因縁浅からぬイングランド対アルゼンチン。66年の「Animals」、86年の「神の手」、98年のベッカム、2002年札幌の雪辱。その歴史の続きをメッシとベリンガムが担う【W杯】
アルゼンチンがスイスを延長戦の末に3-1で破った準々決勝の後、カンザスシティのスタンドには「El que no salta es un inglés(跳ばない奴はイングランド人だ)」というチャントが響いた。
跳んでいる者は仲間、跳ばない者は敵。南米のスタンドで広く歌われる定型の挑発だが、次の相手がイングランドとなれば、言葉の熱量は一段と増す。
現在も政治的な火種は消えていない。アルゼンチンでは近年、フォークランド諸島の主権を改めて強く訴える動きがあり、ハビエル・ミレイ大統領も今年4月、「マルビナス諸島は、かつても、今も、そしてこれからもアルゼンチンのものだ」とSNSに投稿した。英紙『タイムズ』のインタビューに応じたアルゼンチンサポーターの1人も、「マルビナスのために、ワールドカップでイングランドと戦いたい」と語る。サッカーの勝敗が、国家の記憶と無関係ではいられないカードなのだ。
両国がW杯で対戦するのは今回が6度目だが、準決勝では初めてとなる。
最初の対戦は1962年のチリ大会。だが、本当の意味で因縁が始まったのは、66年イングランド大会の準々決勝だった。
英国のウェンブリー・スタジアムで行なわれた一戦は荒れに荒れた。アルゼンチンの主将アントニオ・ラッティンが退場を命じられながら、約8分間、ピッチを去らず、試合は中断。イングランドは1-0で勝ったが、試合後、同代表を率いていたアルフ・ラムゼー監督は、相手を「Animals(動物)」と呼び、選手たちにユニホーム交換をさせなかった。そこには侮蔑と反発が残った。
そして20年後、両国の感情はさらに激しい形で噴き出す。
1986年メキシコ大会の準々決勝。舞台はアステカ・スタジアム。フォークランド紛争から、まだ4年しか経っていなかった。アルゼンチンではこの試合が戦争の記憶と結びつき、英国メディアもナショナリズムをあおった。
先制点は、ディエゴ・マラドーナの「神の手」だった。GKピーター・シルトンの頭上で、拳を使ってボールを押し込む。審判は見逃した。直後、マラドーナは今度は正真正銘の天才を見せる。イングランド守備陣を次々とかわし、最後はシルトンまで抜き去った。

