ほくでんグループが進める障がい者雇用、「特例子会社だけに任せない」新たな職場作り
障がい者雇用は、法律上の義務を果たすことにとどまらず、労働力不足の解消や多様性のある組織作り、企業の社会的責任を果たすために不可欠な経営戦略として、現在さまざまな企業が積極的に取り組んでいる。
一方で、厚生労働省職業安定局障害者雇用対策課の「令和5年度障害者雇用実態調査結果報告書」によれば、6割以上の企業が「障害者雇用に課題がある」と回答しており、現場ではさまざまな悩みを抱えていることがうかがえる。
そんな障がい者雇用において、先進的な取り組みを進め、北海道内外から注目を集めているのが北海道電力だ。
本稿では、「特例子会社で働く」「本社で働くなら正社員で働く」といった選択肢だけではなく、働く場所、働き方、業務内容に多様性を持たせることが、本人のワークエンゲージメントを高めることにつながるという考え方のもと、障がい者雇用の新たな形を模索している北海道電力の取り組みに迫る。

社内業務を集約し、新たな雇用を生み出す
北海道電力は、障がいのある人が働きやすい環境づくりを目指し、人事労務部内に「業務サポートグループ」を新設した。
業務サポートグループの特徴は、障がい者向けの特別な仕事を新たに作るのではなく、社内に実際に存在する定型業務を集約し、障がいのある職員とともに担っている点にある。
具体的には、事務用品の管理、雇用契約に関する事務、資料作成、データ集計、会計処理、マニュアル作成など、社内各部署に分散していた業務を移管している。
職員からは「以前の職場では仕事量が少なく、将来への不安もあったが、今は考えながら取り組む仕事が多く、やりがいを感じている」「これまで経験してこなかった雇用関係の業務や資料作成に携わることで、新しい知識を得られている」といった声が聞かれた。
業務内容は幅広く、パソコンを使った資料作成やデータ処理だけでなく、事務用品の管理、パンフレットの封入、消耗品の整理など、物品を扱う業務もある。職員はそれぞれの経験や得意分野を生かしながら、新たな業務に挑戦しているのだという。
「できない」と決めつけない職場運営
このような形態で取り組みを進める上で重視しているのは「できないのではないか」という先入観を持たないことだ。
北海道電力 人事労務部 業務サポートグループリーダーの神泰之氏は「こちら側が先に仕事を選別しすぎるのではなく、まず業務を渡し、本人に取り組んでもらう。その中で苦手な部分があれば、その苦手をどう乗り越えるかを一緒に考える」と説明する。

北海道電力 人事労務部 業務サポートグループリーダーの神泰之氏
例えば、業務工程が5つある場合、全体を任せることが難しくても、そのうち一部だけを別の人が担えば成立することもある。仕事そのものを渡さないのではなく、どうすればできる形に変えられるかを考える姿勢が重要なのだ。
従業員の可能性を信じた業務配分を進める一方で、職場運営には細かな配慮も必要だ。
精神障がいや発達障がいのある職員の場合、体調やメンタルコンディションが外見から分かりにくいことがある。そのため、日々の状態をアプリで共有する仕組みを導入したり、つらい時に言葉で伝えづらい場合でも、何らかの合図で周囲が気付ける方法を検討したりしているという。
このような配慮は、オフィスの内装のような「職場環境」にも行き届いており、バリアフリー化に加え、落ち着くためのカームダウンルームや作業集中ブースを整備。「私たちが決めつけるのではなく、当事者の声を聞くことが大切だ」とのことで、机や天井の色、動線、家具の配置なども、実際の声を聞きながら調整しているそうだ。
特例子会社だけに頼らない理由
またほくでんグループには、特例子会社であるほくでんアソシエがある。
ほくでんアソシエは、障がいのある人の働く場をつくり、社会的自立や社会参加を支援することを目的に、2007年6月に設立された。その後、2009年3月には、ほくでんグループ全体の特例子会社としてグループ適用を受けた。
特例子会社は、障がい者雇用に特別な配慮を行い、国から認定を受けた会社である。特例子会社で雇用された労働者は、親会社やグループ会社の障がい者雇用率に算入できる。
ただし、ほくでんグループは「特例子会社があるから、障がい者雇用はそこで完結する」という考え方は取っていない。
背景には、グループ全体として多様な働く場を用意する必要があるという考え方にある。
働く場所や雇用形態、業務内容を複数用意することで、障がいのある人が自分に合った働き方を選びやすくなるためだ。
ほくでんアソシエ 取締役 管理部長の森谷義昭氏は「障がい者の職場だから特別に協力するというよりも、特例子会社は、学校や福祉施設でもなく、従業員は一般の会社で働いているという意識を持つことが重要であるとともに、全ての従業員がそれぞれの個性や特性を理解して互いに信頼し支え合うことが大切だ」と話す。

ほくでんアソシエ 取締役 管理部長の森谷義昭氏
ほくでんアソシエが進める事業転換
近年、ほくでんアソシエでは時代の変化に合わせた事業転換を進めている。
設立当初、同社の主力事業は印刷事業で、北海道電力で使用する営業関係の帳票類や名刺などの印刷を中心に手掛けていた。そのほか、テレビ番組の字幕制作を行うメディア事業、郵便物の発送などを担うメールセンター業務、唐松石鹸の販売なども展開してきたという。
しかし、ペーパーレス化の進展により、印刷事業の売上は大きく減少。特に、北海道電力が検針票の紙による発行を廃止したことは、印刷事業に大きな影響を与えたという。
そのため、ほくでんアソシエでは、単発受注に依存する事業構造から、安定的な受託業務へと転換を進めている。
森谷氏は「特例子会社とはいえ、一つの企業として安定した経営をしていかなければならない。設立目的を果たすためにも、安定した収入を確保する必要がある」と説明する。
その新規事業の一つとして始まったのが、北海道電力と北海道電力ネットワークの従業員向けマッサージルームの運営を行う「ヘルスケア事業」である。
同事業は、北海道電力・北海道電力ネットワークが健康経営の一環としてマッサージルームを設置し、その運営をほくでんアソシエが受託する仕組み。
利用料は1回40分で税込550円。利用者は昼休みや1時間単位で取得できる時間休暇を使って施術を受けることができる。障がいのある人が働ける場をつくると同時に、従業員のニーズにも応える取り組みである。

マッサージ用の部屋が2部屋用意されている
森谷氏は「障がいのある方が働ける事業で、かつ従業員のニーズがあるものを探していた。その中で、他社事例も参考にしながらマッサージ事業にたどり着いた」と語る。
利用者からの反応も良好で、アンケートでは「大変よかった」とする声が多く、リピーターも多いという。

マッサージの様子
実際にほくでんアソシエの社員として、ヘルスキーパーを務めている安達沙也佳氏と中森豊氏も「施術後のアンケートを見ると、満足してもらえたことが分かり、自分のモチベーションにつながる」と嬉しそうに話してくれた。

左からヘルスキーパーの安達沙也佳氏と中森豊氏
働く場所の選択肢を増やすために
ほくでんグループの取り組みで特徴的なのは、特例子会社を持ちながらも、グループ各社で障がい者雇用を進めている点である。
特例子会社は、障がい者雇用を支える重要な仕組みである一方で、そこだけに雇用を集約すれば良いわけではない。
働く本人の社会的自立や社会参加を考えれば、働く場所や雇用形態、業務内容の選択肢を広げることが重要である。
北海道電力の業務サポートグループは、社内にある実際の仕事を集約し、障がいのある職員とともに担う職場である。ほくでんアソシエは、特例子会社として安定した経営基盤を築きながら、新たな雇用機会を生み出している。
両者の取り組みは、障がい者雇用を「義務」や「数値目標」だけで捉えるのではなく、本人の成長や働きがい、企業の業務改善、地域社会への波及効果まで含めて考えるものだ。
北海道電力は今後も、障がいの有無にかかわらず、一人ひとりが自分に合った場所で力を発揮できる環境をつくることを目指していく。
一方で、厚生労働省職業安定局障害者雇用対策課の「令和5年度障害者雇用実態調査結果報告書」によれば、6割以上の企業が「障害者雇用に課題がある」と回答しており、現場ではさまざまな悩みを抱えていることがうかがえる。
本稿では、「特例子会社で働く」「本社で働くなら正社員で働く」といった選択肢だけではなく、働く場所、働き方、業務内容に多様性を持たせることが、本人のワークエンゲージメントを高めることにつながるという考え方のもと、障がい者雇用の新たな形を模索している北海道電力の取り組みに迫る。

社内業務を集約し、新たな雇用を生み出す
北海道電力は、障がいのある人が働きやすい環境づくりを目指し、人事労務部内に「業務サポートグループ」を新設した。
業務サポートグループの特徴は、障がい者向けの特別な仕事を新たに作るのではなく、社内に実際に存在する定型業務を集約し、障がいのある職員とともに担っている点にある。
具体的には、事務用品の管理、雇用契約に関する事務、資料作成、データ集計、会計処理、マニュアル作成など、社内各部署に分散していた業務を移管している。
職員からは「以前の職場では仕事量が少なく、将来への不安もあったが、今は考えながら取り組む仕事が多く、やりがいを感じている」「これまで経験してこなかった雇用関係の業務や資料作成に携わることで、新しい知識を得られている」といった声が聞かれた。
業務内容は幅広く、パソコンを使った資料作成やデータ処理だけでなく、事務用品の管理、パンフレットの封入、消耗品の整理など、物品を扱う業務もある。職員はそれぞれの経験や得意分野を生かしながら、新たな業務に挑戦しているのだという。
「できない」と決めつけない職場運営
このような形態で取り組みを進める上で重視しているのは「できないのではないか」という先入観を持たないことだ。
北海道電力 人事労務部 業務サポートグループリーダーの神泰之氏は「こちら側が先に仕事を選別しすぎるのではなく、まず業務を渡し、本人に取り組んでもらう。その中で苦手な部分があれば、その苦手をどう乗り越えるかを一緒に考える」と説明する。

例えば、業務工程が5つある場合、全体を任せることが難しくても、そのうち一部だけを別の人が担えば成立することもある。仕事そのものを渡さないのではなく、どうすればできる形に変えられるかを考える姿勢が重要なのだ。
従業員の可能性を信じた業務配分を進める一方で、職場運営には細かな配慮も必要だ。
精神障がいや発達障がいのある職員の場合、体調やメンタルコンディションが外見から分かりにくいことがある。そのため、日々の状態をアプリで共有する仕組みを導入したり、つらい時に言葉で伝えづらい場合でも、何らかの合図で周囲が気付ける方法を検討したりしているという。
このような配慮は、オフィスの内装のような「職場環境」にも行き届いており、バリアフリー化に加え、落ち着くためのカームダウンルームや作業集中ブースを整備。「私たちが決めつけるのではなく、当事者の声を聞くことが大切だ」とのことで、机や天井の色、動線、家具の配置なども、実際の声を聞きながら調整しているそうだ。
特例子会社だけに頼らない理由
またほくでんグループには、特例子会社であるほくでんアソシエがある。
ほくでんアソシエは、障がいのある人の働く場をつくり、社会的自立や社会参加を支援することを目的に、2007年6月に設立された。その後、2009年3月には、ほくでんグループ全体の特例子会社としてグループ適用を受けた。
特例子会社は、障がい者雇用に特別な配慮を行い、国から認定を受けた会社である。特例子会社で雇用された労働者は、親会社やグループ会社の障がい者雇用率に算入できる。
ただし、ほくでんグループは「特例子会社があるから、障がい者雇用はそこで完結する」という考え方は取っていない。
背景には、グループ全体として多様な働く場を用意する必要があるという考え方にある。
働く場所や雇用形態、業務内容を複数用意することで、障がいのある人が自分に合った働き方を選びやすくなるためだ。
ほくでんアソシエ 取締役 管理部長の森谷義昭氏は「障がい者の職場だから特別に協力するというよりも、特例子会社は、学校や福祉施設でもなく、従業員は一般の会社で働いているという意識を持つことが重要であるとともに、全ての従業員がそれぞれの個性や特性を理解して互いに信頼し支え合うことが大切だ」と話す。

ほくでんアソシエが進める事業転換
近年、ほくでんアソシエでは時代の変化に合わせた事業転換を進めている。
設立当初、同社の主力事業は印刷事業で、北海道電力で使用する営業関係の帳票類や名刺などの印刷を中心に手掛けていた。そのほか、テレビ番組の字幕制作を行うメディア事業、郵便物の発送などを担うメールセンター業務、唐松石鹸の販売なども展開してきたという。
しかし、ペーパーレス化の進展により、印刷事業の売上は大きく減少。特に、北海道電力が検針票の紙による発行を廃止したことは、印刷事業に大きな影響を与えたという。
そのため、ほくでんアソシエでは、単発受注に依存する事業構造から、安定的な受託業務へと転換を進めている。
森谷氏は「特例子会社とはいえ、一つの企業として安定した経営をしていかなければならない。設立目的を果たすためにも、安定した収入を確保する必要がある」と説明する。
その新規事業の一つとして始まったのが、北海道電力と北海道電力ネットワークの従業員向けマッサージルームの運営を行う「ヘルスケア事業」である。
同事業は、北海道電力・北海道電力ネットワークが健康経営の一環としてマッサージルームを設置し、その運営をほくでんアソシエが受託する仕組み。
利用料は1回40分で税込550円。利用者は昼休みや1時間単位で取得できる時間休暇を使って施術を受けることができる。障がいのある人が働ける場をつくると同時に、従業員のニーズにも応える取り組みである。

森谷氏は「障がいのある方が働ける事業で、かつ従業員のニーズがあるものを探していた。その中で、他社事例も参考にしながらマッサージ事業にたどり着いた」と語る。
利用者からの反応も良好で、アンケートでは「大変よかった」とする声が多く、リピーターも多いという。

実際にほくでんアソシエの社員として、ヘルスキーパーを務めている安達沙也佳氏と中森豊氏も「施術後のアンケートを見ると、満足してもらえたことが分かり、自分のモチベーションにつながる」と嬉しそうに話してくれた。

働く場所の選択肢を増やすために
ほくでんグループの取り組みで特徴的なのは、特例子会社を持ちながらも、グループ各社で障がい者雇用を進めている点である。
特例子会社は、障がい者雇用を支える重要な仕組みである一方で、そこだけに雇用を集約すれば良いわけではない。
働く本人の社会的自立や社会参加を考えれば、働く場所や雇用形態、業務内容の選択肢を広げることが重要である。
北海道電力の業務サポートグループは、社内にある実際の仕事を集約し、障がいのある職員とともに担う職場である。ほくでんアソシエは、特例子会社として安定した経営基盤を築きながら、新たな雇用機会を生み出している。
両者の取り組みは、障がい者雇用を「義務」や「数値目標」だけで捉えるのではなく、本人の成長や働きがい、企業の業務改善、地域社会への波及効果まで含めて考えるものだ。
北海道電力は今後も、障がいの有無にかかわらず、一人ひとりが自分に合った場所で力を発揮できる環境をつくることを目指していく。
