生成AIの開発競争が激化する中、MetaやGoogleなどのテクノロジー企業が、電気技師や大工、溶接工、配管工といった技能職の採用と育成を急速に拡大しています。求人検索サイトのIndeedによると、関連施設で働く人材の求人は過去2年間で2倍以上に増加しており、AIブームが従来のソフトウェア技術者とは異なる雇用を生み出しています。

A.I. Companies Are Recruiting Electricians and Carpenters by the Thousands - The New York Times

https://www.nytimes.com/2026/07/29/business/economy/data-center-electricians-training.html

Hiring for the Data Center Build-Out - Indeed Hiring Lab

https://www.hiringlab.org/2026/07/14/hiring-for-the-data-center-build-out/

The New York Timesによると、Meta、Google、資産運用大手のBlackRockなどはAI向けの大規模施設を建設・運営する人材を確保するため、技能職の育成に合計2億6500万ドル(約435億円)以上を投じています。大規模なコンピューター設備を稼働させるには、サーバーを扱うIT技術者だけでなく、建物を造る大工や鉄骨作業員、電力設備を設置する電気技師、冷却設備を担当する配管工などが大量に必要となるためです。

Metaは技能職の育成プログラム「America's Workforce Academy」に1億1500万ドル(約189億円)を投じ、電気技師、溶接工、配管工、光ファイバー技術者などを育成する計画です。America's Workforce Academyは受講料や資格取得費用、交通費を負担するほか、受講者に報酬を支払い、修了者にはMetaの建設現場を中心とする就職先を保証します。ルイジアナ州、オハイオ州、テキサス州、インディアナ州で試験運用を開始し、初年度に数千人を育成することを目指しています。



BlackRockも「Future Builders」と呼ばれる取り組みに5年間で1億ドル(約164億円)を拠出し、電気技師、溶接工、配管工、空調設備技術者など5万人の訓練と就職を支援する方針です。BlackRockは独自の学校を設立するのではなく、既存の職業訓練団体を支援し、GoogleやMeta、Walmart、Home Depotなどとも協力するとしています。

求人検索サイトのIndeedが2026年7月に公開した分析でも、こうした技能職への需要増加が確認されています。Indeed上で「data center」「datacenter」「data-center」のいずれかを職名または説明文に含む求人は、過去2年間で2倍以上に増えました。同じ期間にアメリカ全体の求人が約12%減少し、それらを除いたテクノロジー関連求人も6%減少したのとは対照的です。

以下のグラフは2024年6月の求人件数を100として、アメリカ全体の求人(青色)、データセンター関連施設の求人(赤色)、それらを除いたテクノロジー求人(黄色)の推移を比較したものです。アメリカ全体と一般的なテクノロジー求人が減少する一方、関連施設の求人だけが大きく伸び、特に直近1年間で増加が加速していることが分かります。



記事作成時点では、アメリカの求人1000件当たり約6件がデータセンター関連施設の仕事となっており、2023年半ばの約2件から3倍に増えました。2026年に掲載された求人の71%は、時価総額上位10社のテクノロジー企業によるものです。

求人が増えている地域も、シリコンバレーやシアトルのような従来のテクノロジー都市とは異なります。オハイオ州コロンバス、ミシシッピ州ジャクソン、ネバダ州リノでは、上位10社のテクノロジー企業が占める求人の割合が2025年半ばまで2%未満でしたが、2026年にはいずれも10%を上回りました。

以下のグラフは、コロンバス(青色)・ジャクソン(赤色)・リノ(黄色)における求人のうち、大手テクノロジー企業10社が占める割合を示しています。2025年末までは2.5%未満だった割合が2026年に急上昇しており、AI投資によって大手テクノロジー企業の採用拠点が地方都市へ広がっていることが読み取れます。



募集されている職種の約4分の1は、電気・通信設備やケーブル、コンピューター、サーバーなどの設置・保守を担う人材です。ITインフラ、運用・サポート、設置・保守を合わせると、求人全体の約半数を占めます。従来型のソフトウェア技術者より給与水準は低い傾向にありますが、時間給で募集される設置・保守職の中央値は、一般的な同種の仕事より42%高く、1時間当たり約10ドル(約1640円)の上乗せがあるとIndeedは分析しています。

こうした求人の急増を支えているのが、世界各地で相次いでいるAI向け計算基盤への巨額投資です。MetaはBlackRockと共同で、テキサス州エルパソに計算能力1GWの施設を開発・保有する合弁事業を設立しました。建設や管理はMetaが担当し、完成後はMetaが最初の単独利用者となる予定で、建設を通じて数千人規模の技能職が生まれるとしています。

NVIDIAは、Hut 8がテキサス州で計画する1GW規模の施設について、最大502億ドル(約8兆2300億円)に上るリース契約の借り手であると報じられています。Hut 8の施設は数十万個のAIチップを収容する計画で、NVIDIAによる長期契約が、Hut 8による建設資金の調達を支える構造となっています。



NVIDIAはさらに、SoftBank傘下のエネルギー企業SB Energyがオハイオ州南部で開発する10GW規模の施設をOpenAIが借りられるよう、約2500億ドル(約41兆円)の資金調達を保証する方向で協議していると報じられています。NVIDIAは施設に導入するAIチップについても、別途最大3500億ドル(約57兆4000億円)を融資する案を検討しているとされます。交渉は継続中であり、契約が成立しない可能性もあります。

このオハイオ州の施設はアメリカ政府が管理する土地と電力を利用し、第1段階として2028年までに800MWの計算能力を提供する見込みです。施設と内部のチップを合わせた総事業費は5000億ドル(約82兆円)を超える可能性があり、実現すれば世界最大級のAI計算拠点となります。

韓国では、NAVERがBrookfieldおよびNVIDIAと提携し、総額100億ドル(約1兆6400億円)を投じてAI計算基盤を拡大します。Brookfieldが最大90億ドル(約1兆4800億円)、NVIDIAが10億ドル(約1640億円)を拠出し、NAVERが残額を負担します。最初のNVIDIA DSX施設を55MWから200MWへ拡張するとともに、SK Groupとの事業を含め、韓国内で合計2GWを超える規模の整備を目指しています。

OpenAIはジョージア州エフィンガム郡で、長期インフラ計画「Project Camellia」を進めています。この計画ではGeorgia Powerと3.2GWの電力供給契約を結んでおり、2028年から2032年にかけて段階的に供給を受ける予定です。報道によると投資額は300億ドル(約4兆9200億円)を超える見通しで、OpenAIは一般家庭が費用を負担することはなく、必要な電力・送電設備などの費用を自社で支払うと説明しています。



Anthropicは、TeraWulfがケンタッキー州ホーズビルに整備する施設を20年間借りる契約を締結しました。供給される計算設備の容量は約401MWで、2027年後半から2028年初頭にかけて段階的に引き渡される予定です。TeraWulfは当初20年間の契約収入を約190億ドル(約3兆1200億円)と見込んでおり、Anthropicはさらに最長10年間延長できます。



アメリカ以外でも大規模計画が進んでいます。TikTokを運営するByteDanceは、ブラジル北東部のセアラ州にある自由貿易地域で、最大1GWの計算能力を持つ複合施設を建設する計画で、投資規模は約390億ドル(約6兆4000億円)に上ると報じられています。完成すれば、中国国外におけるByteDance最大の計算拠点となる見込みです。

中国のAI企業Z.aiは、中国製半導体だけを搭載した1GW規模の施設を完成させ、一部の運用を開始したとBloombergが報じました。旧称Zhipuとして知られるZ.aiは、1万個以上の中国製AIチップで構成する計算クラスターを複数運用し、次世代のGLMモデルの学習に使用するとされています。アメリカによる先端半導体の輸出規制が続く中、NVIDIA製チップに依存せず大規模AIを開発する中国の試みとして注目されています。

ただし、建設ラッシュが生み出すのは雇用だけではありません。大量の電力や水を使用する施設が住宅地の近くに建てられることで、騒音、排熱、景観、安全性、電気料金などを巡る住民との対立も各地で起きています。建設時に数千人規模の労働者が必要になる一方、完成後も同じ規模の雇用が維持されるかは分からないとIndeedも指摘しています。

日本でも同様の問題が表面化しています。日本には約300カ所の関連施設があり、市場規模は230億ドル(約3兆7700億円)と推定されていますが、2030年までに約50%拡大する見込み。その約90%が首都圏と大阪圏という人口密集地域に集中しているため、住宅の近くで進む建設を巡って、騒音や排熱、非常用燃料の保管、資産価値の低下を懸念する住民から反発が起きています。

千葉県印西市ではマンションの正面に高さ52mの施設を建設する計画に対し、住民が1万3000人以上の署名を集め、承認した事業者を相手取って訴訟を起こしたことが海外でも報じられています。現在の日本の建築制度では、こうした施設は工場や倉庫ではなく「事務所」として扱われる場合があり、自治体側も既存の制度では住民への影響に十分対応できないと認めています。AIが電気技師や大工に新たな仕事をもたらす一方、その建設場所や負担を誰が引き受けるのかという問題は、日本でも避けて通れない課題になっています。