子どもは甘いおやつが大好きですが、健康のために食べさせすぎないようにしているという親も多いはず。第二次世界大戦によりイギリスで実施された砂糖の配給制に着目した研究では、幼少期に砂糖の摂取量が少なかった人は認知症アルツハイマー病の発症リスクが低いとの結果が示されました。

Early-life sugar rationing, brain aging, and long-term neurodegenerative and psychiatric health outcomes: a population-based natural experiment study | npj Aging

https://www.nature.com/articles/s41514-026-00452-z

Low-Sugar Diet Early in Life Linked to 46% Lower Alzheimer's Risk : ScienceAlert

https://www.sciencealert.com/low-sugar-diet-early-in-life-linked-to-46-lower-alzheimers-risk

第二次世界大戦の最中および戦後のイギリスでは、経済的困難によって政府による食糧の配給制が導入されていました。肉や砂糖といった一部の食品は戦後もしばらく配給制が続けられ、砂糖の配給量は成人でも1日40g未満に抑えられ、2歳未満の子どもは0gでした。親は自分がもらった砂糖の一部を子どもに与えていたとみられますが、自由に砂糖が購入できる世代と比べると摂取量は圧倒的に少なかったと考えられます。

1953年9月に配給制が終了すると成人の平均砂糖消費量はほぼ倍増し、1日あたり約41gから約80gに増加したほか、子どものキャンディー消費量も2倍以上になりました。この急激な変化は一種の自然実験のような影響をもたらし、「配給制により幼少期までの砂糖摂取量が少なかったグループ」「母親の胎内にいた時のみ砂糖摂取量が少なく、出生後は普通に砂糖を摂取したグループ」「母親の胎内にいた時から幼少期まで砂糖の制限を受けなかったグループ」を生み出しました。



中国の研究チームはこのイギリス独自の環境を利用するため、イギリスの大規模バイオバンクであるUKバイオバンクから、砂糖の配給制が廃止される前後にまたがる1951〜1956年に生まれた6万394人のデータを抽出。幼少期および胎内の砂糖摂取量が、その後の認知症アルツハイマー病、うつ病などの発症リスクとどのように関連しているのかを調べました。

データを分析した結果、生後1000日間が砂糖の配給制と重なった人は砂糖の配給制を経験しなかった人と比べて、あらゆる原因による認知症の発症リスクが27%、アルツハイマー病の発症リスクが46%も低いことが明らかになりました。また、うつ病のリスクは11%、不安障害のリスクも20%低いことがわかりましたが、パーキンソン病については同様の関連性がみられませんでした。

アルツハイマー病などの発症リスク低下は、母親の胎内にいた時だけでなく出生後も砂糖の配給制が続いたグループに強く現れました。母親の胎内にいた時だけ砂糖の配給制にさらされたグループは、不安障害のリスクが低いことを除けば、ほとんど明確な違いはなかったとのことです。

さらに、研究チームは一部の被験者から得られた脳のMRIスキャンデータを用いて、幼少期の糖分摂取が脳の発達に検出可能な違いをもたらすかどうかを調べました。その結果、幼少期に砂糖が配給制だった人々の脳は平均して実年齢より0.39歳若く見えたほか、記憶や認知機能にかかわる海馬や視床といった部位の体積も大きかったと報告されています。

論文の筆頭著者であり、中国・広州医科大学の老年医学研究者であるビン・チャン氏は、「この持続的な保護効果は、生後1000日間の代謝プログラミングに起因すると私たちは考えています。この期間は脳が急速に発達し、栄養シグナルに極めて敏感になる重要な時期です」と述べています。さらに、幼少期の糖分制限に関連する海馬と視床の体積増加は、脳が加齢に伴う変化に耐える能力を高める可能性もあるとのこと。



今回の研究では、個々の母親と子どもがどれほどの砂糖を摂取したのかまでは特定しておらず、UKバイオバンクの参加者の多くは白人だという制限もあります。また、追跡調査期間中に認知症を発症したのはわずか307人で、そのうちアルツハイマー病と診断されたのは123人にとどまるため、リスクの推定値も比較的少数の症例に基づいています。したがって、妊娠中または幼少期の砂糖制限が数十年後の認知症発症を予防すると証明することはできません。

それでもチャン氏は、今回の研究結果は妊娠中および幼少期における砂糖の摂取制限を支持するものであると主張。「砂糖の制限そのものが大きな要因であると、私たちは確信しています」「これは単に目先の健康問題だけではなく、数十年後の脳の健康に対する長期的な投資です」とチャン氏は述べました。