「頭を力任せに踏み潰され…」「仲間を無理やり生き埋めに…」ホームレス取材歴20年超の男が明かす、凄惨な殺人事件の「ゾッとする裏側」
厚生労働省が今年1月に実施した「ホームレスの実態に関する全国調査」によると、ホームレスの数が最も多かったのは大阪府で、856人だったという。
その大阪で2014年夏、凄惨な事件が明るみになった。窃盗の罪で逮捕されたホームレスが、10年前に仲間のホームレスを生き埋めにしたと自白したのだ。警察による捜索の結果、枚方市の淀川河川敷の地中から白骨化した男性の遺体が見つかった。
ホームレス取材歴20年以上のルポライターで『人怖3 人を恐怖で染める日常の狂乱』著者・村田らむ氏は、この事件が発覚する前に現場を訪れ、当時背筋が凍る経験をしていた。村田氏が知った、ホームレス生き埋め事件のウラ側とは――。
火をつけて笑う子供たち
「ホームレスに怖い人はほとんどいないですよ。みんな仲良くやってますから。怖いのは外からくる人たちです」
大阪・淀川の河川敷で話を聞いたホームレスは柔和な笑顔で答えた。実際に河川敷に住んでいる人たちは穏やかな人が多く、お互いあまり干渉しないで愉しく生活しているようだった。河川敷にいるホームレスに虱潰(しらみつぶ)しに話を聞いてその日は帰宅した。
大阪も東京の河川敷ほどは多くはないが、居を構えている人はいる。東西を問わず、彼らに話を聞く限り、確かにホームレスは加害者より被害者であることが多い。
多摩川の河川敷で野宿者生活をする50代の男性に話を聞いた。
「夏になるとしょっちゅう石とか花火とかぶつけられるよ。近所の中学生か高校生たちだね。あとは河川敷でバーベキューをする大学生も質(たち)が悪い」
ある夏に小屋の中で彼が寝ていると、背中に液体がかかるのを感じたという。また雨漏りしたのだろうかと思った彼は、
「昨日は雨が降る空模様ではなかったけどな……」
何気なしに呟くと、突然背中に猛烈な熱を感じた。火だ、火が背中についている。すぐに飛び起きて、外に飛び出し、体を地面に押しつけて火を消そうとする。すると、ゲラゲラゲラと笑い声が聞こえてきた。
必死になって火を消し、そのまま見上げると、まだ幼さの残る顔の子供たちが自分を見下ろして笑っていた。
ライター用の燃料をかけられて、そこに火を放たれたのだ。それ以上の暴力は振るわれなかったが、背中が真っ赤に火傷してしまった。病院に行く金はないので、しばらくはうつ伏せで暮らした。酷く痛み、眠れなかったという。現在では痛みはひいたというが、時々、背中が引きつる感覚がある。
動けるまでに回復したころ、警察に相談しに行った。
「寝てるところを背中にオイルをかけられて燃やされたって言ったら『警察官はお前ら(ホームレス)の相手してるヒマはねえ!!』って怒鳴られたよ。それから警察は頼らないようにしてる。どうせ椅子にふんぞり返って仕事してる連中だよ。ホームレスを助けたって点数にならないだろうしな……」
警察署のある方向を睨みながら話した彼の、恨みのこもった目を今でも忘れられない。
若者がノリでホームレスを襲った事件は表面化したものがいくつかある。
だが計画的にホームレスを襲ったという噂話も耳にした。確証はないので地域名は伏せるが、某県の某商店街を取材しているときに聞いた話だ。
現場で耳にした「恐ろしい噂」
その商店街では店を閉めたあとに、ホームレスがダンボールを敷いて寝るのが常態化していた。なぜその通りにホームレスが集中するかといえば、アーケードがあったからだ。
夜半に雨が降っても濡れないのはホームレスにとってはありがたい。多くのホームレスは店がオープンする前に片付けて去るが、中にはゴミを残していったり、粗相をする人もいた。なので、ホームレスに対して不満を持つ店主も少なくなかった。
そして、その商店街でホームレスが襲われる事件が起きた。人通りのある場所で寝ているホームレスが襲われるケースは珍しくはない。ただそのときは、殺人にまで至った。
「頭が踏み割られていたらしいよ。寝ているところを、上から力任せにガンッって踏み潰したんだろうね……。苦しまずに死ねたならいいけど……」
事件について話してくれたのは、近くに住んでいたホームレス。
かなりエグい殺し方だが、あっという間のできごとで、証拠も残っていなかったのかもしれない。犯人は捕まらなかった。しばらくして、世間からは忘れられていった。
しかし話はここでは終わらなかった。変な噂を耳にするようになった。
「ホームレスに暴力を働いたのは地元の半グレの奴ら。でも彼らに依頼したのは、商店街の人たち」
数人から同じ話を耳にした。
にわかには信じがたい話だし、確証もない。ただ『商店街の人たちがホームレスを排除するために半グレの人に仕事を依頼した』という情報は広がっていた。
数年後の秋頃、再び淀川の河川敷を取材したのだが『ホームレスに怖い人はほとんどいないですよ』と言っていた男性のテントはなくなっていた。
ホームレスが仲間を無理やり生き埋めに
ホームレスがいなくなることは全然珍しいことではないので(むしろ同じ人に会えるほうが珍しい)、気にせずに取材を続けた。ホテルに帰って“淀川”を検索すると気になるニュースが出てきた。
「淀川の河川敷で、ホームレス仲間だった50代男性を生き埋めにして殺害し、現金を奪ったとして住所不定の男性二人が逮捕された」
二人の男性は約10年前、もうひとりの男性Sさんと河川敷で生活していたという。当時Sさんは50代、逮捕された二人は30代と40代だった。
Sさんはヘソクリで200万円を持っていた。野宿生活やそれに近い生活をしている人でも虎の子の現金を隠している人は少なくない。以前、大阪のドヤ街・西成の簡易宿泊施設で亡くなった人の部屋から2000万円が見つかったこともある。
二人はSさんが200万円を持っていることを知って、金を奪う目的でSさんを殺害した。ただ自供した男性が、人を殺して手に入れた金は40万円だったという。
記事によると殺害方法は非常に残酷だった。河川敷に穴を掘って、そこに生き埋めにしたのだ。
人を殺す方法はたくさんあるが、生き埋めは最も酷い殺し方のひとつだろう。しかも仲間だった男たちに無理やり生き埋めにされた。犯人の供述通り、河川敷からは男性の骨が発見されたという。
ちなみに犯人の男性は、自転車の窃盗で逮捕された際の取り調べで、殺人を自供した。もう10年も見つからなかった事件だ。いつか大規模な河川敷の工事があったときに、遺体が掘り起こされる可能性はあるが、今日明日にバレる心配はまずなかっただろう。
それなのになぜ自供したのだろうか?
「怖い人はいないですよ」
埋めた死体の近くで生活していくうちに、心がやられてしまったのかもしれない。罪から逃げることができても、良心の呵責や、罪悪感から逃げるのは難しい。毎夜、毎夜、地面の下に眠る男の遺体のことを考えたに違いない。俺にはそんな生活が何よりも怖く感じた。
あのとき、柔和な笑顔で質問に答えてくれた男が犯人である確証はない。ただ犯人が住んでいた場所のすぐ近くにいたようだ。当時は虱潰しに話を聞いていたから、犯人にも話を聞いていた可能性は高い。
俺が話を聞いていたときにはすでにSさんは埋められていたことだけは間違いがない。
「ホームレスに怖い人はほとんどいないですよ。怖いのは外からくる人たちですよ。みんな仲良くやってますから」
俺はその言葉を思い出して、背筋が冷たくなるのを感じた。
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