塀の中で日本一読まれる小説──Z李が明かす「受刑者という最強の読者」
「この物語の評判がいちばん響いてきたのは、書店ではなく〝塀の中〟なんです。自分でもちょっと引くほどの反響があった」
と驚きを隠さない様子で、デビュー作の熱狂を語ってくれた。
「小菅にある東京拘置所の前には本屋があるんですけど、そこの差し入れランキングで、僕が書いた『飛鳥クリニックは今日も雨』が上中下巻で1位、2位、3位を独占したことがあった。自分の中ではすごく誇らしいことだったんですけど、新作を別の出版社から出したとき、『そういうのはセールスの文言として使えませんよ』と言われて。ちょっと残念な気持ちになったんです」
拘置所という場所で愛読される意味を、Z李さんはこう解釈する。
「自分も留置場に入ったり、拘束されたりしたことがあるけど、時間の温度感が娑婆とは全然違う。娑婆じゃ絶対に向き合えない密度で、一冊と向き合えるんです。だから『塀の中にいるやつら』が勧める本は、本当に面白いことが多い。僕は受刑者専門の求人誌『チャンス』で連載を持っていて、全国の受刑者と手紙をやり取りしているんだけど、『こんな本を読みました』と書かれていたら、全部メモするようにしているんです。そして、100通来たら、80通くらいは『飛鳥クリニック、読みました』『とても面白かった』と書いてある。活字や物語に飢えた人たちに面白いと言われることは、食通をうならせるのと同じだと思ってるんです。少なくとも、僕の中ではね」
◆Real-Tが刻んだ〝夜読する飛鳥クリニック〟
「塀の中での熱狂」を象徴するようなエピソードもある。人気ラッパー・Real-Tが、楽曲『寄せ場』で〝夜読(ヤドク)する飛鳥クリニック〟とリリックに刻んだのだ。寄せ場は刑務所、ヤドクとは消灯後に看守の目を盗んでこっそり読む、という意味だ。
「Real-Tくんとは顔見知りではあったけど、『俺の本を読んでくれ』なんてことは一度も言ってないんです。彼が出所してから食事する機会があったんだけど、『歌詞に飛鳥クリニックって入ってるんで聞いてください』って本人から唐突に言われて。こっちが〝嘘でしょ〟ってなったくらいで。
悪い奴の生き方や言葉が、俺は好きなんです。でも、いまは『チャンス』で再犯防止の活動もしている手前、彼のリリックは悪すぎて、これを推奨していいのかなとは思ってしまうけど(笑)。『がんころ』って曲、聴いてみてください。サビが〝早いの、早いの、早いの、ポーン〟ですよ(笑)」

