出前館、客は戻ったのに最終赤字78億円へ…売上を食い尽くした「原価率99.5%」という異常
「売れば売るほど赤字が膨らむ」。出前館の決算は、その言葉が誇張に聞こえないところまで追い込まれている。
かつて雨後の筍のように乱立したフードデリバリー各社は、いまや多くが撤退や縮小に追い込まれた。そのなかで出前館は、Uber Eatsに次ぐ立ち位置で競争に勝ち残った数少ない一社だ。
それでも同社は、いまだ赤字から抜け出せずにいる。
出前館は2026年8月期の通期見通しを下方修正した。当初「最終赤字40億円程度」としていた見通しは、売上高392億円、営業損失79億円、最終赤字78億円へと、赤字幅がほぼ倍増した。
今26年8月期も赤字であれば、8年連続での最終赤字となる。
コロナ禍では大量のテレビCMを打ち、熾烈な生き残り競争を勝ち抜いたはずの企業が、なぜいつまでも黒字に届かないのか。
今回の決算は、景気や季節要因では説明できない、事業モデルそのものに埋め込まれた「儲からない構造」を突きつけている。
原価率99.5%という異常
出前館の決算で真っ先に注目すべきは売上原価率の高さではないだろうか。
同社は配達員へ支払う報酬を売上原価に計上している。このため、注文が増えるほど原価もふくらむ。今期はその原価が、売上をほぼ丸ごと食い尽くした。
2026年8月期第3四半期累計(2025年9月〜2026年5月の9か月)の損益計算書によれば、売上高282.9億円に対して売上原価は281.5億円。原価率は99.5%に達した。
手元に残った粗利はわずか1.4億円。前年同期の原価率は85.4%、粗利率は14.6%だった。1年で粗利率が大幅に悪化したのが赤字拡大の主な要因であるとみられる。
粗利がここまで細ったのは、値下げとクーポンで注文を集めたためであると考えられる。
近年、韓国発で新興のロケットナウが日本に参入、打ち出した「店頭と同じ価格・送料無料」という施策がユーザーの支持を集めている。
出前館も2025年9月に地方5都市250店舗で「お店価格で出前館」を始め、26年3月には全国47都道府県へ広げて送料無料も打ち出した。Uber Eatsが店頭価格キャンペーンに踏み込んだのも同じ3月である。
もっとも、値引きで客を呼ぶこと自体は出前館にとって新しい戦術ではない。クーポンの配布や送料の肩代わりは以前から続けてきた。そこに「お店価格」が重なり、注文1件あたりの利ざやはほぼゼロまで削られた。
粗利が1.4億円しか残らないところに、この9か月で広告宣伝費を含む販管費で65.1億円かかっている。営業損失63.7億円は、利益をほとんど生まない売上の上に出口の見えないマーケティング費が積み上がった結果ではないだろうか。
実は、そんな収益構造は今に始まったことではない。コロナ需要が膨らんだ2022年8月期には売上原価率がなんと104%、つまり104万円を100万円で売っているような惨状だった。
原価が売上を上回り、運ぶほど赤字が出る状態だった。そして後述するように、同じことが今期の決算にも起きている。
原価が重い理由は、配達体制の整備にある。出前館はUber Eatsなどと違い、配達員を自前で束ねる自社配達の比率が高い。
その結果、配達に対する品質管理が行き届くといったメリットはあるものの、配達コストが非常に大きくなる。
注文数が戻った代償
打開策として出前館が進めるのが、注文数の拡大だ。
1件あたりの利益が下がっても、件数がそれ以上に伸びれば、利益の総額は増える。会社が描くのはその筋書きだ。
しかし今期、その筋書きは思わぬかたちで裏切られた。
注文は、実際に戻ってきている。3〜5月のオーダー数は前年同期比8%増と、4四半期続いた前年割れを脱した。3月に「お店価格で出前館」を全国へ広げ、送料無料を始め、テレビCMも再開した効果だ。出前館自身、決算説明資料でこの局面を「再成長フェーズ」と呼んでいる。
問題は中身だった。この3カ月、売上原価が売上高を上回ったのである。運ぶために払った金額が、運んで受け取った金額を超えた。粗利はマイナスに沈み、そこへ販促と広告の費用が重なって、営業損失は32億円。前年同期の18億円から倍近くに膨らみ、四半期としてはこの2年で最も大きい赤字となった。
客は戻せた。ただ、戻すために払った代金のほうが大きかった。出前館がこの決算を発表した7月15日、同時に通期見通しを引き下げたのは、そのためである。
見落とせないのは、市場そのものが伸びなくなっていることだ。2025年の国内デリバリー市場は約8240億円、前年比2.0%増にとどまった。コロナ期の急拡大は止まり、この先も1兆円には届かず横ばいに近い、という見方が広がっている。
競争環境も出そろった。理屈のうえでは、寡占が進めば消耗戦は和らぎ、各社は値上げで採算を取り戻せるはずだ。ところが3月に送料を無料にする一方で商品代金の12%をサービス料として新たに徴収し、6月には悪天候時の追加料金も導入した。値下げと値上げを同時に進めている。
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では、フードデリバリーはそもそも儲からない事業なのか。答えは否である。ただし黒字にたどり着いた企業に共通していたのは、「デリバリー単体では戦っていない」という一点だった。後編記事〈「デリバリー単体で儲かる」わけがない…148億ドルの買収が示したウーバーと出前館の"戦う場所"の違い〉で詳しく解説する。
古田拓也
1級FP技能士・FP技能士センター正会員
中央大学卒業後、フィンテックスタートアップにて金融商品取引業者の設立や事業会社向けサービス構築を手がけたのち、広告DX会社を創業。サム・アルトマン氏創立のWorld財団における日本コミュニティスペシャリストを経て株式会社X Capitalへ参画。

