【A4studio】アメリカで「くら寿司」人気が止まらない…店舗数急増も「寿司ブームはいつまで続くか」重大な懸念があった
5月14日、米政府倫理局(OGE)の発表で、アメリカのトランプ大統領が、回転寿司チェーン「くら寿司」の米国子会社「くら寿司USA(Kura Sushi USA)」の株を大量に購入していたことが明らかになった。その購入額は約100万ドル〜500万ドル、日本円でおよそ1.6億円〜8億円にもおよぶ。くら寿司は2019年に日系の外食企業で初めてアメリカのナスダック市場に上場している。
日本国内の回転寿司チェーンにおいては、売上高1位の「スシロー」に続いて、2位となっているくら寿司だが、近年はアメリカでの店舗展開に力を入れており、順調に店舗数を伸ばしている。なぜくら寿司はアメリカで人気を集めているのか。くら寿司ならではのアメリカ戦略について、ニューヨークを拠点に活動するフリージャーナリストの谷中太郎氏に解説していただいた。(以下「」内は、谷中氏のコメント)
記事前編は【トランプ大統領が「くら寿司USA」株を大量購入…アメリカで過去最大の「寿司ブーム」が起きているワケ】から。
アメリカにおけるくら寿司の立ち位置
くら寿司は日本においては大手回転寿司チェーンとして確固たる地位を築いているが、アメリカの外食産業においてはどういった立ち位置なのか。
「アメリカでは、マクドナルドやタコベルといった安価で手軽に食べることができる業態であるファストフード、そしてファストフードよりもサービスが充実している、日本で言うファミレスのような中価格帯のレストランであるカジュアルダイニングという業態が、主な外食産業の市場として挙げられるでしょう。基本的にファストフードは低所得者をターゲットにしており、カジュアルダイニングは低所得者〜中所得者までをターゲットにしています。
アメリカの外食産業の中でも非常にターゲットが広いのがカジュアルダイニングなのですが、くら寿司はアメリカではこのカジュアルダイニングに分類されているんです。カジュアルダイニングはロードサイドに大型店舗を出店したり、ショッピングモールといった商業施設内に出店したりする傾向があり、くら寿司に関してもその特徴がみられます」
アメリカのカジュアルダイニングでは、ボリューム満点の肉料理やハンバーガー、パスタといったアメリカの伝統的な食事が楽しめる店舗が多く、代表的なチェーンとしては、日本を含む世界各国で展開する「TGI FRIDAYS(ティージーアイ・フライデーズ)」や「Outback Steakhouse(アウトバック・ステーキハウス)」、「Hooters(フーターズ)」などが挙げられる。
そんななかくら寿司は、日本ならではの寿司という食文化を武器に、現地人たちの外食の選択肢に新しい風をもたらし、心を掴んでいるのだという。
また“寿司が回転する”というエンタメ性も、いまではキャッチーに受け取られ、子どもから大人まで家族そろって楽しめる場として人気となっているそうだ。
「寿司ブームがいつまで続くか」という懸念
いままさに波に乗っているくら寿司だが、谷中氏はこんな懸念について指摘する。
「実はくら寿司はカジュアルダイニングのなかでは価格帯が少々高めとなっています。コロナ禍でカジュアルダイニングは軒並み大打撃を受け、大手のカジュアルダイニングチェーンでさえ倒産が相次いだ背景から、アフターコロナで多くのカジュアルダイニングは、なんとかコストを削りつつ、ファストフードの価格帯と同程度になるくらいまで商品の値下げを行ったんです。
現在のカジュアルダイニングには、チップ代別でワンプレート15ドル(約2400円)ほどのメニューもあります。これはファストフード店とさほど変わらない予算感なんです」
こうした値下げ戦略によりカジュアルダイニングは、アメリカの低所得者層を多く取り込みながら徐々に売上を回復していったという。
「そんなカジュアルダイニング全体が価格帯を下げる傾向にあるなか、くら寿司は昨今の寿司ブームの影響もあって、価格帯をそこまで下げずとも成功しています。ここで懸念として出てくるのが、“この寿司ブームがいつまで続くのか”というところ。現地でこのまま回転寿司が広まり定着したとしても、消費者の“飽き”は必ずと言っていいほど何かしらの形で表れるでしょうから、そうなるといまの価格帯では競合のカジュアルダイニングと勝負できなくなっていく可能性があるのです」
ちなみにアメリカでは現在寿司店の形は多岐にわたるとのことで、例えば日本人職人が一貫ずつ握って提供するような高級寿司店の場合、予算はおよそ8万円〜16万円に及ぶこともあるというが、日本人以外が経営するカジュアルな寿司店だと5000円〜1万円ほど。そしてくら寿司は、寿司メニューが一皿3.75ドル(約600円)となっているため、1人あたりの予算は約2400円〜4600円ほどと、ほかの寿司店よりは比較的安価だといえる。
ただ谷中氏が指摘するように、カジュアルダイニングの枠組みのなかで見ると、くら寿司の価格は高めであるため、寿司ブーム自体が定着して人気を維持できるか、それとも盛り下がってしまうかが、当然ながらくら寿司にとっても分水嶺となりそうだ。
スシローがアメリカで定着しなかったワケ
また日本国内では1位の座に輝いている「スシロー」も、今年の秋にニューヨークのマンハッタンに1号店をオープンする。
実はスシローは2015年に一度アメリカへ進出したが、業績が思うように伸びず、翌年に撤退。スシローもくら寿司と同じく回転寿司形式を売りに当初進出したが、なぜスシローはアメリカで定着しなかったのか。
「タイミングが悪かったということと、資金力の面で余力がなかったことがスシロー撤退の背景にあると考えられます。現在の寿司人気はコロナ禍以降に急速に高まっていったため、それ以前の2015年に進出したということで、当時はまだ回転寿司というスタイルが受け入れられにくい状態だったといえます。
また資金力に関しては、くら寿司のようにアメリカ国内で上場していなかったという事情があり、出店のペースを加速してなるべく多くの店舗を展開することで利益を追求するという経営スタイルを実行できなかったことが、大きな敗因だったのではないでしょうか」
寿司人気の高まりから、今回再上陸を果たすスシローに関しても「順調に伸びていくのではないか」と予想する谷中氏。今後は“くら寿司 vs. スシロー”といった日系企業同士の戦いも展開されていきそうだ。
リスクを恐れない大量出店が成功のカギ
また、くら寿司がアメリカでさらなる成功をするためには、なるべく多くの店舗をすばやく出店するという“出店力”が重要だと谷中氏は言う。
「アメリカの場合国土が広いぶん、一気に数十店舗を展開し、1年間あたり100店舗ペースで増やしていかないとなかなか利益を上げられないというのが、アメリカ式の経営における常識です。だからこそ上場して資金力をまずつけること、そして出店を増やして企業としてのブランド価値を高め、より資金を集めていくといった方法が鉄則となります。
くら寿司は中長期目標で300店舗展開を掲げていますが、リスクを恐れずに素早く、なるべく多く出店することがアメリカでの成功のカギとなるでしょう。また食のブームというのは、まさに生き物のように移り変わりが激しいので、現在の寿司ブームが続いている間に、いかに自社のブランド力を高めていけるかが勝負だといえるのではないでしょうか」
――トランプ大統領がくら寿司株を大量に購入したということは、私たち日本人が思う以上に、アメリカでの寿司人気が進んでいる証拠なのかもしれない。くら寿司はじめ日本の回転寿司チェーンが今後アメリカでどういった展開を見せるのか、引き続き注目していきたい。
(取材・文=瑠璃光丸凪/A4studio)
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