高校球児たちの夢の舞台・甲子園

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 8月7日に行われた夏の甲子園の健大高崎(群馬)対八幡商(滋賀)。健大高崎が7対1で勝利した一戦で、スタンドを沸かせるスーパープレーが飛び出した。【西尾典文/野球ライター】

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体を一回転させながら

 演じたのは健大高崎のショート・神崎翔斗(しょうと)(2年)だ。高校野球は年々レベルが上がっているが、目の前で見せた守備は、その中でも目を見張るものだった。

 3回表、先頭打者・山口琉希(2年)が放った打球は、完全に二遊間を抜け、センター前へ転がるかと思われた。ところが神崎は間一髪で追いつくと、体を一回転させながらファーストへ見事な送球。打者走者をアウトにしてみせたのだ。

 試合後、神崎は「飛び込むか飛び込まないか迷いました」と明かした。送球まで見据え、「飛び込まずに手を伸ばして処理した方がアウトにできる確率が高い」と瞬時に判断したという。

高校球児たちの夢の舞台・甲子園

「肩には自信があります」

 実際、投手として群馬大会では最速146キロをマークしている。146キロを投げる強肩は、ショートでも大きな武器だ。

 そして筆者は、3回の守備ほど派手ではない試合開始直後の打球処理にも唸らされた。

 相手打者が引っかけた打球は途中でバウンドが変わり、高く跳ねた。神崎は一瞬、前に出るか迷ったように見えたが、無理に突っ込まず、一度足を止めて巧みなグラブさばきで捕球した。

 本人は「最初は低い打球でしたが、高く跳ねた時に前に出ました。その後に一度バウンドを見極めて捕ることができたので良かったです」と冷静に振り返る。

中学では軟式クラブチームに

 昨年夏の甲子園では1年生ながらサードで出場している。経験があるとはいえ、プレーボール直後の難しい当たりを慌てずさばいた点に、能力の高さが表れていた。

 9回には送球が低くなって失策を記録した。ただ、その他の6度の守備機会はすべて軽快に処理した。1番を任される打撃では、5回に貴重な追加点となる2点タイムリーツーベースを放ち、勝利に貢献している。

 視察していたパ・リーグ球団のスカウトも、神崎の守備力を高く評価していた。

「一つエラーはありましたが、肩の強さは抜群ですね。それもあってか、余裕を持ってプレーできています」

 評価は守備だけにとどまらない。

「打つ方も今日は少し力みが目立ちましたが、リストが強くてパンチ力もある。今年の3年生に入れても(ドラフト候補に)リストアップされるくらいの選手だと思います」

 2年生ながら、早くも来秋のドラフト候補として見られている。

 神崎は愛知県出身。小学6年時には、年末に行われるNPBジュニアトーナメントの中日ドラゴンズジュニアに選ばれた。しかし、当時は体がかなり小さく、チーム内では主力メンバーではなかった。

 中学では硬式ではなく、軟式クラブチームの東山クラブに進んだ。

 東山クラブはイヒネ・イツア(ソフトバンク)や内藤鵬(オリックス)らプロ野球選手を輩出する強豪だ。

 プロへ進む野手の多くは、中学時代から硬式でプレーしている。強豪校では、中学時代から硬式でプレーしてきた野手がさらに多い。健大高崎のベンチ入りメンバー20人を見ても、中学時代に軟式チームでプレーしていたのは3人。神崎以外の2人はピッチャーである。

 なぜ軟式を選んだのか。本人に聞くと、「小学校の時は体が小さかったのと、ピッチャーもやっていたこともあって軟式のチームを選びました」と話した。

 中学では身長が22センチ伸びたという。

軟式出身ならではの課題

 高校に入ってから最初に苦労したのは、硬式球特有のバウンドへの対応だった。

「軟式は高く跳ねるので、その跳ね方を見て動いていましたが、硬式は跳ね具合が全然違って、低くて速いボールも多いです。そういうことを意識しながら数をこなしていったことが良かったかなと思います。打球を受ける時には常に送球しやすい形、送球につなげる捕り方を意識しています」

 甲子園で見た捕球から送球までの流れは極めてスムーズだった。打撃に関しては特に苦労しなかったようで、群馬大会では2本のホームランを放っている。

 技術面を指導する生方啓介部長によると、入学当初から肩の強さや瞬発力、体の強さは目立っていたという。

 ただ、軟式出身ならではの課題もあった。

「捕球のところはどうしても最初は課題があって、打球を見過ぎてしまうことが多かった。最初の動き出しの部分でなかなか足が動かない。球際ではじいてしまうこともあって苦労しました」

 打者がボールを捉えた瞬間の動き、一歩目のスタート、構え方、重心の位置などを細かく見直した。

 生方部長は「足が使えるようになったことで、強肩が生きるようになったと思います」と成長を認める。

 課題がなくなったわけではない。

「ハンドリングが上手くて肩が強いだけに、少し雑になるところもある。それが9回のエラーにつながったと思うので、そのあたりはこれから気をつけないといけない部分だと思います」

 ちなみに「翔斗」という名前は、中学まで野球をしていた父・悠紀さんが、ショートでプロを目指してほしいとの思いを込めてつけたものだという。本人は小学5年生の時に名前の由来を聞き、プロを目指せる環境を求めて健大高崎への進学を決めた。

 翔斗が日本を代表するショートになることも、決して夢物語ではなさそうだ。

西尾典文(にしお・のりふみ)
野球ライター。愛知県出身。1979年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

デイリー新潮編集部