「モンスター社員」のSNS炎上も横領も「総合保険だけ」では守り切れない?企業保険の《盲点》とは

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従業員のSNS投稿が、企業の信用を揺るがすケースが相次いでいる。

例えば、2025年3月にはソフトウェアテスト大手のSHIFTが、従業員によるX上での不適切投稿を謝罪した。

さらに2026年4月には、西日本シティ銀行の女性行員が営業店の執務室内を撮影した動画や画像をSNSに投稿し、顧客情報の映り込みが問題になった。追加調査では、個人顧客8名に関する情報と、法人顧客19社の名称が外部から閲覧できる状態だったことも判明している。

しかも、SNS炎上の影響はネット上の批判だけでは済まない。

2025年の民間調査では、従業員の不適切投稿による炎上を見聞きした人のうち、半数以上がその企業の商品購入を「やめる、あるいはやめる可能性が高い」と回答した。消費者の9割弱が、購買をためらう可能性を示したともされる。

問題が起きれば、投稿削除、事実確認、謝罪、問い合わせ対応、再発防止策の策定などが一気に押し寄せる。内容によっては、損害賠償や監督官庁への報告、取引先への説明が必要になることもあるのだ。

「総合保険に入っているから安心」ではない

企業向けのリスク対策として、パッケージ型の総合保険に加入している会社は少なくない。そのため、「総合保険に入っているから、社員のトラブルも守られているはず」と考える経営者もいる。

では、企業向け保険に加入していれば、こうした財務的なダメージをすべて避けられるのだろうか。法人向け損害保険に詳しいプロフェッショナル・カムイ株式会社の片山美典代表取締役は、企業側の認識には大きな落とし穴があると指摘する。

最大の勘違いは、『総合的な企業保険に入っていれば、社員のトラブルも丸ごと補償される』と思い込んでしまうことです。SNS炎上、情報漏洩、横領を一つの商品で完全にカバーするのは、実務上かなり難しいです。自社のリスクに合わせて、複数の保険を組み合わせる必要がありますね」(片山氏、以下「」も)

社員に関わるリスクといっても、その中身は一つではない。SNS炎上、個人情報漏洩、横領。いずれも会社に損害を与えるが、保険の世界では別々のリスクとして扱われるとか。

他にも、情報資産に対する攻撃や漏洩、金銭に対する内部不正。また、会社の信用や対人賠償に関わるレピュテーションリスク。それぞれ被害の性質が違うため、対応する保険商品や特約も分かれている。

つまり、保険は「とりあえず何かに入っておけば安心」というものではない。自社でどんなトラブルが起こりうるのかを整理し、それぞれに合った補償を組み合わせておく必要がある。とりわけ、炎上対応や損害賠償に十分な資金を割きにくい中小企業ほど、平時の備えが重要になるのだ。

実は保険で守れるのは“火消し”まで

SNS炎上が起きたとき、企業にはさまざまな費用が発生する。炎上のモニタリング費用、危機管理コンサルティング費用、謝罪広告の掲載費用、問い合わせ対応のためのコールセンター設置費用。被害者や取引先への説明、社内調査にも人員と時間がかかる。

一方で、炎上によって失った信用や売上の減少まで、保険で丸ごと回収できるわけではない。

若手社員の不適切なSNS投稿で炎上が起きた場合、「ネット炎上対応費用保険」や、サイバー保険に付帯する「レピュテーション特約」、企業総合賠償責任保険の「人格権侵害特約」などが検討対象になることがある。ただし、補償されやすいのは、主に初動対応や火消しにかかる費用だ。

補償されやすいのは、炎上の拡散を防ぐためのコンサルティング費用、謝罪広告の掲載費用、苦情対応のためのコールセンター設置費用などです。一方で、信用低下による売上減少は、金額の算定が難しいため、補償の対象にはなりにくいのが実情です

問題を起こした社員の懲戒手続きや再発防止研修、社内システムの改善費用なども、企業自身のための支出と見なされることが多い。加えて投稿行為が故意と判断されれば、免責になる可能性もある。

どこまで補償されるのか。平時に線引きを確認しているかどうかが、いざという時の明暗を分けるのだ。

「入っている保険が使えない」意外な理由

社員不祥事と聞くと、SNS炎上や個人情報漏洩を思い浮かべる人は多いかもしれないが、企業に深刻な損害を与える内部リスクはそれだけではない。

コンプライアンス違反による企業倒産の動向を見ると、粉飾決算や資金使途不正などの内部要因は依然として目立つ。帝国データバンクの2025年調査では、負債額上位20社のうち、半数近い9社がコンプライアンス違反倒産だったとされる(※)。

コンプライアンス違反倒産および負債額上位企業に関する記述は、帝国データバンクのコンプライアンス違反企業の倒産動向に関する調査を参照

情報漏洩に備えて、サイバー保険や個人情報漏洩賠償責任保険を導入する企業が増えているが、顧客情報を無断で持ち出したケースと、社員が会社の資金を着服したケースでは、適用される保険が変わる。

情報事故なのか、はたまた金銭被害なのか。保険上はそこが大きな分かれ目になる。

社員による金銭の着服や横領は、サイバー保険の本体では補償されません。『サイバークライム特約』といったものもありますが、基本的には外部からの送金詐取に対応するものです。内部の社員による横領をカバーするには、『身元信用保険』や『従業員不誠実行為補償』を別建てで考える必要があります

逆に、情報漏洩事件では、漏洩の原因や被害範囲を調べるフォレンジック調査費用、見舞金、コールセンター設置費用などが発生する。

だが、こうした費用は身元信用保険の側ではカバーされない。守備範囲を理解していなければ、いざという時に「入っているはずなのに使えない」という事態になりかねないのだ。

社員の不祥事は「情報・金銭・信用」の三層で備えよ

複雑化する経営環境の中で、一つの商品だけですべてのリスクを網羅することは難しい。

そこで、まず必要になるのは、コンプライアンス研修や社内規程の整備による土台作りだ。そのうえで、情報漏洩や初動対応費用に備えるサイバー保険を検討する。

さらに、社員の横領や着服に備えるなら、身元信用保険や従業員不誠実行為補償を加える。役員責任や労務関連のリスクは、別の保険で考える必要がある。

まずはコンプライアンス研修で、社員全体の危機管理意識を高める土台作りが必要です。そのうえで、情報漏洩と初動費用を広く補償するサイバー保険を中心に据える。さらに、金銭被害を補償する身元信用保険を加え、役員責任や労務関連の保険を別建てで考える。情報・金銭・信用を分けて防衛網を敷くことが大切です

保険商品によって補償範囲は大きく異なる。社員の重過失や内部不正をどこまで扱うのか、レピュテーション費用が標準補償なのか特約なのか、制裁金が対象になるのか。商品改定で条件が変わることもある。

そのため、契約前には最新版の約款を代理店と読み合わせ、自社の想定リスクが本当にカバーされるかを確認しておく必要がある。

保険は、事故が起きた後の財務的な防衛網にはなるが、炎上そのものを止めることはできない。保険で損害に備えても、現場の従業員が危ない行動の手前で立ち止まれなければ、同じリスクは繰り返される。

では、なぜコンプライアンス教育は現場に浸透しないのか。そして、SNS問題を起こしがちな若手社員はなぜ、自分の投稿が会社の信用を左右するという実感を持ちにくいのか。

後編『Z世代が「会社の信用」を軽く見てしまう《本当の理由》』では、行動科学の視点から、その心理と職場の空気を見ていく。

【つづきを読む】Z世代が「会社の信用」を軽く見てしまう《本当の理由》