科学誌『Nature』は、海外のIT業界の富裕層の間で「バイオハッキング」への関心が加熱しているという記事を掲載した。

【映像】アンチエイジング治療に年間3億以上使うインフルエンサー(実際の映像)

 バイオハッキングとは、科学的データとテクノロジーを用いて体と脳の機能を最適化し、長寿や若返りを目指すこと。

 同誌によると、免疫抑制剤ラパマイシンの自己投与や若者の血液の輸血など、自らの体を実験台にしてその結果をSNSで発信する人物が登場しており、超富裕層のインフルエンサーたちがそのノウハウを交換し合っているという。ただし、話題となった薬や成分、若返りの方法などには、有効性・安全性が十分に確認されていないものも含まれると指摘されている。

 バイオハッキングは安全なのか危険なのか。そして富裕層だけが若さをお金で買える社会でいいのか。『ABEMA Prime』ではバイオハッキングの可能性とリスクを考えた。

■「本来は過激な医療ではない」

 日本美容内科学会・理事長の青木晃氏は、バイオハッキングの本来の意味について「過激な医療ではなく、自分の体や精神を一つのシステムとして捉えて、的確に検査をして、自分をしっかりモニタリングするで、一番的確なライフスタイルを具現化して健康に生きていこうというのが本来の目的だ」と説明する。

 それがいつの間にか、一部のお金持ちたちによって安全性が担保されていない方法や、科学的な有効性が医学・科学のフィールドで確認されていないところで「暴走気味にやられてしまった」。

 青木氏によるとバイオハッキングは4段階に分類されるという。レベル1は、運動や食事といった生活習慣の最適化で、「あまりお金もかからず、まっとうなレベルの生活習慣の改善だ」。

 レベル2になると、Apple Watchなどのウェアラブル端末を活用して睡眠ログや活動量、心拍数、さらには持続的な血糖値モニタリングなどを行い、自分に足りないライフスタイルの変革を踏み込んで実践するものとなる。

 レベル3は、医療機関でのメトフォルミン(糖尿病薬)の活用や、話題のサプリメントであるNMN、老化細胞を除去するセノリティクス、幹細胞治療、エクソソームを用いた点滴や化粧品などが含まれる。「この領域はまだちゃんとしたエビデンスが確立されているわけではないが、学問的にはだいぶ確立した分野になってきている。だから一生懸命臨床をしっかりやってエビデンスを積み上げているところだ」と青木氏は語る。

■レベル4の危険性「FDAもNIHも『やめろ』と声を大にして言っている」

 問題とされるのがレベル4だ。青木氏は「過激ないわゆるDo It Yourself、要するに自分で人体実験してしまうというものだ」と説明する。

 シリコンバレーの著名なバイオハッカーであるブライアン・ジョンソン氏らが実践しているとして取り上げられた若者の血液輸血については、「ネズミでは若いネズミと年老いたネズミの血管系をつなぐと年老いたネズミが若返るという実験が成り立っていて、それが一躍科学的なアンチエイジング研究としてブレイクした。しかし人ではそれが全然できなかった。感染の問題もあるし免疫の問題もあり非常に危ない。だからFDAやアメリカのNIHが『やめろ』と声を大にして言っている」と述べる。

 自己遺伝子改変についても「サプリメントなら飲むのをやめれば終わりだが、遺伝子をいじってしまったらがん化の問題もあるし、まだ研究段階で落ち着いていないのにこれをやっている人がアメリカにいる」と警告する。免疫抑制薬ラパマイシンの自己投与や成長ホルモンの注射についても、「ホルモンの専門家からすると糖尿病が増えたりがんが増えたりということで非常に問題になっている。エビデンスベースも安全性も確立していない段階で勝手に飛びついてガンガンやるというのがレベル4だ」と語る。

 青木氏はさらに、アンチエイジング医療の根本的な課題を指摘する。「どこがいわゆるエンドポイントになるか、すなわちそれをやったから本当に長生きをするかというのがアンチエイジングのエンドポイントだ。しかしそれはまだ何も出ていない。今明らかに分かっていることはビタミンDを取るとか、オメガ3系の不飽和脂肪酸を取るとか、運動がいいということくらいで、それ以外のことは意外に何も分かっていない」。

■「アンチエイジングの究極は、90歳まで自分の足で歩けること」

 青木氏はアンチエイジングという言葉の本質についてもこう語る。「アンチエイジングはルッキズム、要するに外見の若返りと考えている方が多いが、本当は健康長寿のための予防医学だ。本当のアンチエイジングは、90歳まで自分の足で歩けて、自分の頭で考えられて、自分の口でおいしくものが食べられることがアンチエイジングの究極だ」。一部の富裕層が目指す120歳や140歳まで生きるという目標とは、方向性が異なると強調する。

 また「若返りではなく、老化のスピードをゆっくりにするとか、病的な老化を予防するのがアンチエイジング医学の目的だ。その結果、体に良いことをやっていると外側も綺麗だというのが一番いい。実は安価なことで十分アンチエイジングはできる」とも述べる。

 これに対し、アンチエイジング歴10年、美容医療などに700万円を自己投資してきた丸山悠美氏は自身の経験を踏まえてこう語る。「最初は美容医療やそういった医学的なものがアンチエイジングだと思って取り組んでいたが、細胞は急に若返ったりはしないし、やはり元の遺伝子にすごく左右される。逆に食事法や運動といったところは体の改善がすごく見られるので、予防という意味のアンチエイジングにはすごく賛成だ」。

 若くあり続けることへの意識については、「40を過ぎてからは若くないといけないという感覚はちょっと薄れてきた。無理に長く生きたいとかもなく、老化を理由に一部は諦めるというか、その年齢をちょっとでも伸ばしたいという感覚だ」と明かした。一方で「女性として消費されている感覚があった頃は、若くないといけないと思っていた」とも振り返る。

 青木氏は医師としての役割について、「運動と栄養と睡眠というのを必ず基本にしている。ヒアルロン酸を出してくれとかボトックスをやってくれとか、あるいは点滴を打ってくれとか、そういうのは『あなたの年齢では必要ないよ』とちゃんと言ってあげられる医者が本当の医者だと思う」。

(『ABEMA Prime』より)