メンタル不調になると、どのような変化が見られるのか。大手外資系企業を中心に年間1000件以上の面談を行っている産業医の武神健之さんは「行動、外見、表情の変化は周囲の人が気づきやすい。産業医として多くの方と面談してきたなかで、注意が必要だと思う変化を紹介しよう」という――。
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※写真はイメージです - 写真=iStock.com/RRice1981

■「同僚に元気がない」

こんにちは、産業医の武神です。日々産業医面談をしていると、たまに社員から「同僚が最近元気がなくて心配」といった、周囲の人を気にかける声を聞くことがあります。

まず、同僚の変化に気づいたこと、そして気遣って私に相談してくれたこと、とても嬉しく思います。他人を気遣うことは自分を気遣うことにもつながりますので、産業医としては、こういう声はとても嬉しいです。

そこで今月は、このような時に多くの人に知っておいてほしいことを3つお話しさせていただきます。

まずは1つめ「ストレス症状は自覚しづらい」です。

人は、自らにかかる負荷が自分の許容限度を超えていっぱいいっぱいになる、つまり「ストレス」を感じると、その反応が、心や身体、行動に症状として現れます。

このうち、本人が最も気づきやすいのは身体症状(不眠、食欲低下、頭痛やめまい、動悸や冷や汗など)で、わかりにくいのが精神症状(やる気が出ない、億劫、不安、イライラ、憂鬱など)です。そして周囲が最も気づきやすいのは、行動や表情の変化(飲酒・喫煙の増加、遅刻・早退、会話の減少など)です。

しかし、心や身体の症状に早く気付けば早い治療につながるわけではありません。心や身体の症状の原因がストレスであることは、当事者には見逃されやすいのです。

■「仕事ができる人」の傾向

心や身体の状態は、目で見てわかるものではないため、本人でさえ気づかないことが多いです。まして、他人が気づくのはさらに難しいことです。また、こういった心や身体の症状は徐々に進行します。ある日突然、抑鬱状態やめまいになるのではなく、いっぱいいっぱいな状態が続くと、徐々に頻度が増えたり、強くなったりして症状が進み、気づいた時にはかなり進んでいるというのが典型的なパターンなのです。

最終的に心や身体の症状に気がついても、その原因としてのストレスの可能性を、「まさか私が」「自分がメンタル不調になるわけがない」という思いが先行して否定してしまい、治療をさらに遅らせます。特に、仕事ができる人、責任感の強い人に、この傾向が強くあります。

さらに付け加えるならば、ストレス反応としての身体症状は、心の症状よりは分かりやすいですが、全ての身体症状が必ずしもストレスによるものとは言いきれません。こうした症状は、ストレスのせいでなくても、肉体的な不調のせいで起こることも多々あります。

ですから、同僚に、本人の自覚がないのにストレス症状が見られる時、周囲から声をかけて気づかせてあげること、次のステップへ促すことはとても大切です。

■挨拶をしなくなる、会話がなくなる…

2つめは「行動・外見・表情の変化は気づきやすい」ということです。心や身体の症状が周囲から見えにくい一方、行動・外見・表情の変化は、周囲が気づきやすい最初のシグナルです。産業医として多くの方と面談してきた私が注意が必要だと思う変化は、以下のとおりです。

職場で周囲が気づきやすいのは、“見ればわかる”行動の変化です。以下のようなものがあります。

・遅刻・早退・欠勤が増える
・朝の挨拶をしなくなる、または声が小さくなる
・一緒にランチに行かなくなる
・ミスが増える、同じミスを繰り返す
・業務量と不釣り合いな残業が増える
・ほうれんそう(報告・連絡・相談)が極端に減る
・同僚との会話がほぼなくなる
・お酒・タバコの量が明らかに増える(本人談含む)
・衝動買いやギャンブル、過食・拒食などの行動が出る

■メイクをしなくなる、寝癖のまま出社する…

外見の変化は見落とされがちですが、表情や身だしなみの変化も、産業医として重要なサインのひとつと考えます。

〈女性の場合〉
・化粧が急に濃くなる(涙の跡や眠れていないことを隠すため)
・逆に、これまでしっかりしていたメイクを急にしなくなる
・服のコーディネートがこれまでと明らかに変わる
・髪型が乱れがちになる、または以前と比べて手入れが雑になる
・体重が短期間に大きく変わる(増減どちらも)

写真=iStock.com/byryo
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〈男性の場合〉
・寝癖のまま出社するようになる(以前はきちんとしていた人が)
・無精ひげが増える、ひげの手入れをしなくなる
・シワシワ・ヨレヨレの服装になる、清潔感が損なわれる
・白髪染めをしなくなる
・髪の毛が伸びっぱなしになる

■目が合わなくなる、視線を外す…

〈男女共通の外見・表情の変化〉
・笑顔が少なくなる、または笑い方が以前と変わる
・目の周りがいつも腫れている(泣いているか、眠れていない)
・目が合わなくなる、視線を外すようになる
・お手洗いから戻ってきたとき目が赤い
・表情全体がこわばっている、固まっている
・全体的に「覇気がない」印象に変わる

ストレス症状としての表情の変化が起きる仕組みは、それなりに解明されています。

うつ状態になると、脳内のドーパミン系の活動が低下し精神運動制止という状態になります。平たくいうと、思考のスピードや身体動作の全体が遅くなる現象で、表情の変化の少なさ・笑顔の減少・動作のゆっくりさとして外部から観察できます。

また、表情の変化を筋電図で測定した研究では、うつ状態の人は笑顔に関係する顔の筋肉の活動が明らかに低下していることがわかっています。つまり、笑っているように見えないのは、表情筋の活動低下が関係しているのです。

周囲が感じる「なんか最近あの人、いつもと違うかも」という直感は、決して気のせいではなく、脳と体に起きている実際の変化を、人間の社会的センサーが察知している可能性が高いと言えます。

しかし、最近のリモートワークの普及、ZoomやTeamsでも顔を出さない企業文化などで、行動・外見・表情の変化に気づく機会が減ってしまってきていることを、産業医としては懸念しています。

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■まずは気になっていることを伝える

そして3つめは「声かけの注意点」です。

このような同僚の変化に気がついたとき、どのように対応するべきでしょうか。実際の声かけはなんと言えばいいのでしょうか。

同僚の“いつもと違う”変化に気がついたら、まずは、「ちょっといい? 最近なんかいつもと違う気がして、どうしたの?」と、声をかけてあげてください。特別な言葉は必要ありません。気がついたこと、気になっているということを伝えてあげてください。

そして、同僚が何か話し始めたら、その話を聞いてあげてください。ただ聞くだけで十分です。求められない限り、私はこう思うとか、こうした方がいいとかは言うべきではありません。気が利いたことを言おうとする必要もありません。

人は、なんらかの不安・ストレス・悩みがあるとき、聞いてもらえば9割の人はラクになります。解決策より先に、まず“聞いてもらえた“という体験が、その人の回復に大きく関係します。ですから、ただただ、頷いて聞いてあげてください。

話を聞いた後、できたら、「今日は話してくれてありがとう。何か私にできることある?」と聞いてみてください。もし「特にない」と言われたら、「よかったらまた話を聞かせてね」と終わりましょう。会社にカウンセリングサービスや産業医等がある場合は、利用したことがある人は、「私もこういうとき使ったことあるよ」と軽く紹介するのもよいかもしれません。

■「病院にいったほうがいい」はNG

注意点ですが、よほど親しい間柄でない限り、「医者に行ったほうがいい」というのはお勧めしません。もし自分が、仲良くない同僚や親しくない上司から、「メンタルクリニックに行った方がいい」と言われたらと想像してみてください。自分が言われて素直に飲み込める間柄であればいいですが、多くの場合、ただの会社の同僚であれば、言わないほうが無難です。

「ちょっと心配、気になっている」くらいの温度感で、まずは話を聞くことが最善です。

もし声をかけた同僚に、「大丈夫(ほっておいてください)」と言われてしまったらどうしたらいいでしょうか。

その場合は、そっとしておきましょう。そして2週間ほど経っても、やはり気になる状態が続いているなら、もう一度だけ声をかけてみてください。「前に声かけた件なんだけど、やっぱりちょっと心配で」と。

それでも「大丈夫」と言われたら、もしあなたが上司であれば、人事や会社の相談窓口に状況を報告・相談することが次のステップです。同僚の立場であれば、共通の上司に相談するかどうかを状況を見ながら判断してください。それ以外の立場なら、自分はこの人を助ける役割ではないと考えるのがいいでしょう。

■迷ったら同僚に相談してみる

最後に、声をかけるべきかわからない、自分一人の判断では不安だ。この人いつもと違うのかな、ストレスを抱えているのかな、と迷うこともあるでしょう。そんなふうに迷った場合は、ぜひ、職場の同僚でその人のことをよく知っている人に、「ねえ、Aさんが最近ちょっと元気がなさそうに見えるんだけど、どう思う?」と、相談してみてください。

同僚も「いつもと違う」と感じる場合は、やはり何らかの変化が起きているはずです。声をかけてあげてください。同僚が「そんなことはない」と言う場合は、もしかすると、あなたの気にしすぎかもしれません。その場合は、2週間ほど様子を見てみましょう。

以上、今月は、同僚がメンタル不調かなと思った時の対応についてお話しさせていただきました。ぜひ、あなたの職場が、周囲を気遣えるやさしい職場、安全網のある職場となることを祈っています。

写真=iStock.com/kokouu
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武神 健之(たけがみ・けんじ)
医師
医学博士、日本医師会認定産業医。一般社団法人日本ストレスチェック協会代表理事。ドイツ銀行グループ、バンク・オブ・アメリカ、BNPパリバ、ムーディーズ、フォルクスワーゲングループ、BMWグループ、エリクソンジャパン、テンプル大学日本校、アドビージャパン、テスラ、S&Pといった大手外資系企業を中心に、年間1000件以上の健康相談やストレス・メンタルヘルス相談を実施。働く人の「こころとからだ」の健康管理を手伝う。2014年6月には、一般社団法人日本ストレスチェック協会を設立し、「不安とストレスに上手に対処するための技術」、「落ち込まないための手法」などを説いている。著書に、『職場のストレスが消える コミュニケーションの教科書』や『不安やストレスに悩まされない人が身につけている7つの習慣』『外資系エリート1万人をみてきた産業医が教える メンタルが強い人の習慣』などがある。働く人のココロとカラダをサポートする無料AIチャット相談サービス「産業医DrT」を運営。
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(医師 武神 健之)