【荻原 博子】マイナ保険証のせいで「死亡事例」まで…12月から起こる「医療機関パニック」最悪のシナリオ

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診療が受けられずに…

12月2日、約60年間、医療制度の軸としてはたらきつづけた「保険証」が廃止され、代わりに「マイナ保険証」が使われることになった。

病院の窓口で「マイナ保険証」を使っている人は7人中1人(9月現在13.87%)。7人に6人は従来の「保険証」を使っているにもかかわらず、それをいよいよ廃止するというのは、多数意見に沿うべき民主主義国と言えるのか。

実は、こうした暴挙に対し、自治体の現場からは「静かな反乱」が起き始めている。12月以降はいわば「裏保険証」の活用が増えていきそうだ。

これまで自治体は、1枚のカードを「保険証」として、被保険者すべてに配ってきた。だが「保険証」が廃止されると、「マイナ保険証」が無い人全員に「資格確認書」が、「マイナ保険証」を持っている人には「資格情報のお知らせ」が全員に配られる。

なぜ「マイナ保険証」を持つ人全員に「資格情報のお知らせ」が配られるのかと言えば、いまだに「マイナ保険証」のトラブルが絶えないからだ。

全国保険医団体連合会の調べでは、今年5月以降で「マイナ保険証」や「オンライン資格確認」のトラブル・不具合があったと答えた医療機関は7割。医療機関1万2700中8929にトラブルや不具合があった。

平正明デジタル大臣は、「マイナ保険証の取り扱いに慣れればトラブルも減る」というが、トラブルの半数以上は「資格情報が無効」「カードリーダーの接続不良・認証エラー」「該当被保険者番号がない」などという、慣れでは解消されない制度の根幹に関わるものだ。

こうしたトラブルで診療が受けられないまま帰宅した人が、心筋梗塞で亡くなるという死亡事例まで出ている。

役所の作業が膨大に

こうしたトラブル対応として、「マイナ保険証」を持つ全員に「資格情報のお知らせ」が配られ、「マイナ保険証」が使えなくても診療が受けられるようにするのだ。

ところが、「資格確認書」と「資格情報のお知らせ」という2種類の紙のカードを全員に出すことは、ただでさえ忙しい自治体の負担を大幅に増やすことになる。

なぜ、カードが2枚だと自治体の作業量が膨大になるのかと言えば、今まですべての人に「保険証」という1枚のカードを出せば良かったのだが、廃止後は「マイナ保険証」を持っている人と持っていない人を正確に分けなくてはいけないからだ。

この仕分けは、簡単にはではできない。

「マイナ保険証」を返納したけれど保険証登録が削除されていない人や、本人は持っているつもりでも電子証明の有効期限が切れている人、カードを紛失したまま届け出ていない人、「マイナ保険証」を申請中だがまだ手元に届いていない個々人の事情を確認しながら、その上で、「資格情報のお知らせ」と「資格確認書」の2種類を分けて発送する必要がある。

もし間違って発送してしまったら、これは役所の責任になる。

ところが、財政難に加えて人手不足の自治体では、そのために人を割くことは困難。

そこで、苦肉の策として「資格確認書」と「資格情報のお知らせ」の2種類を出すのをあきらめ、すべての人に「資格確認書」を配布することを決める自治体が出てきている。しかも、「資格確認書」の有効期限が切れる前に、新しい「資格確認書」を手元に送ることを決めているところもある。

これなら、従来の「保険証」を送る手続きと変わらず、間違いなくすべての人に有効期限が切れる前にカードが手元に届くことになる。

しかも、「資格確認書」も「保険証」も書面に書いてある内容はほとんど同じなので、利用者にとっては「保険証」が廃止されても、「資格確認書」が「裏保険証」になる。

「裏保険証」の登場

すでに、経費も安くリスクも少ない「裏保険証」を出すことを決めている自治体は多い。

東京では、新宿区、世田谷区などが、被保険者全員に「資格保険証」だけを出すことをことに決めているが、他の区も、「国民健康保険証」の有効期限が切れる来年9月末までに、同様の方向で統一されてくことだろう。

京都では、久御山町、宇治田原町、傘沖町などがすべての被保険者に「裏保険証」とも言える「資格確認書」を送ることを決めている。財政が逼迫して人手がない自治体は多く、こうしたところにも「裏保険証」は広まっていくことになるはずだ。

しかも、自治体の中には、券面まで「保険証」とほぼ同じというところもある。

図は川崎市が、11月下旬に送るはずだった「資格確認書」を、誤って10月に送付したものだが、現行の「保険証」と比べてみると、違うのはタイトル(赤丸部分)だけ。

現行の保険証には「被保険者証」と書かれており、新たに発行されるものには「資格確認書」とあるが、それ以外は内容からデザインまでまったく同じ。おそらくこれを送られた人は、「新しい保険証が来た」としか思わないだろう。

自治体にとっては、「保険証」が廃止されても「裏保険証」があれば、事務作業は楽になるが、「裏保険証」が今後どんどん増えて行くと予想される背景には、もう1つの大きな理由がある。それは、この先「マイナ保険証の2025年問題」といわれる大きな壁が待ち受けているからだ。

後編記事『いきなり「無保険」になって全国民が大パニック…?マイナ保険証「2025年問題」のヤバすぎる全容』へ続く。

いきなり「無保険」になって全国民が大パニック…?マイナ保険証「2025年問題」のヤバすぎる全容