夫「すまん、働いてくれ…」→「今さら無理よ!」と断固拒否の専業主婦歴40年・61歳妻に懇願。退職金3,000万円を受け取った大企業元本部長の69歳夫が、妻に頭を下げた理由【FPが解説】
定年退職を迎え、悠々自適な老後を送るはずが、減り続ける通帳の残高を見て青ざめる……。そんな事態に陥る元・高所得世帯は意外に多いようです。本記事では、山本夫婦(仮名)の事例を通して、FP相談ねっと・認定FPの小川洋平氏が、高収入だった人が老後破産に陥りやすい理由について解説します。※本記事は実話をベースに構成していますが、プライバシー保護のため、個人名や団体名、具体的な状況の一部を変更しています。
「老後は悠々自適」のはずだった元本部長の誤算
山本隆一さん(仮名/69歳)は、地方都市の一戸建てで妻・洋子さん(仮名/61歳)と二人暮らしをしています。大手保険会社で本部長まで昇進し、65歳で定年退職。現役時代の年収は約1,200万円に達していました。
子どもが小学校へ入学したころ、夫婦は地方都市に一戸建てを購入。しかし、その後も山本さんは全国各地への転勤を繰り返し、単身赴任生活が長く続きました。赴任先では地域の経済団体や異業種交流会にも積極的に参加し、その土地の酒や料理を楽しみ、週に2〜3回は繁華街へ繰り出す生活が当たり前でした。一方、洋子さんは仕事を辞め、ほぼ一人で子育てと家事を担ってきました。
退職時、山本さんが受け取った退職金は3,000万円。それまでに蓄えていた金融資産も約1,500万円ありました。年金は山本さん一人で20万円、洋子さんが65歳になれば月27万円ほど見込める計算です。「これだけあれば十分だろう」。そう山本さんは楽観的に考えていました。
山本さんは退職後も現役時代と変わらない人付き合いを続けます。全国各地の元取引先から誘われればゴルフへ出掛け、単身赴任時代の仲間と酒を酌み交わすため、何度も遠方へ足を運んでいました。
しかし、そんな生活が、余裕だったはずの老後を不安へと変えていくことになります。
わずか2年で1,500万円を使ってしまった
減っていく預金残高に不安を覚えながら2年が経過したころ、4,500万円あった資産はついに3,000万円程度にまで減少してしまいました。
さらに事態は深刻でした。残った3,000万円のうち、1,500万円は二人の介護資金や整理資金として用意した終身保険や、若いころに契約した個人年金保険(毎年100万円程度を受給)の評価額です。さらに1,300万円は取り崩しにくい運用の年金原資などが占めており、手元の自由な預金残高自体は200万円程度にまで追い詰められていました。
慌てて古い付き合いのFPへ相談し、家計を詳しく分析してもらうことに。そこで明らかになったのは、夫婦の毎月の支出が平均75万円程度にも達しているという現実でした。
「俺が稼いだ」「私だって家を守った」深まる夫婦の亀裂
最も支出を圧迫していたのは、当然ながら山本さん自身の交際費で、ゴルフ代、交通費、宿泊費、飲食代など。一方で洋子さんのほうも、長年子育てと家事を優先してきた反動から、友人との高級ホテルランチや有名店のスイーツ巡り、ブランド品ではないものの洋服の購入などが楽しみになっていたのです。
公的年金に対し、毎月55万円の赤字。現在、公的年金と個人年金保険の受取額が合わせて28万円程度であるため、預金のマイナスを食い止めるには、月47万円の支出削減が必要だと試算されました。
FPの前で支出の見直しを巡る話し合いをしたものの、夫婦で口論になってしまいました。互いに、相手の支出ばかりが気になるからです。
山本さんが「俺が40年間働いて稼いできた金だ」と主張すれば、洋子さんは、「その40年間、私は仕事も辞めて一人で家と子どもを守ってきた」と言い返します。
そんなやりとりを2年以上も繰り返してしまったそうです。結局、特段の進展もないまま月日が流れました。山本さんはひとまず単発のアルバイトを始めましたが、到底追い付かず。終身保険の一部を解約して資金を用立ててきました。
そしてある日、山本さんは通帳を見つめながら、初めて妻へ頭を下げます。
「……すまん。働いてくれないか」
洋子さんは少し間を置き、静かに答えました。
「今さら無理よ。40年間家庭だけで生きてきた私が、60歳を過ぎてなんの仕事ができるの?」
その一言に、山本さんは返す言葉がありませんでした。
高収入だった人ほど陥りやすい「生活水準が下げられない老後」
総務省「家計調査(2025年)」によると、高齢夫婦無職世帯では毎月の実収入を支出が上回り、多くの世帯が預貯金の取り崩しによって生活している実態がうかがえます。また、金融広報中央委員会(現・J-FLEC)の調査をみても、現役時代に年収が高かった世帯であっても、退職後に十分な金融資産を残せていないケースは決して珍しくありません。
収入が高いほど生活水準も上がりやすく、その生活が当たり前になるためです。特に経営者や役職者だった人は、ゴルフや会食、人付き合いなどを仕事の一部として続けてきた人も多いでしょう。現役のころは交際費を会社の経費で処理で来たケースも多く、リタイア後にそれらをすべて自分の収入の中から支払うとなれば負担は大きくなります。そのままの生活を続ければ、資産は想定以上のスピードで減っていくのです。
打開策の一つとして老後の収入を増やすという手もあります。しかし、長年専業主婦だった配偶者に対し、突然「働いてほしい」と求めることは簡単ではありません。40年間家庭を守ってきた人にとって、60代から社会へ出ることは精神的な負担も大きいでしょう。
「家計の見える化」と「価値観の共有」
退職金や年金が多いからといって、安心できる老後が約束されるわけではありません。高収入だった人ほどむしろ、以前より生活水準を下げなければならないことがストレスになってしまうことも。一般的な収入だった家庭のほうが生活水準を下げずにいられるため、順応しやすく、生活の満足度が高くなることは珍しいことではないのです。
だからこそ大切なのは、現役時代から老後を見据えて「どんな生活が自分たちにとっての幸せなのか」を夫婦で話し合っておくこと。まずは収支を感覚ではなく数字で見える化し、それぞれの支出の、自分たちにとっての重要度を一つひとつ考えていきます。それを夫婦で共有し合い、優先順位に沿ってお金を使いましょう。そうやって限られた資産を、自分たちが最も幸せを感じられることへ使うための生活設計が必要です。
夫婦で納得できる対策を講じられるよう、努めていきましょう。
小川 洋平
FP相談ねっと
ファイナンシャルプランナー

