11月24日に東武鉄道が発表した新東京タワーのイメージイラスト(提供:東武鉄道)

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地上波放送がデジタル方式(地デジ)に完全移行する、2011年に完成予定の新東京タワー。新タワーの建設地に決まった墨田区が誘致を行ったのは、高度成長期に同区の財政を支えた製造業の地方や海外への流出に危機感を抱いたからだ。製造業に加え、観光を中心産業として育成していく方針を打ち出した同区は、05年2月に東武鉄道とともに新タワー誘致に名乗りを挙げる。候補地はさいたま新都心など15にのぼったが、06年3月には建設地の座を勝ち取った。

 建設地に決定した理由の一つとして、事業主体と建設用地が明確であったことが挙げられる。同区は04年11月に、山崎昇区長が区議会本会議で誘致の意思表明を行い、同年12月には同区と地元関係者が東武へ協力要請を行った。06年3月の決定後、東武は資本金4億円を全額出資する事業会社「新東京タワー」を東武本社内に設立。同社は現在、放送事業者との協議の窓口となり、新タワー事業の計画策定を行っている。

なぜ東武が名乗りを上げたか

 ここ数年東京で行われた再開発は、六本木や汐留、表参道など西部の街がほとんど。一方、浅草をはじめとする東部の街を見ると、大規模な再開発とは縁遠い状況だ。新宿や渋谷も合わせると、街の勢いは「西高東低」と言える。

 東京東部と関東北部が営業基盤の東武では、この状況に危機感を持っていた。東武に限らず、鉄道の通学定期客は少子化により減少しているため、各社は沿線の観光地などを活用して、いかに定期以外の乗客を増やすかに腐心している。

 「東京の都市軸が次第に西南方向へ移っていることに大きな懸念を抱いていたが、(東方向に)引き戻すことなど、とても東武一社の手に負えない」。11月に開かれた地元関係者向けシンポジウムの席上、新東京タワーの宮杉欣也社長は、新タワー建設を契機に、地元と一丸となって「西高東低」を是正したい意向を示した。

 同社は新タワーの年間来場者数を、初年度540万人、開業後30年平均を270万人と見込む。仮に540万人のうち200万人の大人が、定期外で浅草駅と最寄りの業平橋駅の間を往復で乗車した場合、運賃の合計額は5億6000万円。500億円と見込まれるタワーの建設費は、展望台の収入や放送事業者からの施設利用料で回収できるとしており、東武にとって定期外客の増加は、増収につながる可能性が高い。また、オフィスビルを併設する計画なので、定期券利用者の増加も見込める。

起爆剤で"爆発"するか

 墨田区は9月、新タワー建設地と周辺地域の計35万平方メートルの将来都市像を描いた「まちづくりグランドデザイン」をまとめた。新タワーを起爆剤に同区を観光都市に変ぼうさせるための将来図だ。

 現在、建設地周辺は防災面で不安な地域が多い。道路の道幅が狭く、老朽化した木造家屋が密集する地域もある。同区では下町情緒を残しながら、道路整備や建物の不燃化促進などを行う方針だ。また、建設地沿いを流れる北十間川の整備など、地域の特性を生かしたまちづくりを行っていく。

 このほか、同区ゆかりの浮世絵画家・葛飾北斎の作品や資料を展示する「北斎館」を区内に建設する計画があり、グランドデザインの対象地域以外でも観光面でてこ入れが行われる。

誰のために建てるのか

 山崎昇・墨田区長は、同区のみならず東京東部全体の活性化を掲げて新タワー誘致を行った。7月からは隣接する区の観光担当が定期的に集まり、連携を模索している。

 また、山崎区長は5月に行われた早稲田大学の学生との討論会で、良い街の条件として実際に居住している人数を示す「夜間人口」が多いことを挙げた。新タワーで「住みたい街」としての地位も向上させたいようだ。

 企業や行政はそれぞれの思惑で新タワーの誘致を行った。いまのところ、両者が地元へ行う説明を聞く限り、単なる観光地づくりで終わらず、恒久的なまちづくりを目指すようだ。しかし、これを実現するには、多くの住民が企業や行政に対し、賛成・反対を含む明確な意思表示を行っていくことが重要だろう。街の主役は企業でも行政でもない。その街に住む人なのだから。【了】

■特集・新東京タワー 夢と現実の狭間で
第2回 新タワーより高い上海ヒルズ展望台(12/1)
第1回 台北101と新タワーを比較する(11/30)

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■関連リンク
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