MacBook Pro"実質値下げ"高まったお買い得感
MacBook ProはM4/M4 Pro/M4 Maxの3種類のチップセットが搭載され、それぞれかなり性能差が大きい。今回はもっともリーズナブルなM4搭載機をレビューした(筆者撮影)
アップルは10月28日から30日の深夜(日本時間)、3夜連続で発表を行った。1夜目がApple Intelligenceローンチ(アメリカ英語のみ)と、M4チップとiMac。2夜目がM4 Proチップと、M4/M4 Pro搭載のオールニューMac mini。3夜目がM4 MaxチップとM4/M4 Pro/M4 Max搭載のMacBook Pro 14/16インチだ。ここでは、その中から、一番ユーザーが多いであろう無印M4チップ搭載のMacBook Proを、明日11月8日の発売に先駆けて、実機に基づいてご紹介しよう。
Apple Intelligenceで性能底上げ
今回の3夜連続で発表された製品を理解するために、知っておくと良いことがいくつかある。
まず、これらの製品は、アップルのこれからの製品展開を支えるApple Intelligenceの活用を前提に設計されているということ。だから、生成AIをローカルで高速で動作させることができるNeural Engine(生成AI高速化のための専用回路)の性能アップが著しい。これらのモデルから搭載される最低限のユニファイドメモリが16GBに底上げされたということは知っておきたい。
MacBook Proに搭載されるM4/M4 Pro/M4 Maxは、現在世界でもっとも集積度の高い3nmプロセスで、台湾のTSMCにおいて生産される(写真:アップル)
もう1つ知っておきたいのは、搭載されるM4シリーズチップが、台湾のTSMCの工場で生産される、現在圧倒的に他社を引き離して集積密度の高い3nmプロセスで製造される第2世代のチップだということだ。
これまでの経緯を見ていると、プロセスルールが高密度化された第1世代は、精密ではあるがその集積度を生かし切れていないことが多く(もしくは、性能をわざと上げ切らないのかもしれないが)、第2世代にググッとベンチマークの性能が上がることが多い。 M4はその世代(iPhoneでいえば、16 Proに搭載されたA18 Proと同世代)のチップセットだ。性能向上が期待できる。
これらの2点から考えて、今回のM4アップデートは幅が大きく、特に無印M4のお買い得感が高くなっている。
今回発表された最新型のMacは、アップルの生成AIであるApple Intelligenceの活用が前提となっている(写真:アップル)
従来のMacBook Pro最下位モデルと違う
これまで、MacBook Proの最下位モデルは、あまりお勧めできない製品であることが多かった。
特に13インチのThunderbolt×2ポートだった時代は、MacBook ProのボディにMacBook Airを入れた(が価格は少し高い)ような商品だったので、「名ばかり」なProだった時代が長かった。
一番廉価なM4搭載モデルにも、右側のThunderbolt 4ポートが設けられ、Thunderbolt 4×3ポートになった(筆者撮影)
しかし、今回のMacBook Pro M4は違う。
M4プロセッサーの高性能化と、Apple Intelligence導入に伴う仕様の底上げによって、非常にお買い得なモデルになっているのだ。
無印M4でもAIに強い性能
Intel CPUを使っていた時代だと、下位モデルは本当に性能が低く、解像度の高い動画の編集や、3Dグラフィックスを扱うような仕事だと、コマ落ちが発生したり、待たされたりすることが多かった。
しかし、Mシリーズチップ世代になってから、性能向上は著しく、たとえ初代のM1でも一般的な人が使うレベルであれば、ストレスを感じたり、待たされたりすることはなくなった。またバッテリーの消費も少なく、発熱も少ない。
これまでベンチマークを取り続けてきたところ、Apple Siliconは1世代で15〜20%性能が向上する。間をとって世代ごとに17.5%性能が向上してきたとすれば、3世代で性能は1.62倍になるということになる。これは、計測データとおおよそ合致する性能だ。
つまり、M4世代は、M1世代のおよそ1.6倍の性能を持つということだから、これはかなりの性能向上であることがおわかりいただけると思う。
Geekbench 6で計測した。M1でも十分に速かったものだがM4は圧倒的に速い。M3と比べても17〜31%も高速だ(筆者作表)
それだけではない、アップルはApple Intelligenceの導入を決めてから(ハードウェアの性能に影響しているのはM3世代以降と思われる)、Neural Engineの大幅な増強を図っている。
そのことは、ベンチマークでも明らかで、Geekbench AIで計測したところ、MacBook Pro M4のNeural Engine性能は、MacBook Air M1のそれの、約1.46〜3.15倍の数値を叩き出す。これは、今後増大していくApple Intelligenceでの処理に大きな影響を及ぼす話だろう。
Geekbench AIで計測した。AI利用を前提としていなかったM1と比べると量子化のスコアが約3.15倍、単精度が約1.46倍、半精度が約2.21倍に向上している。全体として、デバイス単体で画像認識、動画解析、音声処理など、ざっくりとしたデータを扱うのに特化してきているといえそうだ(筆者作表)
前述した通り、今回発表されたモデルから、ユニファイドメモリの最低搭載量が16GBからになっている。おそらく、Apple Intelligenceでメモリも消費するのだろう。従来やっていた作業を問題なくこなしながら、Apple Intelligenceも動かすために、メモリ搭載量を増やしたのではないかと推測できる。
同価格でもさまざまな機能追加
アメリカでは、この「一番安いMacBook Pro」の価格は長らく1599ドル。そして今回、円安の進行が止まっているため、円ベースの価格も前回と同じく24万8800円となっている。
全モデルと価格は同じなわけだが、実は底上げされているのはメモリだけではない。
値上げができないからと、価格は同じまま牛乳が1Lから900mLに量が減らされているようなことを「ステルス値上げ」と言うが、それに倣えば今回のMacBook Pro M4は「ステルス値下げ」といってもいい。
最安モデルのチップセットのCPUは前モデルのM3では高性能コア4、高効率コア4の8コアだったが、M4では高性能コア4、高効率コア6の10コアになっている。メモリの搭載量は最低で8GBから16GBになったが、最大搭載量も24GBから32GBに上がっている。
パフォーマンスは向上しているのに、高効率コアが増やされたせいか、最大駆動時間は22時間から24時間になった。バッテリー駆動で24時間も動作するのだ。あきれるほど長い。1日8時間労働で使うなら、3日も電源につながなくてもいいのだ。今回そんなに長い時間駆動させる余裕はなかったが、バッテリーの減り具合からしてもこれは誇大表現ではない。2時間や3時間使ったぐらいでは「減らない」と感じるほどバッテリーの持ちはいい。
外見はまったく変わらないが、特に最下位モデルである無印M4は大幅な性能向上、機能追加が行われている(撮影筆者)
さらに、カメラは1080pから1200万画素の超広角カメラになった。この超広角カメラは、iPhoneの0.5倍と同じ画角を持っているけれど、FaceTimeなどではその一部をトリミングして使う仕組み。話者が動いても自動的に追従するようにフレーミングする「センターフレーム」機能を持つ。
つまり1200万画素を常時使っているわけではないが、それでも従来モデルより美しい画像を提供できる。アップル製品の、写真・動画の安定したクオリティはご存知の通りで、一般的なWindowsパソコンよりかなり画質は良い。アップル製品を使う人とビデオ会議をすれば、そのクオリティはわかるはずだ。
ポート数減るもディスプレイは2枚接続可能
筆者が一番注目したのは、コネクターの拡張性の向上だ。
M4 Pro/Max搭載機のようなThunderbolt 5の搭載はなかったものの、それでもThunderbolt 4ポートが2→3ポートに増加したメリットは大きい。右側にポートがあることも利点だ。
さらに、従来の無印M3はMacBook Airと同様、外部ディスプレイを1枚しか接続できなかったが、無印M4はM3 Proと同様に6K解像度までのディスプレイを最大2台接続できる。この拡張性の確保に魅力を感じる人が多いのではないだろうか?
5KのStudio Displayを接続してみた。本機はこれより大きな6Kのディスプレイを2台まで接続することができる(筆者撮影)
「クラスダウン」を検討する余地もある
総じて「無印M4」は、さまざまな制限を解除され、従来のM3 Pro搭載MacBook Proに匹敵する拡張性や機能を与えられている。
接続性のために、コネクターの数や接続できるディスプレイの数の面で「M3 Pro」搭載機を買わなければいけなかった人でも、今回は「クラスダウン」して、「無印M4」でも業務に対応できる可能性がある。
もちろん、純粋なCPU/GPUの性能を必要とする人であれば、M4 Pro、M4 Max搭載機が必要だろうけれど、一定数「今回は無印M4でいい」という人はいると思う。
であれば、今回はある意味値下げだし、珍しく「クラスダウン」を推奨できるマシンであるともいえる。
価格差はそれなりにあるので、ぜひ「無印M4」も射程に入れて検討してみていただきたい。
(村上 タクタ : 編集者・ライター)