がインドの大手農機メーカーであるエスコーツ社への出資比率を引き上げ、子会社化した企業です。同社の生産・販売ネットワークを生かしながら、クボタの技術やグローバル展開力を掛け合わせていくことが重要になります。

エスコーツクボタ(インド)のトラクタ(写真提供:クボタ)
また、インドをベースに、トラクターを海外へ輸出していくビジネスも見込んでいます。それが、インド「発」事業と呼んでいる理由です。これまで十分に事業展開できていなかったアフリカ諸国、あるいはすでに相当数を輸出している欧州も含め、さまざまな市場に対応できる製品を作っていく考えです。
インドには、コングロマリット企業でトラクターにも強いマヒンドラグループをはじめ、地元の有力メーカーが複数あります。その中でもインド市場は、当社の5年先、10年先のグローバル戦略において、非常に重要な拠点だと位置付けています。

資料提供:クボタ
──価値再構築事業に位置付けられる水環境事業は、昨年(2025年)からカンパニー制に移行しました。今後の成長可能性をどのように見ていますか。
花田 水環境事業にはさまざまな事業が含まれていますが、特に水の分野でいえば、上下水道を含め、国内インフラの老朽化が非常に大きな課題になっています。われわれはこの分野で、ITやAIの利活用によって効率化を図るソリューションを、PPP(官民連携)市場を軸に、O&M(運用・保守管理)なども含めて積極的に提供していきたいと考えています。
例えば、公共インフラ老朽化のAI診断や、さまざまな自動化、ビッグデータを活用したサポートなどです。できるだけ低コストで公共インフラの老朽化を防ぎ、設備更新を進めていく。そのお手伝いをする中に、新たなビジネスチャンスがあると考えています。
そうした取り組みを積み上げていけば、現在3000億円強ほどの水環境事業の売上高を、5000億円規模の事業へ成長させることは十分可能だと思っています。

「小さい機械で、大きな仕事を」巨大競合と差別化するスマート化
──農機や建機の領域では、ICTやロボット技術、AIの活用が競争力を左右する時代になっています。クボタとして、スマート農業やスマート建機の可能性をどのように広げていく考えですか。
花田 新中計では、農機や建機などの機械事業について、「小さい機械で、大きな仕事を」というスローガンを掲げました。これは、大型機までフルラインでそろえる競合メーカーとは少し違う道を歩むという宣言でもあります。

米国で使われる小型トラクタ(写真提供:クボタ)
もちろん、ただ単にスモールマシンを提供するだけでは、ビジネスで勝つことはできません。ICT技術やロボット技術を生かしたスマート農業、スマート建機の領域で、従来は大型機でなければこなせないといわれていた仕事を、先端技術と当社独自のソリューションを小型機に盛り込むことで実現していく。そこに社会課題解決の余地があり、われわれの戦い方があります。

無人自動運転機能を搭載したロボットコンバイン(写真提供:クボタ)
実際、私は現在、当社の小型・中型建機が活躍するさまざまな工事現場を、つぶさに回っています。どの作業工程で当社の建機が人手不足の解消に貢献できるのか、使いやすいソリューションとは何か。それを現場で確認し、研究してフィードバックしながら、必要な技術開発を進めています。
農機の世界でも、自動運転はもちろん、さまざまなビッグデータを農業経営に生かす取り組みが進んでいます。こうした研究開発の成果も、今後、段階的に当社の農機へ実装していくことになります。
──新中計の2030年を超え、10年、15年という長い時間軸で見たとき、クボタグループのありたい姿や近未来像をどのように描いていますか。
花田 もともと自前主義の考え方が強かった当社が、これから少しずつでも変わり始めることが重要です。外部企業とのさまざまなコラボレーションをさらに加速させ、新たな事業領域にも積極的に打って出ていきたいと考えています。

資料提供:クボタ
機械事業でいえば、今後、ソリューションを加速させていくために、例えばソフトウェアに強い企業と協業することもあるかもしれません。また、水環境事業では、施設の建設にはさまざまな領域が関わってきます。電気工事など、われわれが十分なリソースを持っていない分野もありますから、そうした領域では他社と組み、事業をしっかり完結できる体制をつくることが大事です。
ただし、短期的な経営目線に偏り過ぎて、われわれの事業の根幹を崩すようなことはしません。時代に合わせて変えるべきものは変え、変えてはいけないものはしっかり残す。足りない部分は、外部企業との協業も含めて補完していく──。そこにチャレンジしていきたいと考えています。

筆者:河野 圭祐
